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患者にやさしい医療コンテンツの書き方  プレインランゲージ・ヘルスリテラシーを踏まえた実践的なライティング技法

2026/7/1 08:43

患者にやさしい医療コンテンツの書き方  プレインランゲージ・ヘルスリテラシーを踏まえた実践的なライティング技法

患者にやさしい医療コンテンツの書き方

プレインランゲージ・ヘルスリテラシーを踏まえた実践的なライティング技法

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:疾患啓発コンテンツ・パートナーシッププロジェクト


1. はじめに――「正確に書く」と「伝わるように書く」は別の技術

レポート37で詳述した疾患啓発コンテンツの情報設計では、「何を書いてよいか・書いてはいけないか」という規制面のルールを整理した。本レポートは、そのルールの範囲内で「どう書けば実際に患者・一般人に伝わるか」という、ライティングそのものの技術に焦点を当てる。

医療コンテンツの執筆において陥りやすい誤解は、「医学的に正確であれば、それで十分である」という考え方である。しかし、正確性と伝わりやすさは別の次元の問題であり、いかに正確な情報であっても、読者が理解できなければ、その情報は実質的に届いていないのと同じである。レポート12で詳述したヘルスリテラシーの格差は、まさにこの「正確だが伝わらない」情報がもたらす構造的な課題を示している。

近年、日本政府もこの課題に正面から取り組んでいる。デジタル庁が策定を進める「ウェブコンテンツガイドライン」(2025年版草案)では、「プレインランゲージ」という概念が中心的な原則として位置づけられている。本レポートでは、このプレインランゲージの考え方、ヘルスリテラシーという概念の正確な理解、専門用語の言い換え手法、そして医療ライティングの実務的な依頼・制作プロセスを、製薬企業・医療機器企業の情報発信担当者・コンテンツ制作者・医療ライターが活用できる形で詳述する。


2. プレインランゲージという国家レベルの原則

2.1 デジタル庁ウェブコンテンツガイドラインにおける位置づけ

デジタル庁が策定するウェブコンテンツガイドライン(2025年版草案)では、プレインランゲージが「専門知識がなくても、一度読み聞きすれば理解できる」表現として定義されている。同ガイドラインでは「各府省は、利用者のニーズにあわせた情報を、利用者が理解できる表現、利用者が受容できる情報量で明快に表現し、提供する」という基本姿勢が明示されている。

この姿勢の根底にあるのが、「利用者が必要とする情報と、発信者側にとって重要な情報にはギャップがあることを踏まえ」るという認識である。情報発信者(医療機関・製薬企業)が「伝えたい」と思う内容と、読者が「知りたい」と思う内容には、しばしばズレが存在する。プレインランゲージの実践は、このズレを発信者側の視点ではなく、読者側の視点に立って埋めていく作業である。

2.2 法律用語等の言い換えという具体的な指針

同ガイドラインでは、より具体的な実践方法も示されている。「各府省は、法律用語等の難解な表現を用いることが利用者の理解を妨げる場合、文脈を加味した言い換えや、説明の併記等、利用者の概念理解を支援する表現での情報提供を行う」。

この「言い換え」と「説明の併記」という2つの手法は、医療コンテンツのライティングにも直接応用できる。例えば、「アナフィラキシー」という用語を完全に言い換えるのではなく、レポート26で詳述したMEDISMAの解説で示された手法のように「アナフィラキシー(急な重いアレルギー反応)」という形で説明を併記することが、専門用語の正確性を保ちながら理解を助ける実践的な方法である。

2.3 やさしい日本語との関係

同ガイドラインでは、プレインランゲージよりもさらに踏み込んだ配慮も示されている。「各府省は、日本語を母語としない人、高齢者、障害のある人等多くの人に情報を分かりやすく伝える必要がある場合、プレインランゲージよりも更に平易な表現であるやさしい日本語を用いた表現を行うよう努める」とされ、文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」が参考資料として明示されている。

これは、レポート18で詳述した「やさしい日本語」が、外国人患者対応という文脈だけでなく、高齢者・障害のある人を含む、より広い「分かりやすさを必要とする読者全般」への対応手法として、プレインランゲージという大きな枠組みの中に位置づけられることを示している。プレインランゲージが「専門知識がなくても理解できる」一般的な平易さであるのに対し、やさしい日本語はそれよりもさらに踏み込んだ、より基礎的な日本語表現への言い換えという位置づけである。

