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職域における睡眠課題と健康管理  睡眠時無呼吸症候群の産業保健・健康経営・企業対策の実践的解説

JMWO-RR-0004

最終更新日 2026/6/15

職域における睡眠課題と健康管理  睡眠時無呼吸症候群の産業保健・健康経営・企業対策の実践的解説

職域における睡眠課題と健康管理

睡眠時無呼吸症候群の産業保健・健康経営・企業対策の実践的解説

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:睡眠時無呼吸症候群 啓発プロジェクト睡眠検査運用支援プロジェクト


1. はじめに――「眠り」は個人の問題か、組織の問題か

従業員が「眠れていない」「昼間に強い眠気がある」「日中のパフォーマンスが上がらない」という状況は、かつては個人の生活習慣の問題として扱われることが多かった。しかし現在、睡眠は健康経営の中核テーマのひとつとして企業・行政・産業保健の関係者から高い注目を集めており、特に睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は「21世紀の国民病」として職域保健の主要課題に位置づけられている。

日本の睡眠不足による経済的損失はGDPの2.92%にあたる約1,380億ドル(約15兆円)に達し、調査対象5カ国(米国・ドイツ・英国・カナダ・日本)の中で最も高いと試算されている(東京Dタワーホスピタル解説より引用)。さらに睡眠問題に関連した事故などによる経済的損失は6兆円にのぼるという推計もある(SAS-net解説)。これらのデータは、睡眠を「個人の問題」として放置することが、企業・社会全体にとっていかに大きなコストをもたらすかを示している。 

厚生労働省は2024年2月に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表した。2014年以来約10年ぶりの改訂であり、成人・こども・高齢者のライフステージ別の推奨事項が示され、睡眠障害として医療機関受診が必要なものの代表例としてSASが明記されている。さらに「健康日本21(第三次)」においては、休養・睡眠分野に「睡眠で休養がとれている者の増加」および「睡眠時間が十分に確保できている者の増加」が目標として設定されており、国家的な施策として睡眠対策が本格化している。

本レポートでは、職域における睡眠課題・SASの企業への影響・産業保健担当者および企業経営者が実践すべきSASスクリーニング・健康管理戦略・法規制上の要点を、医師・産業医・医療従事者・製薬企業担当者が活用できる形で詳述する。


2. 職域における睡眠の現状――日本の働く世代の睡眠実態

2.1 睡眠時間の短さと睡眠不足の蔓延

厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和4年国民健康・栄養調査データ引用)によれば、日本人で1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は男性37.0%・女性39.9%に達する。特に40歳代では男性45.8%・女性44.6%、50歳代では男性46.3%・女性48.0%と、働き盛りの世代の約半数が慢性的な睡眠不足の状態にある。

6時間未満の睡眠が続くことで、注意機能・反応時間・判断力の低下が生じることはOECD等の国際的な研究で示されており、パフォーマンス低下は睡眠時間14〜17時間後から顕著になるとされている。職場における集中力の低下・ミスの増加・コミュニケーション障害・創造性の低下は、慢性的な睡眠不足の直接的な帰結である。

2.2 SASの職域における潜在規模

SASを含む睡眠呼吸障害は、職域における主要な未診断健康課題である。前述の通り中等症以上のSAS潜在患者は940万人と推計されるが(SASガイドライン2020)、NPO法人ヘルスケアネットワーク(OCHIS)が2023年度に実施したSASスクリーニング検査では、受検者の40.5%がSASの疑いと判定されたという報告がある(三井住友海上MSコンパス解説)。

また東京Dタワーホスピタルの解説では、日本人7,051例を対象とした調査において、CPAPが必要とされる中等症以上(AHI≧15)の割合が男性23.7%・閉経後女性9.5%であったと報告されており、職場に多い40〜50歳代の男性においてSASの潜在患者が非常に多い実態が示されている。

2.3 プレゼンティーズムとアブセンティーズムへの影響

SASを含む睡眠障害が職場パフォーマンスに与える影響は、「プレゼンティーズム」(出勤しているが健康問題によりパフォーマンスが低下している状態)と「アブセンティーズム」(健康問題による欠勤・休業)の2軸で評価される。厚生労働省はプレゼンティーズムを「従業員が職場に出勤はしているものの、何らかの健康問題によって業務の能率が落ちている状況」と定義しており、高血圧・糖尿病などの生活習慣病と並んでSASが主要な原因となることが知られている。

