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海外在留邦人の医療ニーズ 人口構造・健康管理体制・メンタルヘルス課題から見る包括的な医療ニーズの実態
2026/6/17 09:16
海外在留邦人の医療ニーズ 人口構造・健康管理体制・メンタルヘルス課題から見る包括的な医療ニーズの実態
海外在留邦人の医療ニーズ
人口構造・健康管理体制・メンタルヘルス課題から見る包括的な医療ニーズの実態
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:英語対応オンライン医療アクセス支援プロジェクト
- 海外在留邦人の医療ニーズ
- 人口構造・健康管理体制・メンタルヘルス課題から見る包括的な医療ニーズの実態
- 1. はじめに――129万人という「もう一つの日本人社会」
- 2. 海外在留邦人の人口構造
- 2.1 全体数の推移
- 2.2 「長期滞在者」と「永住者」という2つの類型
- 2.3 地域別の分布
- 3. 企業による海外派遣者の健康管理体制
- 3.1 海外派遣前健康診断の実務
- 3.2 帯同家族の健康管理
- 3.3 中高年派遣者の生活習慣病管理
- 3.4 健康教育と携帯医薬品の指導
- 4. 海外在留邦人のメンタルヘルス課題
- 4.1 「精神医療過疎地」という構造的問題
- 4.2 海外生活に特有のストレス要因の体系化
- 4.3 地域別のストレス要因の違い
- 4.4 メンタルヘルス不調と身体疾患の見逃しリスク
- 4.5 海外旅行保険によるメンタルヘルス保障の限界
- 5. アレルギー疾患の文脈における海外在留邦人のニーズ
- 5.1 環境変化によるアレルギー症状の変動
- 5.2 慢性疾患管理の継続性確保
- 5.3 帰国後の再評価の重要性
- 6. 海外在留邦人向け医療支援の今後の方向性
- 6.1 オンライン診療・テレヘルスの活用
- 6.2 企業の健康管理体制の高度化
- 6.3 地域特性に応じたきめ細かな対応
- 7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
- 7.1 海外赴任者向け疾患管理情報の提供
- 7.2 メンタルヘルス領域における日系企業向け支援
- 7.3 産業医・健康管理担当者への教育支援
- 8. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――129万人という「もう一つの日本人社会」
外務省「海外在留邦人数調査統計」(令和7年/2025年10月1日現在)によれば、我が国の領土外に在留する邦人の総数は129万8,170人であり、前年(129万3,097人)とほぼ同数で推移している。日本の人口(約1億2,100万人)と比較すると、おおよそ94人に1人が海外に在留している計算になる(タビシタ「海外の日本人の人口2025年版」解説)。これは単なる統計上の数字ではなく、医療・健康に関する独自のニーズを持つ「もう一つの日本人社会」が、世界各地に存在することを意味している。
本レポートは、レポート17(海外滞在中・帰国後の医療アクセス)が制度・サービスの観点から海外在留邦人の医療アクセスを論じたのに対し、海外在留邦人という集団そのものの人口構造・特性・健康管理上の構造的課題・メンタルヘルスという、より構造的な視点からこの集団の医療ニーズを整理するものである。
海外在留邦人は、駐在員・帯同家族・永住者・留学生・退職後移住者など多様な属性を含み、それぞれが異なる医療ニーズを持つ。本レポートでは、外務省統計に基づく人口構造の分析・企業による海外派遣者健康管理の実務・海外在留邦人特有のメンタルヘルス課題・医療アクセスの地域差を、医師・医療従事者・企業の人事・健康管理担当者・製薬企業担当者が活用できる形で包括的に解説する。
2. 海外在留邦人の人口構造
2.1 全体数の推移
外務省「海外在留邦人数調査統計」の最新データ(令和7年/2025年10月1日現在)によれば、海外在留邦人総数は129万8,170人であり、前年(129万3,097人)とほぼ同数となっている。成人数は105万2,403人で、海外在留邦人全体の81.1%を占めている。