2.4 多様な表現方法の活用

同ガイドラインでは、テキストによる言い換えだけでなく、「各府省は、できるだけ図・表・写真・音声・動画等を利用する等、分かりやすい表現方法の活用を推進する」ことも求められている。医療コンテンツにおいても、複雑な病態生理・治療プロセスをテキストのみで説明するのではなく、図解・イラスト・動画を組み合わせることが、理解の促進に有効である。

2.5 アクセシビリティへの配慮

同ガイドラインでは、「各府省は、スクリーンリーダー等を用いている読者や、多様な色覚特性(赤色系を識別しにくい人等)に配慮するため、アクセシビリティに配慮した文章表現・装飾に努める」とされ、「『丸いボタン』『赤文字の箇所』『図の右上』等、色や形や位置にのみに依拠した表現を使わない」という具体的な禁止例も示されている。

これは、視覚的な情報伝達に依存しすぎず、テキストでも内容が正確に伝わる設計を求めるものであり、医療コンテンツのアクセシビリティ向上においても重要な視点である。


3. ヘルスリテラシーという概念の正確な理解

3.1 ヘルスリテラシーの定義

東京都医師会の解説では、「ヘルスリテラシー」を「健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと」と定義している。中外製薬の患者向け情報サイトでも、「ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を入手し、理解し、評価して、活用する能力のことで、情報に基づいた意思決定により『健康を決める力』ともいわれています」(聖路加国際大学・中山和弘教授の著書を引用)とされている。

この定義のポイントは、ヘルスリテラシーが単に「情報を理解する力」だけでなく、「入手」「理解」「評価」「活用」という4段階のプロセス全体を含む能力であるという点である。医療コンテンツの制作者は、読者がこの4段階のどこで困難を抱えているかを想定しながら、コンテンツを設計する必要がある。

3.2 日本のヘルスリテラシーの国際比較

東京都医師会の解説では、「複数の国を対象に行われた調査(ヨーロッパヘルスリテラシー質問用紙:HLS-EU-Q47)では、日本のヘルスリテラシーは欧米やアジア諸国と比べても低いという報告があります」とされている。さらに「コロナ禍により、私たちのデジタルリテラシーは向上しました……しかし、ヘルスリテラシーはどうでしょう」という問いかけは、デジタル機器の操作能力の向上と、健康情報を正しく理解・活用する能力の向上が、必ずしも並行して進んでいないという重要な指摘である。

この国際比較データは、医療コンテンツの制作において、日本の読者層が他国と比較して相対的に健康情報の理解・活用に困難を抱えやすいという前提を踏まえた、より丁寧な情報設計が必要であることを示している。

3.3 個人の体験談との向き合い方

中外製薬の患者向け情報サイトでは、ヘルスリテラシーが情報の信頼性を見極める力としても重要であることが指摘されている。「同じ病気を持つ方のブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、患者さんやご家族が集う掲示板サイトなどからは、経験者ならではの細やかで具体的な情報を知ることができます。しかし、その情報は個人の経験から得られたものであり、あくまでも『個人の意見』『その人の体験』です。情報のすべてがご自身に当てはまるとは限りません」。

この指摘は、製薬企業・医療機器企業が提供する疾患啓発コンテンツが、個人のブログ・SNSとは異なる「科学的・客観的根拠に基づく情報源」としての価値を持つことを、コンテンツ自体の中で読者に伝える工夫の重要性を示している。


4. 医療ライティングの実務――誰に依頼するか

4.1 医療ライターとメディカルライターの違い

兼松ウェルネス株式会社の解説では、医療コンテンツの依頼において混同されやすい2つの専門職の違いが明確に整理されている。「医療ライターは医療や健康に関わる幅広い情報をメディアなどに掲載するために、一般の人にも分かりやすい言葉や表現でライティングすることを仕事にしています。一方、メディカルライターは医薬品や医療機器の開発から承認申請、製造販売後の再審査等に必要な文書を作成するいわば専門職です」。

