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活動報告
高齢者の予防接種行動 肺炎球菌ワクチンの接種率40%前後という現実とPCV20切り替えの混乱
JMWO-RR-0051
最終更新日 2026/7/1
高齢者の予防接種行動 肺炎球菌ワクチンの接種率40%前後という現実とPCV20切り替えの混乱
高齢者の予防接種行動
肺炎球菌ワクチンの接種率40%前後という現実とPCV20切り替えの混乱
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:予防接種啓発プロジェクト
- 高齢者の予防接種行動
- 肺炎球菌ワクチンの接種率40%前後という現実とPCV20切り替えの混乱
- 1. はじめに――「B類疾病」が意味する接種率の伸び悩み
- 2. 肺炎球菌ワクチン接種率という「B類疾病の現実」
- 2.1 「概ね40%前後」という具体的な数値
- 2.2 接種率停滞の要因分析
- 2.3 医療関係者の接種勧奨という処方箋
- 3. PCV20への切り替えという新たな混乱要因
- 3.1 11年間続いたPPSV23から新ワクチンへ
- 3.2 「前回から何年たったか」では判断できないという注意喚起
- 3.3 経過措置なしという厳格な運用方針
- 3.4 名称の類似による混同リスク
- 4. インフルエンザワクチンの接種率データ
- 4.1 「65歳以上43.2%」という実態
- 4.2 高齢者福祉施設における具体的な有効性データ
- 4.3 同時接種の推奨という新たな知見
- 5. アレルギー疾患との関連における実践
- 5.1 呼吸器疾患患者における優先的な接種の重要性
- 6. 製薬企業・医療機関担当者への含意
- 6.1 「経過措置なし」という新ルールの周知徹底
- 6.2 医療従事者への「接種勧奨」支援情報の提供
- 6.3 複数ワクチンの統合的な案内設計
- 7. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――「B類疾病」が意味する接種率の伸び悩み
レポート11で詳述した帯状疱疹ワクチンは個別ワクチンの解説、レポート12で詳述した高齢者のヘルスリテラシーは一般的な情報理解力の課題であった。本レポートは、これらとは異なる視点から、高齢者を対象とする代表的なワクチンである肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチンの実際の接種率データと、近年の制度変更がもたらす混乱という、より具体的な実態に焦点を当てる。
レポート49で詳述したとおり、高齢者肺炎球菌感染症・インフルエンザは、いずれも「B類疾病」に分類され、「接種勧奨および努力義務」がない。日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会・日本感染症学会ワクチン委員会の合同委員会が公表する「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第7版)」では、この制度上の位置づけが、実際の接種率にどのような影響を与えているかが、具体的な数値をもって示されている。本レポートでは、この接種率データ、2026年度からのワクチン切り替えという新たな混乱要因、そして医療関係者による接種勧奨の重要性を、医療従事者・製薬企業・自治体関係者が活用できる形で詳述する。
2. 肺炎球菌ワクチン接種率という「B類疾病の現実」
2.1 「概ね40%前後」という具体的な数値
前述の合同委員会「考え方(第7版、2025年9月30日)」では、10年間にわたる接種率の推移が具体的に示されている。「厚生労働省によれば,5年経過措置1期目は2014年10月〜2019年3月までに実施され,2014〜2018年度の定期接種率は36.3〜39.5%であった」とされ、「2023年12月20日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会基本方針部会の資料によれば,5年経過措置期間の65歳相当での接種率は概ね40%前後とされている」とされる。
つまり、対象となる高齢者のうち、実際に肺炎球菌ワクチンを接種しているのは、約4割にとどまる。同資料では、経過措置2期目(2019〜2024年度)の一部データとして「13.7〜15.8%」という、さらに低い数値も報告されており、経過措置の期・年度によって接種率にばらつきがあることが示されている。
2.2 接種率停滞の要因分析
この接種率の水準について、同資料は明確な要因分析を示している。「わが国の予防接種法において,高齢者肺炎球菌感染症はB類疾病だが,B類疾病のワクチン接種には,接種勧奨および努力義務はない。また,B類疾病に対するワクチン接種には一定額の個人による費用負担が生じる。上記の2点は,過去10年間の高齢者肺炎球菌感染症の定期接種率に影響したことが推察される」。
この分析は、レポート49で詳述した制度の複雑さが、単なる「わかりにくさ」の問題にとどまらず、「接種勧奨・努力義務の不在」「自己負担の存在」という、より構造的な要因を通じて、実際の接種率の低さに直結していることを示している。
2.3 医療関係者の接種勧奨という処方箋
この課題に対する対応策として、同資料は明確な方向性を示している。「肺炎球菌ワクチンの定期接種率の向上のためには,医療関係者による医学的観点に基づく接種勧奨が必要であることを記載した」「高齢者肺炎球菌ワクチンの定期接種率の向上のためには,医療関係者が接種対象者のワクチン効果と安全性についての理解を深め,接種行動に結びつけることが必要である」とされている。