この数値の推移を見ると、令和2年(2020年)には新型コロナウイルスの影響により、平成元年(1989年)の統計開始以降初めて在外邦人の人数が前年より4年連続減少した時期があった(タビシタ解説)。しかしこの減少は主に長期滞在者によるものであり、永住者は増え続けているという特徴がある。
2.2 「長期滞在者」と「永住者」という2つの類型
海外在留邦人数調査統計では、邦人を以下の2つの主要な類型に区分している(外務省統計の用語定義)。
永住者:当該国カら永住権を認められている者(永住権を有しない者でも当該国に生活基盤を置き生活の本拠を我が国から海外へ移した邦人を含む)
長期滞在者:3か月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの邦人
令和7年(2025年)10月1日現在のデータでは、「長期滞在者」は70万9,684人(前年比-3,029人、-0.4%)で全体の54.7%を占め、「永住者」は58万8,486人(前年比+8,102人、+1.4%)となっている(外務省最新統計)。
この「長期滞在者は減少傾向、永住者は増加傾向」という構造は、近年一貫して観察されている特徴であり、駐在員のような一時的な海外勤務形態から、永住・移住という長期的な海外生活への構造変化を示唆している可能性がある。この構造変化は、医療ニーズの性質にも影響を与える。長期滞在者(駐在員型)は企業による健康管理体制の対象となりやすいが、永住者は個人としての医療アクセス確保がより重要な課題となる。
2.3 地域別の分布
地域別では、「北米」が海外在留邦人全体の最大シェアを占め、令和6年(2024年)データでは37.9%(49万681人)であり、昭和60年(1985年)以降一貫して首位を維持している(外務省報道発表)。次いで「アジア」(26.9%、34万7,975人)、「西欧」(16.7%、21万5,632人)の順となっており、これら3地域で全体の約82%を占めている。
国別では、アメリカが圧倒的な規模であり、海外在住日本人人口の約3割を占める(タビシタ解説)。2位のオーストラリアと比較して約4倍の規模となっている。
この地域分布は医療アクセスの観点から重要な意味を持つ。北米・西欧のような医療水準の高い先進国に多くの在留邦人が居住している一方、アジア地域(特に新興国)では医療水準・言語環境が日本と大きく異なる場合があり、地域別に異なる医療アクセス戦略が必要となる。
3. 企業による海外派遣者の健康管理体制
3.1 海外派遣前健康診断の実務
企業が社員を海外派遣する際の健康管理は、労働安全衛生法に基づく事業主の義務として位置づけられている。「海外勤務者の健康管理」(労働者健康安全機構・産業医学振興財団の研究報告)では、海外派遣前の健康診断に関する実務的な留意点が整理されている。
「海外派遣前の健康診断では、検査から出国までの期間が短いため、再検査や精密検査が時間的に困難になるケースがある。こうした事態を避けるため、健康診断は出国の1ヶ月以上前に行うようにしたい」(同報告)という実務的な助言は、海外派遣に伴うスケジュールの逼迫が健康管理の質に影響を与えるリスクを示している。
また「胃の検査については、胃カメラ検査を最初から実施する方が時間の節約になる」という指摘もあり、国内での再検査や精密検査が時間的に難しい場合は、現地の医療機関を紹介するという対応も示されている(同報告)。
3.2 帯同家族の健康管理
帯同する家族については、事業主が健康診断を実施する法的義務はないが、「配偶者に関しても、駐在員本人と同様の健康診断を実施することが望ましい」とされる(労働者健康安全機構研究報告)。また子どもについては、出国前の健康状態を記録する意味で、簡易的な健康診断の実施が推奨されている。
帯同家族は、駐在員本人とは異なる医療ニーズを持つ。配偶者は現地でのキャリア中断・社会的孤立に伴うストレス、子どもは現地教育環境への適応・予防接種スケジュールの管理といった、それぞれ特有の課題を抱える。
3.3 中高年派遣者の生活習慣病管理
「中高年者の場合は、派遣前健康診断で生活習慣病が発見され、経過観察が必要になるケースも多い。その一方で、海外派遣中の生活習慣病の生活指導や経過観察は、国内の方法では対応〔が難しい〕」(労働者健康安全機構研究報告)という指摘は、レポート3で詳述した生活習慣病管理の枠組みが、海外赴任という特殊な環境下では十分に機能しない可能性を示している。
