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いびきと日中の眠気を見逃さないために  症状の臨床的意義・鑑別診断・スクリーニング戦略の実践的解説

2026/6/15 08:36

いびきと日中の眠気を見逃さないために  症状の臨床的意義・鑑別診断・スクリーニング戦略の実践的解説

いびきと日中の眠気を見逃さないために

症状の臨床的意義・鑑別診断・スクリーニング戦略の実践的解説

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:睡眠時無呼吸症候群 啓発プロジェクト


1. はじめに――「よくある症状」の中に潜む見逃しリスク

「いびきをかく」「日中に眠くなる」――これらは日常的に見聞きする訴えであり、多くの場合、本人も家族も「疲れているだけ」「体質的なもの」として深刻に受け止めない。しかし医療従事者の視点から見れば、これらの症状は睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)を含む睡眠呼吸障害の主要なサインであり、放置した場合には高血圧・心疾患・脳卒中・糖尿病・認知機能低下といった重篤な合併症に至る可能性がある。 

日本における習慣性いびきの有病率は男性で24.6%、女性で5.1%に達するとされており(国内疫学調査)、潜在的なスクリーニング対象者は非常に広範にわたる。一方で、国内の推計SAS患者数は300〜940万人に上るとされながら、CPAP療法を受けているのは約64万人程度にとどまる(日本呼吸器学会監修「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」)。この巨大な診療ギャップを埋めるためには、「いびき」と「日中の眠気」という二大症状を、臨床の最前線で適切に評価・トリアージする仕組みが不可欠である。

本レポートでは、いびきおよび日中の眠気の病態・臨床的意義・鑑別診断・スクリーニング手法・受診勧奨のための実践的戦略を、医師・医療従事者・製薬企業担当者が活用できる形で詳述する。


2. いびきの病態と臨床的位置づけ

2.1 いびきとは何か――音響現象としての定義

いびきは医学的に、「軟口蓋・舌・咽頭壁などの上気道の軟部組織が振動することで発生する音響現象」と定義される(MSDマニュアル プロフェッショナル版)。睡眠中に筋肉が弛緩して舌根や軟口蓋が後退すると上気道が狭窄し、吸気時に空気が狭い通路を通ることで軟部組織が振動し、特有の音が生じる。

ヒトの上気道は発声に有利な進化を遂げた結果、軟部組織のみの部位が長くなり、他の哺乳類と比較していびきが起きやすい構造を持つ。健康な成人でも、飲酒・肉体疲労・仰臥位での睡眠などによって一時的にいびきをかくことがある。

2.2 いびきのスペクトラム――単純性いびきからOSAまで

いびきは単一の疾患ではなく、臨床的重症度の異なる複数の病態を含む連続したスペクトラムを形成する。MSDマニュアル プロフェッショナル版(2024)では、いびきは「上気道抵抗症候群(UARS)からOSAまでの広いスペクトラムをカバーする睡眠呼吸障害の一症状」と位置づけられている。

単純性いびき(Primary Snoring):AHI 5未満で無呼吸・低呼吸を伴わず、睡眠構築の乱れや日中の眠気を認めない状態。いびきそのものによる直接的な生理学的有害性は明確ではないとされるが、同居者の睡眠障害・QOL低下をもたらす社会的問題でもある。ただし単純性いびき症患者においても、いびき音の強度と日中の血圧との相関を認めた研究、および頸動脈硬化症との関連を指摘する研究が存在し、経過観察は必要である。

上気道抵抗症候群(UARS):気道抵抗の上昇により呼吸努力関連覚醒(RERA:Respiratory Effort-Related Arousal)が繰り返すが、明確な無呼吸・低呼吸やSpO₂低下は伴わない。日中の過度の眠気や疲労感をきたすにもかかわらず、通常のOCST(在宅簡易モニター)では検出されにくく、PSGによる精密評価が必要となる場合がある。OSAの前段階として捉えられることが多い。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA):AHI 5以上かつ自覚症状(日中の眠気等)を伴う、あるいはAHI 15以上の状態。いびきは気道が完全に閉塞する前段階の音響現象であり、多くのOSA患者はいびきを伴う。ただし「いびきをかく人=SAS」ではなく、逆に「OSA患者のほとんどはいびきをかく」という関係であることに注意が必要である。