この区別は、コンテンツの依頼先を選定する上で重要である。一般人向けの疾患啓発コンテンツ・患者向けコンテンツの制作には「医療ライター」が適しており、治験薬概要書・CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント、医薬品承認申請のための日米EU共通の国際共通化資料)のような専門性の高い文書には「メディカルライター」が適している。両者の専門性は異なるため、依頼前にどちらの専門性が求められる内容なのかを明確にする必要がある。

4.2 依頼先選定における確認事項

同解説では、依頼先選定の実務的なポイントも示されている。「実際に依頼する段階になったとき、今回つくりたい記事の内容がWEB媒体・紙媒体に掲載するための医療関連記事なのか、それとも治験薬概要書や医薬品申請のために必要なCTDのようなより専門性に特化した内容のものなのかをしっかりと確認したうえで依頼先を決めることが重要です。依頼先が今回つくりたい記事の内容と同等のライティング経験を持ち合わせているかについても確認してみるといいでしょう」。

4.3 規制遵守と読みやすさの両立

同解説が紹介する制作プロセスでは、「豊富な医療知識と経験を持つ医療ライターが最新のエビデンスを基に、薬機法や製薬協のプロモーションコードを遵守し、正確かつ読みやすい文章に仕上げます」という表現で、規制遵守(薬機法・製薬協コード)と読みやすさという2つの要請を同時に満たすことが、医療ライティングの本質的な使命であることが示されている。これは、レポート37で詳述した規制面の要請と、本レポートで論じる「伝わりやすさ」という要請が、対立するものではなく、両立すべき統合的な目標であることを裏付けている。


5. 専門用語集という基礎資源の活用

5.1 医療情報基礎用語集の存在

日本医療情報学会医療情報技師育成部会が発行する「医療情報基礎用語集 第2版」(令和7年3月26日)のような専門用語集は、医療コンテンツ制作者が用語の正確な定義・言い換え方法を確認する際の重要な基礎資源である。同用語集の凡例では、「固有名詞を除き、3音以上の長音記号は省略して表記」「英語表記は、略称および略称に該当する文字は大文字、それ以外は小文字として表記」といった、表記の統一ルールまで定められている。

5.2 厚生労働省「医療情報ネットの用語解説」

厚生労働省が公開する「医療情報ネットの用語解説」(2025年12月25日版)は、一般の人々が医療機関の情報を検索する際に出会う用語(「管理者」「診療日」等)を平易に解説したものである。「用語によっては、参考となる情報を掲載しているURLを併せて記載していますので、より詳しい内容を知りたい場合はそちらにアクセスしてください」という設計は、本文では簡潔な説明にとどめつつ、より詳しい情報への参照リンクを用意するという、情報の階層化の実践例である。

5.3 用語の言い換え実践における留意点

医療・介護現場向けの用語集(例:ぬまたとね医療・介護連携相談室「医療・介護略語・専門用語集」)を確認すると、医療現場では日常的に使われる略語・専門用語(「カニューレ」「含嗽」「side effect」等)が、一般読者には全く伝わらない可能性があることがわかる。医療コンテンツの執筆者は、自身が医療従事者である場合、こうした用語が「当然知っている」という思い込みに陥りやすいため、執筆後に医療従事者でない第三者によるレビュー(読みやすさの検証)を経ることが実務上有効である。


6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践

6.1 専門用語の言い換え例

本レポートシリーズで扱ってきたアレルギー疾患・睡眠医療領域の専門用語について、プレインランゲージの考え方に基づいた言い換え例を以下に示す。

専門用語

言い換え・説明の併記例

アナフィラキシー

アナフィラキシー(息苦しさや血圧の低下を伴う、急で重いアレルギー反応)

無呼吸低呼吸指数(AHI)

無呼吸低呼吸指数(睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする回数を示す数値)

舌下免疫療法

舌下免疫療法(アレルギーの原因となる物質を少しずつ舌の下から取り入れて体を慣らす治療法)

アドヒアランス

アドヒアランス(治療方針を理解し、自分の意思で治療を続けること)

レポート26で詳述したWeb問診の設計で示したように、専門用語に括弧書きで平易な説明を加える手法は、問診票だけでなく、疾患啓発コンテンツ全般において有効な技法である。

6.2 図解・イラストの活用が効果的な領域

レポート1で詳述したSASの病態生理(上気道の閉塞メカニズム)・レポート8で詳述した喘息の気道炎症のような、身体内部の構造的な変化を説明する内容は、テキストのみでは理解が難しく、図解・イラストの活用が特に効果を発揮する領域である。