睡眠の問題が労働生産性に与えるコストは、多くの企業においてアブセンティーズム(欠勤コスト)よりもプレゼンティーズム(在勤中の生産性損失)の方が大きいとされており、SAS治療による生産性向上は企業にとって直接的な経済的メリットをもたらす可能性がある。


3. 職域SASの特定集団――高リスク業種と職種

3.1 運輸・交通事業者

SASが職域において最も厳しく管理が求められるのが運輸・交通業種である。SASによる日中の眠気は、居眠り運転という形で社会的大事故に直結する危険性を持つ。

日本でSASが広く社会的に認識されるきっかけは2003年2月の山陽新幹線居眠り運転事故であったが、2012年の関越自動車道高速バス事故、そして2023年2月の岡山駅での新幹線運転士によるオーバーラン事件と、20年以上経た今もSASに関連した重大インシデントは後を絶たない(三井住友海上MSコンパス解説)。

国土交通省は2025年7月に「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策マニュアル」を改訂・公開し(令和7年7月版)、バス・タクシー・トラック等の事業用自動車事業者に対してSASスクリーニング検査を推奨検査として位置づけている。同マニュアルでは、OCHISが令和6年度に実施したスクリーニング検査データとして、BMI25〜30未満の者では非肥満者(BMI25未満)の約1.8倍、BMI30以上では非肥満者の複数倍のSAS疑い者が検出されたことも明示されている。

3.2 製造業・建設業

製造ラインや建設現場における注意力・反応速度の低下は、機械事故・転落事故・誤操作という形で表面化する。重機を操作する機会が多い建設業、高所作業を行う業種、精密機器を扱う製造業においては、SASによる集中力低下・判断力の鈍化が労働安全上の直接的なリスクとなる。

SASによる中等度の眠気を抱えた状態は、血中アルコール濃度が0.04g/dL程度の飲酒状態よりも反応が悪いという報告があり、法定飲酒運転基準(0.08g/dL)と同等の危険性を持つとも指摘されている(SAS-net解説)。飲酒状態での就業は当然禁止されているが、同等の認知機能低下をもたらすSASが放置されているという矛盾が、職域における課題として浮かび上がる。

3.3 医療・介護従事者

医師・看護師・介護士などのヘルスケア従事者においても、SASは重要な職業保健上の課題である。夜勤・交代勤務・長時間労働が重なる医療・介護職では、慢性的な睡眠負債とSASが重複しやすく、医療ミス・ケアの質低下・バーンアウトのリスクが増大する。医療職特有の「患者への責任感から眠れていても仕事に出る」というプレゼンティーズムは、SAS合併時に特に高いリスクをもたらす。

3.4 管理職・エグゼクティブ

管理職・経営幹部層は、ストレス・飲酒機会の多さ・体重増加・出張と時差ぼけ・深夜の業務対応などによりSASのリスク因子が集積しやすい。また「忙しいから仕方ない」「多少の眠気は我慢できる」という認知の歪みが受診行動を遠ざける傾向がある。意思決定の質が組織全体に影響するエグゼクティブ層のSAS管理は、健康経営の観点から戦略的重要性がある。


4. 法規制・行政指針の動向

4.1 国土交通省による運輸業への規制

国土交通省は2014年4月改訂の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」において、SASスクリーニング検査を「推奨検査」と位置づけた。さらに2018年以降、乗務前の睡眠状態確認を義務化するなど、運輸業界への規制が段階的に強化されている。

2025年7月の最新マニュアル改訂(令和7年7月版)では、SAS対策の必要性と実施方法がより詳細に規定されており、事業者が「SAS対策は難しい」と感じることで検査に踏み切れないケースに対応するための実務的な手引きが提供されている。

4.2 健康経営優良法人認定基準とSAS

経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」は、従業員の健康管理を経営的な視点から推進する企業を顕彰する制度である。2024年8月に開始された健康経営優良法人2025認定基準では、睡眠を含む健康管理の取り組みが評価項目として組み込まれており、SASスクリーニングを含む睡眠対策は健康経営優良法人認定の観点からも重要な施策となる。