これは、レポート50で詳述したVaccine Hesitancyへの対応と同様、制度上「接種勧奨がない」B類疾病であっても、医療従事者による個別の医学的な説明・勧奨が、接種率向上の鍵となることを示している。制度が後押ししない分、現場の医療従事者の積極的な関与がより重要になるという構造である。
3. PCV20への切り替えという新たな混乱要因
3.1 11年間続いたPPSV23から新ワクチンへ
肺炎球菌ワクチンをめぐる制度は、2024年以降、大きな転換期を迎えている。前述の「考え方(第7版)」では、「65歳以上を対象とするPPSV23による定期接種が開始されてから11年が経過し」たことを踏まえ、「2024年10月から20価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV20)が小児定期接種ワクチンとなり,2025年7月4日に開催された第30回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会において,20価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV20,商品名プレベナー20®)が高齢者定期接種ワクチンとして位置づけられる方針が決定された」とされている。
横浜弘明寺呼吸器内科クリニック健康情報局の解説では、この変化がより実務的に整理されている。「高齢者の肺炎球菌ワクチン制度で大きく変わった点は、2026年度から定期接種で使われるワクチンがPPSV23(ニューモバックスNP)からより長く効果が期待できるPCV20に切り替わったこと」であり、「2026年度からは、(PPSV23は)高齢者の定期接種で使用されるワクチンではなくなり、任意接種となりました」とされている。
3.2 「前回から何年たったか」では判断できないという注意喚起
同解説では、過去にPPSV23を接種した高齢者に向けた、極めて重要な注意喚起が示されている。「過去にPPSV23を受けた方は,『前回から何年たったか』だけで判断するのではなく,現在の制度で定期接種の対象になるかを確認する必要があります」。
これは、PPSV23が「5年ごとの再接種が推奨されてきました」という従来の運用が、2026年度の制度変更によって単純には当てはまらなくなったことを意味する。長年「5年経ったら再接種」という認識で行動してきた高齢者にとって、この制度変更は極めて分かりにくく、レポート49で詳述した制度の複雑さがさらに増す要因となっている。
3.3 経過措置なしという厳格な運用方針
日経メディカル(医療従事者向けニュース)の解説では、2026年度からの運用における重要な決定事項が報じられている。「厚生労働省は2025年12月19日,厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催。高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種について,65歳を超える人に対する沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)接種の経過措置は設けないことが了承された。2026年度に複数の定期接種ワクチンが追加・変更される予定であることを受け,自治体の事務負担増加を避けるのが主な理由」。
これは、レポート11で詳述した帯状疱疹ワクチンで見られたような、5歳刻み・複数年度にわたる経過措置が、PCV20の切り替えにおいては設けられないことを意味する。制度の複雑さを軽減する(経過措置を設けない)判断が、一方で「65歳のタイミングを逃すと対象外になる」という、より厳格な条件を生み出しているという、皮肉な構造がここにある。
3.4 名称の類似による混同リスク
横浜弘明寺呼吸器内科クリニックの解説では、さらに新しいワクチンについても言及されている。「PCV21は成人向けの新しい結合型肺炎球菌ワクチンです……ただし,2026年4月時点では高齢者の定期接種ワクチンではありません。制度上はPCV20と同じ扱いではないため,自治体の定期接種で受けられるワクチンと混同しないようにしましょう」。
PPSV23・PCV20・PCV21という、名称も番号も類似した複数のワクチンが並存する状況は、レポート38で詳述したプレインランゲージの観点からも、極めて丁寧な説明を要する複雑な情報環境であることを示している。
4. インフルエンザワクチンの接種率データ
4.1 「65歳以上43.2%」という実態
インフルエンザワクチンについても、詳細な接種率データが公表されている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)の「2024年度感染症流行予測調査」では、「接種歴調査の結果では,2〜15歳と65歳以上の年齢群の接種割合が高い……16〜64歳の1回以上接種割合は28.4%,65歳以上では43.2%であった」というデータが示されている。
高齢者の接種率が43.2%と、他の成人年齢層(28.4%)より高いとはいえ、依然として半数を下回る水準にとどまっている点は、レポート4で詳述した職域での健康管理の文脈とも接続する、継続的な啓発の必要性を示している。
4.2 高齢者福祉施設における具体的な有効性データ
厚生労働省の解説では、インフルエンザワクチンの高齢者における具体的な効果データが示されている。「国内の研究によれば,65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34〜55%の発病を阻止し,82%の死亡を阻止する効果があったとされています」(平成11年度厚生労働科学研究費補助金研究、神谷齊氏主任研究者)。