特に高血圧・糖尿病・脂質異常症といった慢性疾患を持つ中高年派遣者にとって、現地での定期的なモニタリング・薬剤の継続的な入手・生活指導の継続といった課題は、レポート17で詳述した「主治医との事前相談・標準的薬剤への変更検討」という対応の重要性を改めて裏付けている。
3.4 健康教育と携帯医薬品の指導
派遣前の健康教育では、携帯医薬品についての指導も重要な要素となる。「海外の薬局で市販されている薬剤は、一般に含有量が多かったり、偽薬が流通していることもあり、感冒や下痢など頻度の高い疾病に関しては、日本から使い慣れた薬剤を携帯するように指導する」(労働者健康安全機構研究報告)とされており、レポート17で紹介した「みんなの家庭の医学」の常備薬リストとも一致する実務的知見である。
教育の方法には「ガイダンス形式や個別指導形式」があり、自社内での実施が難しい場合は、日本在外企業協会など公的機関が実施しているガイダンスへの参加も検討される(同報告)。これは、企業単独では十分な海外赴任前教育を提供できない中小企業にとって、外部リソースを活用する重要な選択肢である。
4. 海外在留邦人のメンタルヘルス課題
4.1 「精神医療過疎地」という構造的問題
海外在留邦人のメンタルヘルス課題において最も重要な構造的問題は、適切な精神医療へのアクセスの欠如である。在NY総領事館の資料(医務官による講演内容)では、「海外赴任者に神経症、うつ病の予備軍が多い事がわかります」「海外で自殺をされる方は交通事故で亡くなる方とほぼ等しい状況です」という深刻な実態が示されている。
書籍『海外生活ストレス症候群』(弘文堂)では、「海外ではこころの危機に瀕しても、日本語と日本文化を理解し、そのこころに寄り添えるメンタルヘルス専門家に出会える可能性は極めて低い。多くの海外邦人が、精神医療過疎地に住んでいると言える」という指摘がなされている。この「精神医療過疎地」という表現は、海外在留邦人のメンタルヘルスケアの困難さを端的に示す重要な概念である。
4.2 海外生活に特有のストレス要因の体系化
『海外生活ストレス症候群』では、駐在員本人と帯同家族それぞれについて、特有のストレス要因が体系的に整理されている。駐在員本人に関しては、慢性過重労働症候群(いつまで続く忙しさ)・抱え込み症候群(余人をもって代えがたいという責任感)・小規模事業所症候群(少人数組織でのドミノ倒し的な機能不全)・赴任延長症候群(赴任前と話が違う延長への不満)・ワークライフバランス葛藤症候群・マルチスタンダード混乱症候群(本社と現地基準の不一致による混乱)・サンドイッチ症候群(本社と現地スタッフの間で挟まれる立場)・依存助長症候群・再適応困難症候群(帰国後の再適応の困難さ)・愛憎は倍増症候群・やむをえず単身赴任症候群といった、計11の症候群が示されている。帯同家族についても別途複数の症候群が体系化されており、駐在員本人とは異なる特有の課題(キャリア中断・現地社会への適応・子どもの教育環境)が反映されている。
このような体系的な整理は、企業の健康管理担当者・産業医が、海外赴任者の不調を「個人の弱さ」としてではなく、海外生活という環境に内在する構造的なリスクとして理解するための重要な枠組みを提供している。
4.3 地域別のストレス要因の違い
保健指導リソースガイドの解説(厚生労働省「平成25年度脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」引用)では、海外駐在員のメンタルヘルス対策の困難さとして「産業医面談や健康相談の機会が少ない」「産業保健スタッフが海外駐在員まで対応できない」「相談窓口や問診票を設けているが、国・地域によってストレス要因が異なり全てに対応できない」という3つの課題が示されている。
「地域によりストレス要因は異なる」という指摘は重要である。例えば、治安への不安が強い地域・気候・生活インフラの違いが大きい地域・現地語でのコミュニケーションが極めて困難な地域では、それぞれ異なる種類のストレスが優位となる。一律のメンタルヘルス対策では、こうした地域特性に対応しきれないという課題が指摘されている。
4.4 メンタルヘルス不調と身体疾患の見逃しリスク