2.3 いびきの危険因子と増悪因子

MSDマニュアル プロフェッショナル版(2024)では、いびきの主な危険因子として以下が列挙されている。

  • 解剖学的要因:大きな扁桃・アデノイド、大きな舌(舌肥大)、軟口蓋の低位・延長、小顎症、鼻中隔弯曲、鼻茸(鼻ポリープ)

  • 全身的要因:肥満(特に頸部周囲径の増大)、加齢

  • 生活習慣的要因:アルコール摂取(上気道筋弛緩作用)、ベンゾジアゼピン系薬・筋弛緩薬・鎮静薬の使用、喫煙

  • 体位的要因:仰臥位(背臥位)での睡眠

日本人のSASにおいては、欧米人と比較して肥満度が低くても発症しやすい特性があり、小顎症・骨格形態の違いが関与するとされる(SASガイドライン2020)。臨床評価において「非肥満だからSASはない」という思い込みは危険であり、顔面形態・頸部形態の評価が重要となる。

2.4 いびきの問診における重要ポイント

MSDマニュアル家庭版(2024)では、いびきを訴える患者またはその同居者に対して確認すべき事項として以下が示されている。

  • 毎晩いびきをかくか、頻度はどのくらいか

  • 一晩中いびきをかいているか、それとも特定の時間帯のみか

  • 夜間に呼吸が止まる、喘ぐ、息詰まりのエピソードがあるか

  • 朝に頭痛があるか、または目覚めてもすっきりしない感覚があるか

  • 日中にどの程度の眠気があるか

  • 合併疾患(高血圧・心疾患・脳卒中・糖尿病・心房細動・うつ病等)の有無

  • 飲酒量・就寝前の飲酒習慣

  • 鎮静薬・筋弛緩薬の使用状況

これらの問診項目を体系的に確認することで、単純性いびきとOSAを含む睡眠呼吸障害の鑑別の第一歩となる。


3. 日中の眠気(EDS)の臨床的評価

3.1 日中の過度の眠気(EDS)とは

日中の過度の眠気(Excessive Daytime Sleepiness:EDS)は、SASの最も一般的な自覚症状のひとつであるが、同時に多くの患者が「疲れているだけ」「歳のせい」と過小評価する症状でもある。千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学の解説では、「自覚症状として最も多いのが日中の眠気」とされている。

EDSが問題となるのは、以下の2つの側面においてである。

生理的側面:EDSは睡眠中の反復する無呼吸・覚醒反応による睡眠構築の乱れを反映する。深睡眠(徐波睡眠)とREM睡眠が断片化・減少することで、睡眠の回復機能が著しく低下し、翌日に持ち越される疲労・眠気として現れる。

社会的・安全的側面:EDSによる判断力・反応速度・集中力の低下は、交通事故・労働災害・医療ミスなどのリスク要因となる。SAS患者の交通事故発生率は一般ドライバーの約2.5倍、SASのない人と比べて約7倍にのぼるとされる。

3.2 Epworth Sleepiness Scale(ESS)による客観的評価

ESSは1991年にオーストラリア・エプワース病院のJohns MWによって作成された日中の主観的眠気を測定する標準的ツールであり、英国胸部疾患学会のガイドラインをはじめ世界各国で使用されている(Qualitest株式会社解説)。

日本語版(JESS:Japanese version of ESS)は日本呼吸器学会睡眠時無呼吸症候群に関する検討委員会の委託を受けて作成されており、福原俊一ら(日本呼吸器学会雑誌2006;44:896-8)による標準化が行われている。