4.3 健康日本21(第三次)と睡眠目標

厚生労働省は「健康日本21(第三次)」(令和6年度〜)において、休養・睡眠分野に「睡眠で休養がとれている者の増加」と「睡眠時間が十分に確保できている者の増加」を明示的な数値目標として設定した。これは職域保健担当者にとって、企業の保健活動における睡眠対策の優先度を高める根拠となる。


5. 職域におけるSASスクリーニングの実際

5.1 スクリーニング手法の選択

職域でのSASスクリーニングには、リソース・対象規模・実施目的に応じていくつかの選択肢がある。

問診・質問票によるスクリーニング(一次スクリーニング)

最もコストが低く導入しやすい手法である。企業健診の問診票に以下の項目を組み込むことで、ハイリスク者を抽出できる。

  • 定期的ないびきの有無(毎晩・週3回以上)

  • 睡眠中に呼吸が止まると指摘されたことがあるか

  • 日中の眠気の程度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)

  • 起床時の頭痛・熟眠感の欠如

  • 高血圧・肥満の有無

STOP-BANG(8項目の簡易スクリーニングツール)を企業健診に追加することも有効で、日本語版STOP-Bang テストの職域での有用性は日本プライマリ・ケア連合学会誌(2019;42(1):26-31)でも検証されている。

パルスオキシメーターによるスクリーニング(簡易型)

指に装着するパルスオキシメーターを用いて睡眠中の動脈血酸素飽和度(SpO₂)と脈拍数を測定する方法で、医療機関に出向かず企業側で集団検査を実施できる。OCHISがバス・タクシー・トラック運輸事業者や健康保険組合を対象に実施している方法であり、2023年の新幹線事件を機に普及が加速した。検査キットを郵送して自宅で計測してもらう形式も普及しており、プライバシーへの配慮と検査アクセスの向上を両立できる。

在宅簡易モニター(OCST)による精密スクリーニング

鼻カニューラ・SpO₂・胸腹部呼吸運動センサーを組み合わせた在宅型の睡眠呼吸障害評価機器(Type 3デバイス)による検査。OCSTで呼吸イベントが40回/時間以上であれば保険適用でCPAP療法を開始できる。職域スクリーニングで陽性となった従業員を提携医療機関でOCST検査につなぐ流れが実践的である。

5.2 職域スクリーニングの実施フロー

実践的な職域SASスクリーニングフローは以下の通りである。

ステップ1:社内啓発と検査案内 イントラネット・社内報・健康通信などを通じてSASの基礎知識と検査の意義を従業員に周知する。SASは「個人の恥」ではなく「治療可能な医学的疾患」であることを明確に伝え、スティグマを取り除くコミュニケーションが重要である。

ステップ2:一次スクリーニング(問診・STOP-BANG・ESS) 定期健診の問診票にSAS関連項目を組み込む。人事・総務担当者ではなく保健師・産業医が問診内容を確認し、ハイリスク者を特定する。

ステップ3:二次スクリーニング(パルスオキシメーター検査または提携医療機関への受診勧奨) 一次スクリーニングで高リスクと判定された従業員に対し、簡易モニター検査を実施するか、提携医療機関での受診を勧奨する。

ステップ4:医療機関での確定診断・治療介入 OCST・PSGによる確定診断、CPAP導入または口腔内装置の処方。医療機関から会社に診断情報を伝える場合は、本人の同意と個人情報保護への適切な配慮が必要である。

ステップ5:継続管理・フォローアップ CPAP導入後の継続率管理、定期的な再スクリーニング、治療効果の確認(ESS再評価・業務パフォーマンス変化の観察)。

5.3 実施上の注意点

職域SASスクリーニングを実施する際には、以下の点に留意が必要である。

プライバシーへの配慮:SASの診断・治療状況は医療情報であり、本人の同意なく事業主に共有することは原則として不可能である。産業医・保健師が中立的な立場で管理し、人事処遇への影響が生じないよう制度設計することで、従業員が安心して検査を受けられる環境を整備する必要がある。

受診・治療への強制性の排除:スクリーニングはあくまで任意参加を基本とし、検査陽性であっても治療を強制することはできない。インフォームドコンセントと従業員の自律的な意思決定を尊重した設計が求められる。