「こころの耳」(厚生労働省委託、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)に掲載された事例紹介「海外赴任中の人間関係ストレスによるメンタルヘルス不調と捉え、身体疾患が見逃された事例」は、海外在留邦人の医療における重要な臨床的教訓を提供している。
この事例では、海外赴任中に「抑うつ状態」と診断され、職場環境を要因とする心理的問題として扱われた患者が、実際には「失明の危険があるほど進行した副鼻腔炎」という重篤な身体疾患を抱えていたことが、退職後の精査で明らかになった。「産業医と精神科医はうつ反応の要因として難治性副鼻腔炎には余り気に留めず、また不眠はうつの症状だとして睡眠時無呼吸症候群には思い至らなかった」(こころの耳事例解説)という記述は、海外という環境下での限られた医療アクセスが、身体疾患の見逃しという深刻な結果につながりうることを示している。
この事例の教訓として「たとえ精神的な不調が認められていても、身体症状が顕著である場合には、まずは身体疾患の有無や程度を把握するための診断を受けることは、大変重要」(同解説)という指摘は、レポート1(睡眠時無呼吸症候群)・レポート8(喘息)で詳述した「見逃されやすい身体症状」が、海外赴任という特殊な環境下でさらに見逃しリスクを高めるという重要な接続を示している。
4.5 海外旅行保険によるメンタルヘルス保障の限界
『日本の人事部』の解説では、2021年にマーサーが日系企業を対象に実施した「海外赴任者医療保障に関する調査」(回答企業数107社)に基づき、88%の日系多国籍企業が海外旅行保険を駐在員の保障として提供していることが示されている。海外旅行保険はアジア圏で多くの日系医療機関とのキャッシュレス提携をしており、駐在員にとって使いやすい面がある。
しかし「メンタルヘルスケアとなると保障が不十分」という重要な限界が指摘されている。理由として、①メンタル関連の相談については全ての保険会社が対応しているわけではなく得意分野ではないこと、②精神疾患は治療が長期化する傾向があり通院も長くなる見込みであること、③短期の旅行者向けに作られた海外旅行保険では出国後180日を経過した後は保障がされないこと——という3点が挙げられている(同解説)。
この「180日」という期限は、長期滞在者(多くが1年以上の赴任期間を持つ)にとって、メンタルヘルスケアという最も継続的なケアを必要とする領域において、保険によるセーフティネットが機能しなくなる重大な制度的ギャップを示している。
5. アレルギー疾患の文脈における海外在留邦人のニーズ
5.1 環境変化によるアレルギー症状の変動
海外在留邦人は、日本とは異なる花粉・ダニ・カビ・大気汚染物質といった環境要因に暴露されるため、既存のアレルギー疾患(花粉症・アレルギー性鼻炎・喘息等)の症状パターンが変化する、あるいは現地特有の新たなアレルギー症状(地域特有の植物花粉・現地の住宅環境特有のダニ・カビ等)が出現する可能性がある。
5.2 慢性疾患管理の継続性確保
レポート17で詳述したように、舌下免疫療法・吸入ステロイド薬等の継続的な治療を受けている患者が海外赴任する場合、現地での治療継続が困難になるケースが多い。企業の健康管理担当者は、アレルギー疾患を持つ社員の海外赴任に際して、赴任前の主治医相談・治療方針の見直し・現地で入手可能な代替薬剤の確認といったプロセスを、前述の海外派遣前健康診断のスケジュールに組み込むことが望ましい。
5.3 帰国後の再評価の重要性
海外赴任から帰国した在留邦人が再び日本の生活環境(スギ・ヒノキ花粉等)に暴露される際、現地での生活で一時的に軽快していたアレルギー症状が再燃するケースもある。帰国後の健診・医療機関受診時には、海外での治療経過・使用していた薬剤情報の確認を含めた、丁寧な再評価が重要である。
6. 海外在留邦人向け医療支援の今後の方向性
6.1 オンライン診療・テレヘルスの活用
レポート17で詳述した日本語対応オンライン診療サービス(御用聞Dr.等)・Doctorfellowのような全診療科対応セカンドオピニオンサービスは、「精神医療過疎地」という構造的問題に対する有力な解決策となる可能性がある。特にメンタルヘルス領域においては、現地の言語・文化の壁を越えて日本語で相談できるオンラインサービスの価値が大きい。