ESSは以下の8つの場面での「うとうとする可能性」を0〜3点で評価し、合計0〜24点で眠気を定量化する。

場面

評価軸

座って読書しているとき

0:うとうとしない〜3:高い確率でうとうとする

テレビを見ているとき

同上

会議・劇場などで静かに座っているとき

同上

乗客として1時間以上車に乗っているとき

同上

午後に横になって休息しているとき

同上

座って人と話しているとき

同上

アルコールなしの昼食後に静かに座っているとき

同上

車を運転中に信号などで数分止まっているとき

同上

スコアの解釈

  • 0〜9点:正常範囲

  • 10点以上:専門医への相談を要する過度の眠気

  • 11〜15点:軽〜中等度の睡眠時無呼吸の可能性

  • 16点以上:重症の睡眠時無呼吸またはナルコレプシーの可能性

ESSは臨床現場での初期スクリーニングとして有用であるが、患者の主観に依存するため、ESS単独でのSAS診断は不十分であり、客観的な睡眠検査との組み合わせが必須である。また、SAS患者の約半数は日中の眠気を自覚していないという報告もあり(SASガイドライン2020)、ESSスコアが低くても検査が不要とはならない点に注意が必要である。

3.3 EDSの鑑別診断

日中の眠気はSAS以外にも多様な原因によって生じる。臨床的に重要な鑑別診断を以下に示す。

睡眠不足・睡眠衛生の問題:慢性的な睡眠不足(睡眠負債)、不規則な睡眠スケジュール、就寝前のスマートフォン使用による光刺激等。

ナルコレプシー:オレキシン(ヒポクレチン)神経系の障害による過眠症。情動脱力発作(カタプレキシー)・睡眠麻痺・入眠時幻覚の3徴候を伴うことがある。突然強烈な眠気に襲われる「睡眠発作」が特徴的で、ESS 16点以上の症例では鑑別を要する。

特発性過眠症(Idiopathic Hypersomnia):明確な原因なく日中の過眠が続く疾患。SASと異なり夜間の睡眠は長く、起床困難・睡眠慣性(sleep inertia)が強い。

周期性四肢運動障害(PLMD)・むずむず脚症候群(RLS):睡眠中の四肢の周期的運動や就寝時の下肢不快感により睡眠が断片化し、EDSをきたす。SASとの合併例も多い。

うつ病・双極性障害:過眠が主訴となる場合があり、特に双極性障害の抑うつ相では顕著。睡眠構築の評価が鑑別に有用。

甲状腺機能低下症・貧血:全身疾患による倦怠感・疲労感がEDSとして表現される場合がある。基本的な血液検査が鑑別の一助となる。

薬剤性:抗ヒスタミン薬・ベンゾジアゼピン系・抗精神病薬・抗てんかん薬など、多くの薬剤がEDSの副作用を持つ。

SASのスクリーニングにおいては、これらの鑑別を念頭に置きながら、問診・身体所見・臨床検査を組み合わせた総合的な評価が求められる。


4. SASを示唆する症状の全体像

4.1 夜間症状

SASを示唆する夜間症状には以下のものがある。

  • 習慣性いびき:毎晩・規則的に生じるいびき。断続的で大きくなったり止まったりするパターン(いびき→途絶→喘ぎ声→再開)が特徴的

  • 観察された無呼吸:同居者・配偶者によって目撃された呼吸停止エピソード。SAS診断における重要な他覚的情報

  • 夜間の覚醒・中途覚醒:無呼吸終了時の覚醒反応による頻繁な目覚め

  • 夜間頻尿:SASに伴う心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌増加が夜間多尿をもたらすとされており、夜間頻尿の訴えはSASのスクリーニングポイントのひとつとなる