「発病阻止34〜55%」に対して「死亡阻止82%」という、発病予防効果よりも重症化・死亡予防効果の方が顕著に高いというこのデータは、レポート49で詳述した予防接種の目的の理解——「ワクチンは感染を完全に防ぐものではなく、重症化を防ぐもの」という、正確な期待値の説明において重要な根拠となる。
4.3 同時接種の推奨という新たな知見
日本呼吸器学会・日本感染症学会の合同委員会による「2025/26シーズンに向けたインフルエンザワクチン接種に関する考え方とトピックス」では、新型コロナワクチンとの同時接種が積極的に推奨されている。「新型コロナワクチンに関しては……接種率はすべて高齢者に接種されたとしても22%程度……と推定され,さらに接種率を高める必要があります。高齢者ではインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種を積極的に推奨します」。
さらに「高齢者や重症化リスク因子を持つ方へは肺炎球菌ワクチンや新型コロナワクチン,RSVワクチンの積極的な接種も強く推奨します」とされ、複数のワクチンを個別に案内するのではなく、同時接種という選択肢を含めた統合的な情報提供が、接種機会の逸失を防ぐ実務的なアプローチとして推奨されている。
5. アレルギー疾患との関連における実践
5.1 呼吸器疾患患者における優先的な接種の重要性
レポート8で詳述した喘息のような慢性呼吸器疾患を持つ高齢患者は、肺炎球菌感染症・インフルエンザの重症化リスクが特に高い層である。呼吸器内科・アレルギー科の外来において、こうした高リスク患者に対する肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチンの接種状況確認と積極的な勧奨は、レポート30で詳述した生活習慣病外来でのSAS拾い上げと同様、既存の受診機会を活用した効率的な予防医療の実践である。
6. 製薬企業・医療機関担当者への含意
6.1 「経過措置なし」という新ルールの周知徹底
PCV20の切り替えにおいて経過措置が設けられないという決定は、対象者にとって「知らないうちに機会を逃す」リスクを高める。製薬企業・医療機関は、65歳のタイミングでの案内・リマインドを、レポート28で詳述したLINE等のツールも活用しながら、確実に実施する体制の構築が求められる。
6.2 医療従事者への「接種勧奨」支援情報の提供
B類疾病という制度上「勧奨義務がない」ワクチンについて、医療従事者が「医学的観点に基づく接種勧奨」を行いやすくするための、簡潔でエビデンスに基づいた説明資料(発病阻止率・死亡阻止率等の具体的数値を含む)を製薬企業が提供することは、接種率向上に直接的に寄与する。
6.3 複数ワクチンの統合的な案内設計
肺炎球菌・インフルエンザ・新型コロナ・帯状疱疹という複数の高齢者向けワクチンについて、個別に案内するのではなく、同時接種の推奨も含めた統合的な情報提供・スケジュール管理支援ツールの開発が、レポート49で詳述したライフコースアプローチを実践する具体的な手段となる。
7. まとめ
高齢者を対象とする肺炎球菌ワクチンの接種率は、10年以上にわたって「概ね40%前後」という水準にとどまっている。この停滞の背景には、B類疾病という制度上の位置づけ——接種勧奨・努力義務の不在、自己負担の存在——という構造的な要因がある。この状況を打開する鍵として、医学界の合同委員会は一貫して「医療関係者による医学的観点に基づく接種勧奨」の重要性を強調している。
2026年度から予定されるPPSV23からPCV20への切り替えは、経過措置を設けないという厳格な運用方針とともに実施され、名称の類似したPCV21という新ワクチンの登場も相まって、対象者にとってさらに理解の難しい情報環境を生み出している。インフルエンザワクチンについても、65歳以上の接種率は43.2%にとどまり、発病阻止(34〜55%)以上に死亡阻止(82%)という重症化予防効果の顕著さを、正確に伝えることが重要である。
こうしたデータが示す一貫した教訓は、制度が「接種を後押ししない」B類疾病だからこそ、現場の医療従事者・製薬企業による能動的で丁寧な情報提供と接種勧奨が、高齢者の予防接種行動を左右する決定的な要因になるという点である。
参考情報・出典
日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」第7版(2025年9月30日)・第6版(2024年9月6日)
日経メディカル「高齢者の肺炎球菌ワクチン、65歳超への経過措置は設けず」2025年12月21日
横浜弘明寺呼吸器内科クリニック健康情報局「【2026年版】65歳の肺炎球菌ワクチン 何が変わった?」
厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」
国立健康危機管理研究機構(JIHS)「2024年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況」感染症情報提供サイト
日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会・合同委員会「2025/26シーズンに向けたインフルエンザワクチン接種に関する考え方とトピックス」
厚生労働省「65歳以上に実施している予防接種」
本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の接種の判断を目的とするものではありません。予防接種のスケジュール・対象者・費用等については、最新の情報を厚生労働省・お住まいの市区町村・かかりつけ医にご確認ください。
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