6.2 企業の健康管理体制の高度化
前述のマーサー調査が示す海外旅行保険のメンタルヘルス保障の限界(180日の期限等)を踏まえ、企業は単に保険を提供するだけでなく、産業医による定期的なオンライン面談・帰国時の集中的な健康診断・現地での相談窓口の整備といった、複合的な健康管理体制の構築が求められている。
6.3 地域特性に応じたきめ細かな対応
「国・地域によってストレス要因が異なり全てに対応できない」という課題に対し、画一的な健康管理プログラムではなく、赴任先の地域特性(治安・気候・医療水準・言語環境)に応じてカスタマイズされた健康管理アプローチの重要性が増している。
7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
7.1 海外赴任者向け疾患管理情報の提供
製薬企業にとって、海外赴任前の社員・帯同家族に向けた疾患管理情報(慢性疾患の薬剤継続・現地での代替薬剤情報・アレルギー疾患の環境変化への対応)の提供は、企業の産業保健活動を支援する社会的価値の高い取り組みである。
7.2 メンタルヘルス領域における日系企業向け支援
海外旅行保険のメンタルヘルス保障の限界という構造的課題に対し、製薬企業(特に精神科領域の薬剤を扱う企業)が、日系企業の人事・健康管理担当者向けに、メンタルヘルスサポート体制構築に関する情報提供・教育コンテンツを提供することは、企業の海外派遣者支援体制の質向上に資する。
7.3 産業医・健康管理担当者への教育支援
「こころの耳」の事例が示すような身体疾患の見逃しリスクを踏まえ、製薬企業・医療機器企業が産業医・企業の健康管理担当者向けに、海外赴任者特有の臨床的留意点(メンタルヘルス症状の背後にある身体疾患の可能性等)に関する教育コンテンツを提供することは、海外在留邦人の医療安全向上に直接的に貢献する。
8. まとめ
129万8,170人(令和7年/2025年)という海外在留邦人の規模は、日本社会の構成員のおよそ94人に1人が海外に在留しているという、決して小さくない人口集団である。長期滞在者の減少と永住者の増加という構造変化は、海外在留邦人の医療ニーズが「一時的な海外勤務に伴う健康管理」から「長期的な海外生活における持続的な医療アクセス確保」へと、その重心を移しつつあることを示唆している。
企業による海外派遣前健康診断・帯同家族への配慮・中高年派遣者の生活習慣病管理という実務的な健康管理体制は一定程度整備されているが、「精神医療過疎地」という構造的問題、海外旅行保険のメンタルヘルス保障の限界(180日制限)、メンタルヘルス症状の背後にある身体疾患の見逃しリスクといった課題は、依然として大きく残されている。
海外在留邦人の医療ニーズに応えるためには、企業の健康管理体制の高度化・オンライン診療を活用した精神医療過疎地への対応・地域特性に応じたきめ細かな健康支援という複数のアプローチを組み合わせた、包括的な医療アクセス改善が求められている。
参考情報・出典
外務省領事局政策課「海外在留邦人数調査統計」令和7年(2025年)10月1日現在
外務省「海外在留邦人数調査統計」令和6年(2024年)10月1日現在(報道発表)
政府統計の総合窓口(e-Stat)「海外在留邦人数調査統計」
タビシタ「【海外の日本人の人口2025年版】在外邦人が多い国・都市ランキング」
経済まるみえ「海外在留邦人数調査統計(長期滞在者)」「海外在留邦人数調査統計(永住者)」
濱田篤郎・栗田直・松永優子「海外勤務者の健康管理」産業医学振興財団研究報告
保健指導リソースガイド「これからのメンタルヘルス対策 海外駐在員への対応が労使を守る」
『日本の人事部』「海外駐在員のメンタルヘルスケア~現状と必要なサポート~」(マーサー「海外赴任者医療保障に関する調査」2021年引用)
在NY総領事館「メンタルヘルス」(海外安全対策連絡協議会講演内容抜粋)
こころの耳(厚生労働省委託サイト)「海外赴任中の人間関係ストレスによるメンタルヘルス不調と捉え、身体疾患が見逃された事例」
弘文堂「海外生活ストレス症候群」(書籍解説)
本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。
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