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患者説明と記録管理  未承認薬・適応外使用における説明書・同意書・診療記録の実務設計

JMWO-RR-0035

最終更新日 2026/7/1

患者説明と記録管理  未承認薬・適応外使用における説明書・同意書・診療記録の実務設計

患者説明と記録管理

未承認薬・適応外使用における説明書・同意書・診療記録の実務設計

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:医薬品輸入サポートプロジェクト


1. はじめに――「説明したこと」を「記録に残す」という二重の責務

レポート33で詳述した医薬品個人輸入の制度とリスクレポート34で詳述した海外医薬品情報の調べ方では、医薬品の個人輸入と海外医薬品情報の取り扱いを論じた。その中で繰り返し言及したのが、「医師の管理下での適正な輸入・使用」という枠組みである。本レポートは、この医師が未承認薬・適応外薬を患者に使用する場面における、患者への説明(インフォームドコンセント)と記録管理という実務に焦点を当てる。

未承認薬・適応外使用は、決して例外的・特殊な医療行為ではない。メディカルライフ株式会社の解説によれば、「国内の医療機関では自由診療扱いで未承認薬を処方したり、適応外薬として処方するケースが数多くあります」とされる。国内承認薬で効果が得られない患者が、新しい作用機序や成分を持つ未承認薬で改善する可能性があるためである。

しかし、こうした承認の範囲外での医薬品使用には、通常の保険診療以上に慎重な患者説明と、その説明内容を確実に記録に残す体制が求められる。レポート33で詳述した医薬品副作用被害救済制度の対象外という重大な事実をはじめ、患者が理解した上で同意すべき事項が多岐にわたるからである。本レポートでは、未承認薬・適応外使用における説明書・同意書の設計、診療記録の管理、院内審査体制を、医師・医療従事者・医療機関経営者・適正な医薬品輸入に関わる事業者が活用できる形で詳述する。


2. 未承認薬・適応外使用とは

2.1 定義の整理

「適応外使用」とは、三重大学医学部附属病院の解説によれば、「医薬品及び医療機器は、法律(医薬品医療機器等法)に基づいて厚生労働省で承認された方法で使用することが求められます。しかし、治療の必要上、承認内容とは必ずしも一致しない方法で使用すること」を指す。つまり、国内で承認されている薬であっても、承認された効能・効果・用法・用量と異なる使い方をする場合は「適応外使用」となる。

一方「未承認薬」とは、メディカルライフ株式会社の解説によれば「国内で十分な臨床試験が行われていないため、薬事法(現・医薬品医療機器等法)に基づく品質や安全性が確認されていない医薬品」を指す。レポート34で詳述したPMDAの添付文書検索で「検索結果が確認できない場合は未承認薬」(メディカルライフ解説)という実務的な判別方法も示されている。

2.2 救済制度対象外という重要事実の再確認

未承認薬・適応外使用において、患者説明で最も重要な事項の一つが、医薬品副作用被害救済制度の対象外となることである。三重大学医学部附属病院の解説では、「医薬品の適応外使用等により発生した副作用については、国の『医薬品副作用被害救済制度』の対象外となります」と明記されている。

これはレポート33で詳述した個人輸入品の救済制度対象外と同じ構造の問題であり、適応外使用・未承認薬使用という医師の管理下の医療行為であっても、万が一の副作用に対する公的補償が受けられないという点を、患者に明確に説明し、理解を得る必要がある。


3. 院内審査体制――使用前の組織的チェック

3.1 未承認新規医薬品等評価委員会

未承認薬・適応外使用を行う前に、医療機関内での組織的な審査が求められる。昭和医科大学病院の解説によれば、「昭和医科大学病院では病院内の未承認新規医薬品等評価委員会で、使用の必要性があるか、有効性・安全性等の面から問題がないかを審議し、承認した上で使用することとしています」とされる。三重大学医学部附属病院でも同様に「病院内の会議(未承認新規医薬品・医療機器評価委員会)で、使用の必要性があるか、有効性・安全性等の面から問題がないかを審議し、承認した上で使用する」体制が整備されている。