  • 夜間発汗:交感神経亢進に伴う発汗

  • 胃食道逆流症状(GERD):陰圧呼吸努力による胃食道逆流の増加

4.2 日中・起床時症状

  • 日中の過度の眠気(EDS):最も代表的な自覚症状

  • 起床時の頭痛:夜間の低酸素血症・高炭酸ガス血症による血管拡張が一因とされる。「睡眠時無呼吸性頭痛(Sleep apnea headache)」として国際頭痛分類(ICHD-3)にも収載されている

  • 起床時の口腔乾燥感:口呼吸・いびきに伴う

  • 熟眠感の欠如・疲労感:十分な睡眠時間をとっても疲れがとれない感覚

  • 集中力・記憶力の低下:睡眠断片化と間欠的低酸素血症による認知機能への影響

  • 易刺激性・気分変動:慢性的な睡眠不足による情動制御の低下

  • 性機能の低下:男性ではテストステロン低下との関連が示唆されている

4.3 症状が自覚されにくい理由

SAS患者が症状を見逃しやすい・過小評価しやすい主な理由は以下の3点に集約される。

第一に、症状の非特異性。「疲れている」「歳をとった」「仕事が忙しい」という日常的な説明で容易に解釈できてしまう。

第二に、睡眠中の出来事への無自覚性。本人は無呼吸を経験しているにもかかわらず、翌朝の記憶には残らない。SAS患者の約半数が日中の眠気を自覚していないという事実(SASガイドライン2020)は、自覚症状への依存が過剰なスクリーニングの限界を示している。

第三に、一人暮らし世帯の増加。近年の単独世帯率の上昇により、いびきや無呼吸を観察・指摘してくれる同居者がいないケースが増えている。配偶者からの指摘による受診が診断のきっかけとなる典型的なパターンが機能しにくい状況が生まれている。


5. STOP-BANGスコアを用いたスクリーニング戦略

5.1 STOP-BANGの概要と有用性

STOP-BANGは、OSAのリスクを手短に評価するための8項目からなる質問票であり、術前スクリーニング・プライマリケア・産業保健の場面で広く活用されている。各項目の頭文字からSTOP-BANGと命名されている。

項目

質問内容

Snoring

大きないびきをかくか(パートナーや別室の人に聞こえるほど)

Tired

日中に疲れていたり眠かったりすることが多いか

Observed

睡眠中に呼吸が止まるのを他者に観察されたことがあるか

Pressure

高血圧の治療を受けているか、または高血圧を指摘されたことがあるか

BMI

BMIが35以上か

Age

年齢が50歳以上か

Neck

頸部周囲径が男性40cm・女性35cm以上か

Gender

男性か

スコアの解釈

  • 0〜2点:OSA低リスク

  • 3〜4点:OSA中等リスク

  • 5〜8点:OSA高リスク(精密検査を強く推奨)

STOP-BANGは感度が高く、高リスク症例のスピーディな抽出に適している。一方で特異度はやや低いため、3点以上の高リスク者に対して次のステップとしての睡眠検査への誘導が重要となる。

5.2 プライマリケアにおけるスクリーニングフロー

プライマリケア・一般内科・企業健診の場面において、以下のフローに沿ったスクリーニングが実践的である。

ステップ1:問診による症状の把握 習慣性いびき・日中の眠気・起床時頭痛・夜間頻尿・観察された無呼吸の5項目を問診に組み込む。

ステップ2:ESSおよびSTOP-BANGによる定量評価 ESS 10点以上またはSTOP-BANG 3点以上を要経過観察ラインとして設定する。

ステップ3:身体所見の評価 肥満(BMI・腹囲)・頸部周囲径・口腔内所見(Mallampati分類・扁桃肥大・小顎症)・血圧を確認する。

ステップ4:在宅簡易モニター(OCST)の処方または専門医への紹介 STOP-BANG 3点以上またはESS 10点以上かつ上記身体所見のリスク因子を有する場合は、在宅簡易モニター検査の実施または睡眠専門医への紹介を検討する。