乗務可否・業務制限の判断基準:運輸業など安全に直結する業種では、SAS診断後の乗務可否判断が必要となる場合がある。産業医・主治医・管理者が連携し、SAS対策マニュアルに基づいた判断基準を事前に整備しておくことが重要である。


6. 産業医・保健師の実践的役割

6.1 産業医に求められる視点

産業医はSASの診断・治療を直接行う立場ではないが、職域でのSASスクリーニング推進において極めて重要な役割を担う。具体的には、以下の機能が求められる。

スクリーニング設計への関与:定期健診の問診票へのSAS関連項目の追加、STOP-BANG・ESSの導入、パルスオキシメーター検査の実施体制整備を主導する。

ハイリスク者の個別相談:健診結果・問診結果をもとにSAS疑いが高い従業員との個別面談を実施し、医療機関受診を勧奨する。「異常なし」と思っていた従業員が重症SASであったというケースは少なくなく、産業医面談が診断につながる機会となることがある。

経営層・人事への働きかけ:SASの生産性・安全性・医療費への影響を定量的に示し、スクリーニング実施のための予算・制度整備を経営判断として支援する。

提携医療機関との連携体制整備:スクリーニング陽性者が速やかに睡眠専門外来・呼吸器内科を受診できるよう、提携医療機関のリスト整備と紹介状の形式を準備しておく。

6.2 保健師の役割

保健師はSASに関する集団保健指導において中心的な役割を担う。睡眠衛生教育(睡眠環境の整備・アルコールと睡眠の関係・就寝前の過度なスクリーン使用の回避等)を提供しながら、SASが疑われる従業員を適切に産業医や医療機関につなぐ機能が求められる。

また、CPAP治療中の従業員に対してはアドヒアランス維持のための情報提供・継続的なフォローアップが重要であり、「治療を始めたが面倒になってやめてしまった」という事態を防ぐためのサポート体制の構築が保健師の重要な役割のひとつである。


7. 健康経営とSAS対策の費用対効果

7.1 SAS治療による生産性向上の試算

SAS治療が従業員の生産性に与える経済的効果については、以下のような視点で試算することができる。

  • CPAP治療により日中の眠気が改善した従業員の業務パフォーマンス向上

  • 交通事故・労働災害リスクの低減による事故コストの削減

  • 高血圧・糖尿病・心疾患などの合併症予防による医療費削減

  • CPAP治療継続患者の長期的な疾病リスク低減による健保組合の給付費削減

三井住友海上MSコンパスの解説では、SASは「肥満や高血圧の保健指導と同レベルでSAS対策を推進することで、従業員の健康と生産性の向上という両方のメリットを享受できる」と指摘されており、SAS対策を健康経営の柱のひとつとして位置づける根拠が示されている。

7.2 健康保険組合との連携

健康保険組合がSAS対策に取り組む主な動機は、SASに伴う合併症(高血圧・糖尿病・心血管疾患)による医療費の高騰抑制である。SASを早期に発見・治療することで、将来的な高額医療費の発生を予防する「重症化予防」の観点から、健保組合がスクリーニング事業を企業と共同で実施するケースが増えている。

健保組合のデータヘルス計画において、SASスクリーニング・治療支援を組み込むことで、加入者全体の医療費適正化につながる可能性がある。産業医・健保組合・事業主が三者連携でSAS対策を推進する体制は、今後の職域保健の標準モデルとして注目される。


8. 職域SAS対策の情報発信設計

8.1 従業員向けメッセージの設計

従業員に向けたSAS啓発メッセージは、恐怖喚起型(「放置すると死ぬ」)ではなく、行動変容につながる問題解決型のフレームで設計することが有効である。

効果的なメッセージの例:

  • 「いびきをかいていると言われたことがある方、ぜひ一度確認してみてください」

  • 「日中の眠気は我慢するものではなく、治療で改善できる症状です」

  • 「会社の健診でSASのチェックができます。まず確認してみましょう」

  • 「SASの治療で、朝の目覚めがすっきりして仕事のパフォーマンスが上がった方が多くいます」

一方で、「あなたはSASの可能性があります」という直接的な指摘は、従業員のプライバシーへの配慮と心理的な受け入れやすさの観点から、個別面談(産業医・保健師)の場面で行うことが適切である。