6.3 「個人差があります」という注記の適切な使い方

レポート23で詳述した医療広告ガイドラインで「『個人差があります』だけの注釈では不十分とされる事例もある」と整理したように、わかりやすさを追求する上でも、効果や経過に関する説明を単純化しすぎることで、個人差という重要な前提を読者に正確に伝えられなくなるリスクがある。プレインランゲージの実践は「簡単に書く」ことと「省略する」こととは異なるという点に、常に注意を払う必要がある。


7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意

7.1 ライティング段階でのプレインランゲージチェック

レポート37で詳述した社内審査体制に、規制遵守の観点だけでなく、「専門用語が適切に言い換えられているか」「一般読者が理解できる表現になっているか」というプレインランゲージの観点からのチェック項目を組み込むことが、コンテンツの質を高める実務的な工夫である。

7.2 医療ライターとの協業体制の構築

兼松ウェルネスの解説が示すように、規制遵守と読みやすさを両立させるためには、薬機法・製薬協コードの知識を持つ医療ライターとの協業が有効である。社内のメディカル部門・コンプライアンス部門と、外部の医療ライターとの間の円滑な連携体制を構築することが、質の高い疾患啓発コンテンツの制作を支える。

7.3 ヘルスリテラシーレベルに応じたコンテンツの階層化

日本のヘルスリテラシーが国際比較で低いという現状を踏まえ、すべての読者に同一レベルの専門性でコンテンツを提供するのではなく、概要を平易に説明する入口のコンテンツと、より詳しい情報を求める読者向けの詳細なコンテンツを階層化して提供する設計(前述の厚生労働省「医療情報ネットの用語解説」のような参照リンク方式)が、幅広い読者層に対応する実践的なアプローチである。


8. まとめ

患者にやさしい医療コンテンツの書き方は、「正確に書く」という医学的な要請と、「伝わるように書く」というコミュニケーション上の要請を、対立するものではなく両立すべき統合的な目標として捉えることから始まる。

デジタル庁のウェブコンテンツガイドラインが示す「プレインランゲージ」という原則——専門知識がなくても理解できる表現・法律用語等の言い換えと説明の併記・図表や動画の活用・アクセシビリティへの配慮——は、医療コンテンツの制作においても直接応用できる実践的な指針である。さらに高齢者・外国人等への対応として、プレインランゲージよりも踏み込んだ「やさしい日本語」という選択肢も存在する。

日本のヘルスリテラシーが国際比較で低いという現実、そして「情報を入手し、理解し、評価して、活用する」という4段階のプロセス全体を支援するという視点は、医療コンテンツ制作者が単に文章を簡単にするだけでなく、読者が情報を正しく評価・活用できるよう導く責任を持つことを示している。

医療ライターとメディカルライターという専門性の違いを理解した適切な依頼先選定、専門用語集を活用した正確な言い換え、そして「個人差があります」という注記の安易な使用を避けるなど省略のリスクへの注意——これらの実践を組み合わせることが、規制を遵守しながら本当に患者・一般人に伝わる医療コンテンツを実現する道筋である。


参考情報・出典

  • デジタル庁「ウェブコンテンツガイドライン(草案)」2025年版(プレインランゲージ・やさしい日本語・アクセシビリティの規定)

  • 文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」

  • 公益社団法人東京都医師会「ヘルスリテラシー」(HLS-EU-Q47国際比較データ)

  • 中外製薬「ヘルスリテラシーとは、情報を入手し活用する力|NMOSDと生きる」(聖路加国際大学・中山和弘教授『これからのヘルスリテラシー 健康を決める力』講談社、2022年、引用)

  • 兼松ウェルネス株式会社「医療ライティングのすすめ~質の高い医療記事を提供するには?」

  • 日本医療情報学会医療情報技師育成部会「医療情報基礎用語集 第2版」令和7年3月26日

  • 厚生労働省「医療情報ネットの用語解説(医療)」2025年12月25日版

  • ぬまたとね医療・介護連携相談室「現場でよく使われる医療・介護 略語・専門用語集」令和6年度版


本レポートは公開情報・行政情報に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。

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