ステップ5:PSGによる精密評価 OCSTで診断が確定しない場合(AHI 40未満・波形品質不良・UARS疑い等)はPSGへ移行する。


6. 特定集団におけるスクリーニングの重要性

6.1 高血圧患者

日本高血圧学会の診療ガイドラインでは、SASが二次性高血圧の原因疾患のひとつに位置づけられている。治療抵抗性高血圧(3剤以上の降圧薬使用でも目標達成しない高血圧)においては、背景にSASが存在する割合が高いとされており、降圧治療を行いながらも血圧コントロールが不良な症例に対するSASスクリーニングは特に重要である。

6.2 糖尿病・メタボリックシンドローム患者

SASの重症度が増すごとに糖尿病合併率が上昇するというデータが示されており(Am J Respir Crit Care Med 2005)、インスリン抵抗性との関連メカニズムも解明が進んでいる。2型糖尿病患者およびメタボリックシンドローム患者に対するSASスクリーニングは、内分泌内科・糖尿病内科・管理栄養士との連携においても重要な視点となる。

6.3 自動車運転者・職業ドライバー

国土交通省は「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」を作成し、事業用自動車運転者のSASスクリーニングを推奨している。STOP-BANG等を活用した定期スクリーニングの組み込みが求められており、産業医・産業看護師との連携のもとで職域保健において実施される。

6.4 術前患者

OSAが認識されていない患者では、中等度以上の鎮静や全身麻酔が気道閉塞のリスクとなり、周術期合併症の頻度が増加するとされる(MSDマニュアル プロフェッショナル版2024)。OSAと診断された患者は、すべての手術前に麻酔科医に報告し、術前薬投与時および回復期にCPAPを使用すべきとされている。術前スクリーニングとしてSTOP-BANGは広く活用されており、外科系診療科・麻酔科との連携において重要な評価ツールとなる。

6.5 閉経後女性

女性のSASは閉経後に有病率が急増する。閉経前はプロゲステロンが上気道筋緊張の維持に寄与しているが、閉経後にプロゲステロンが低下することで上気道筋の弛緩が進みやすくなる。さらに、女性のSASはいびきが目立たない・日中の眠気よりも疲労感や睡眠の質の低下として現れやすいなど、症状パターンが男性と異なる場合が多く、見逃しリスクが高い。更年期外来・産婦人科においてもSASスクリーニングの視点を持つことが重要である。

6.6 精神疾患患者

うつ病患者の相当数にSASが潜在しているとされており、睡眠障害・EDSをうつ病の症状のみとして解釈した場合にSASが見落とされる。精神科・心療内科においてもSASの合併を念頭に置いた評価が推奨される。特に、抗うつ薬・抗精神病薬・ベンゾジアゼピン系薬の処方がいびきやSASを悪化させる可能性があることも考慮すべきである。


7. 医療現場での見逃しを減らすための実践的アプローチ

7.1 問診票への組み込み

外来・健診における問診票に、いびきの頻度・ESSの簡略版・起床時頭痛・夜間頻尿・他者から無呼吸を指摘された経験の有無を組み込むことで、見落とされやすいSASのサインを系統的に把握することができる。東京医科大学病院循環器内科の症例報告では、「妻にいびきを指摘された」という一言が重症SASの診断につながった事例が紹介されており、他覚的情報収集の重要性が改めて示されている。

7.2 かかりつけ医・一般内科における役割

高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病患者を定期的に診察するかかりつけ医・一般内科こそが、SASの早期発見において最も重要なゲートキーパーである。生活習慣病の定期受診時に、いびきや日中の眠気に関する簡易的な問診を加えるだけで、スクリーニング機会は大幅に増加する。在宅簡易モニター検査の処方が可能な医療機関では、その場で検査の手配を行うことができるため、「専門医への紹介→初診待機→検査」という長い時間的遅延を回避できる。