8.2 管理職・安全管理者向けの研修設計

安全管理が重要な業種では、管理職・安全管理者がSASの基礎知識を持ち、部下の状態変化に気づく「気づきの担当者」として機能することが求められる。「最近いびきがひどいと妻から言われている」「会議中に居眠りしていた」などの情報を安全管理者が受け取った場合に、適切に産業医・保健師につなぐフローを整備しておくことが重要である。

研修内容として推奨されるのは、SASの基礎知識(症状・リスク・治療)・STOP-BANGの使い方・受診勧奨の具体的な声かけ方法・個人情報への配慮・会社としての支援制度の説明などである。


9. 製薬企業・医療機器企業が職域SAS対策に貢献できる領域

9.1 産業医・保健師向けの情報提供

製薬企業・医療機器企業の担当者にとって、産業医・保健師は職域SAS対策における重要なステークホルダーである。単なる製品紹介ではなく、「職域でのSASスクリーニングをどのように設計するか」「問診票に何を組み込むべきか」「CPAP治療継続率を高めるためにどのような患者教育が必要か」という実務的な課題に対するソリューション提供が、信頼関係構築につながる。

9.2 企業向け疾患啓発コンテンツの提供

健康経営に取り組む企業の健康管理担当者・人事担当者に対して、SASに関する疾患啓発資料・社内研修用コンテンツ・スクリーニング実施マニュアルを提供することは、SASに関する認知度向上と医療機関受診の促進につながる。健康経営優良法人認定取得を目指す企業にとっては、このような支援がSAS対策の実装を後押しする。

9.3 CPAP継続率改善への取り組み

CPAP治療の長期継続率が約50%程度にとどまるという現実(青山・表参道睡眠ストレスクリニック解説)は、職域における課題でもある。職場でCPAP使用を継続することへの心理的障壁(「同僚に知られたくない」「出張先でのCPAP持参が手間」等)を把握し、継続支援のための情報設計に貢献することが、医療機器企業の重要な役割となる。


10. まとめ

「眠り」は、個人の健康を超えた組織の生産性・安全性・競争力に直結する戦略的資源である。睡眠時無呼吸症候群は、職域においてプレゼンティーズム・アブセンティーズム・労働災害・交通事故というさまざまな経路で企業活動に損失をもたらす。

日本のGDPの2.92%に相当する睡眠不足による経済的損失、SASと診断された運転者の交通事故リスクの増大、スクリーニング受検者の40.5%にSAS疑いが検出されるという現実は、いずれも「SASは一部の患者の問題」ではなく「職域全体の構造的課題」であることを示している。

厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」・国土交通省「SAS対策マニュアル」(令和7年7月改訂版)・「健康経営優良法人2025認定基準」という3つの政策的枠組みが整備された今、産業医・保健師・企業の健康管理担当者が連携してSAS対策を体系的に実装することは、「従業員の健康」と「企業の生産性・安全性」を同時に高める最も費用対効果の高い保健施策のひとつとなり得る。


参考情報・出典

  • 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」令和6年(2024年)2月

  • 厚生労働省「健康日本21(第三次)」令和5年5月

  • 国土交通省物流・自動車局「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群(SAS)対策マニュアル」令和7年7月改訂版

  • 日本呼吸器学会監修「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」南江堂,2020

  • 経済産業省「健康経営優良法人認定制度」(健康経営優良法人2025認定基準)

  • NPO法人ヘルスケアネットワーク(OCHIS)2023年度・令和6年度SASスクリーニング検査実績(三井住友海上MSコンパス解説より)

  • 日本プライマリ・ケア連合学会誌「閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスク評価における日本語版STOP-Bang テストの有用性」2019;42(1):26-31

  • Chung F, Yegneswaran B, et al. STOP Questionnaire: a tool to screen patients for obstructive sleep apnea. Anesthesiology. 2008;108:812-821

  • 令和4年国民健康・栄養調査(厚生労働省)

  • 三井住友海上MSコンパス「今こそ求められる企業における睡眠対策」2024年

  • 東京Dタワーホスピタル「睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?」(睡眠不足による経済損失試算含む)


本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。

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