7.3 患者教育における情報設計

「いびきは自覚できない」「EDS半数は自覚なし」という事実は、患者に対してどのように伝えるべきかという情報設計上の重要課題である。「あなたは自分では気づいていないかもしれないが、同居者に聞いてみてほしい」「疲れているだけと思っていても、SASの可能性がある」という文脈での説明が、受診動機の喚起につながりやすい。

特に、「いびきをかく人は生活習慣病・心臓病・交通事故のリスクが高い」という社会的影響の観点は、「自分だけの問題」という認識を変える上で効果的なメッセージとなる。


8. いびきと眠気を「見逃さない」ための医療連携

8.1 診療科横断的な連携体制

SASは、内科・呼吸器科・循環器科・耳鼻咽喉科・精神科・歯科・口腔外科・産業医学が関与する横断的疾患である。SASガイドライン2020では、これら複数学会が外部評価に参加しており、多科連携の重要性が明示されている。

実践的には以下の連携フローが有効である。

  • 一般内科・プライマリケア:スクリーニング・在宅簡易モニター検査の処方・初期評価

  • 呼吸器内科・睡眠専門外来:PSG・精密診断・CPAP導入・継続管理

  • 循環器内科:SAS合併の高血圧・心房細動・心不全患者の並行管理

  • 耳鼻咽喉科:解剖学的異常の評価・外科的治療の適応判断

  • 歯科・口腔外科:口腔内装置(OA)の製作・管理

  • 産業医・保健師:職域スクリーニング・職場での受診勧奨

  • 精神科・心療内科:精神疾患合併例のSAS評価

8.2 製薬企業・医療機器企業との連携における視点

製薬企業・医療機器企業の担当者にとって、いびき・EDSというスクリーニングポイントの理解は、医師向け疾患啓発・検査機器の普及・CPAP関連デバイスの適正使用推進においても重要な基盤知識となる。特に、「検査対象患者の特定」「医療機関での運用支援」「患者教育ツールの開発」という3つの軸で、臨床現場とのコミュニケーション設計を行うことが求められる。


9. まとめ

いびきと日中の眠気は、「ありふれた症状」として見過ごされがちであるが、背景にSASが潜在する場合には高血圧・心疾患・糖尿病・認知機能低下・交通事故という深刻なアウトカムとつながっている。日本における習慣性いびきの有病率は男性24.6%に達し、中等症以上のSAS潜在患者は940万人と推計されるにもかかわらず、治療を受けているのはわずか64万人程度という現実は、スクリーニングと診断アクセスの重大な課題を示している。

SASの見逃しを減らすためには、ESSおよびSTOP-BANGによる系統的スクリーニング・高リスク群(高血圧・糖尿病・肥満・術前患者・職業ドライバー・閉経後女性・精神疾患患者)への重点的なアプローチ・かかりつけ医によるゲートキーパー機能の強化・診療科横断的な連携体制の整備が不可欠である。

「いびきをかく」「日中に眠い」という患者の一言を、単なる生活上の不便として流さない臨床的態度こそが、SASの早期発見・早期介入につながる最初の一歩となる。


参考情報・出典

  • 日本呼吸器学会・厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業班監修「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」南江堂,2020

  • 福原俊一ら「日本語版the Epworth Sleepiness Scale(JESS)」日本呼吸器学会雑誌 2006;44:896-8

  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「いびき」2024年更新版

  • MSDマニュアル プロフェッショナル版「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」2024年更新版

  • 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)

  • 国土交通省「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」

  • 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」(SASと二次性高血圧の記載)

  • Am J Respir Crit Care Med 2005(SASと糖尿病合併率に関する文献)

  • 千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学「睡眠時無呼吸症候群」解説

  • 東京医科大学病院循環器内科「睡眠時無呼吸専門外来」症例紹介


本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。

関連プロジェクト:睡眠時無呼吸症候群 啓発プロジェクト睡眠検査運用支援プロジェクト

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