この院内審査体制は、個々の医師の判断だけに委ねるのではなく、医療機関として組織的に未承認薬・適応外使用の妥当性を担保する仕組みである。使用の必要性・有効性・安全性という3つの観点から、委員会が事前に審議・承認するプロセスを設けることが、未承認薬使用における医療安全の基盤となる。

3.2 説明・同意取得の例外的簡略化

院内審査体制のもとでは、説明・同意取得の簡略化が認められる場合もある。昭和医科大学病院・三重大学医学部附属病院の解説では、「科学的に相当の根拠があり、倫理的な問題が極めて少なく、患者さんに有益であると考えられる使用の際は、文書又は口頭による説明・同意取得を例外的に簡略化することを、病院内の会議で承認しています」とされる。

この場合でも、患者の拒否権は保障される。昭和医科大学病院では「患者さんは、上記の治療内容を確認し治療を拒否することができます」とし、オプトアウト(拒否)申請の仕組みを設けている。これは、説明・同意を簡略化する代わりに、患者が情報を確認し拒否できる機会を別途確保するという、患者の自己決定権を守るための代替的な仕組みである。


4. 説明書・同意書の設計

4.1 インフォームドコンセントの説明範囲

患者への説明書・同意書に含めるべき項目について、藤田医科大学岡崎医療センターの「インフォームドコンセントガイドライン」が詳細な指針を示している。説明の範囲(内容)として、以下の項目が挙げられている。

①患者氏名・ID番号、②説明を行った日付、③診断名(病名および病状)、④検査・治療の目的、⑤検査・治療の内容、⑥検査・治療の実施日・期間、⑦検査・治療に伴う副作用・危険性・合併症、⑧他の選択肢について、⑨患者の自己決定権について、⑩患者の理解度および同意の確認、⑪同意した日付、⑫患者本人の署名、⑬患者の代理人の署名および続柄の明示。

特に⑧の「他の選択肢について」は、「予定する検査・治療以外に考えられる手段または代替可能な医療行為をその内容・効果・危険性および予後を含めて具体的かつ平易に説明します。また、医学的処置を行わない場合の予後についても説明します」(藤田医科大学岡崎医療センター)とされ、未承認薬・適応外使用を選択する場合には、国内承認薬による標準治療という代替選択肢の説明が不可欠であることを示している。これはレポート21で詳述した共同意思決定(SDM)の考え方とも一致する。

4.2 平易な表現での記載

説明書の記載においては、専門用語を避けた平易な表現が求められる。富山大学附属病院の「未承認薬・禁忌薬・医薬品の適応外使用に関する説明書・同意書」記入例では、「患者さんに判り易い様、専門用語の羅列ではなく、できるだけ平易な表現で記載してください。専門用語を使用する場合には、『易感染性(細菌に対する抵抗力が低下した状態)』や『腎機能障害(じん臓の働きが落ちる)』の様に、説明を括弧書きで加えるなどの配慮をしてください」と指示されている。

この「専門用語に括弧書きで平易な説明を加える」という手法は、レポート12で詳述した高齢者のヘルスリテラシーレポート26で詳述したWeb問診における専門用語への補足とも共通する、患者の理解を確保するための実践的な配慮である。

4.3 自由意思による同意と撤回権の明示

説明書には、患者の自由意思による同意と、いつでも撤回できる権利を明示することが重要である。富山大学附属病院の記入例では、「本治療を受けるかどうかについては、よく考えていただき、あなた自身の自由な意思でお決めください。本治療を受けることに同意された後、もしくは本治療が始まった後でも、いつでも同意を取り下げることができます。もし、お断りになっても、あなたのこれからの治療に差し支えることは一切ありません」という文言例が示されている。

近畿大学病院の解説でも、臨床研究に関する説明事項として「同意しなくても不利益を受けないこと」「同意しても随時これを撤回できること」が基本的事項として挙げられており、自由意思の保障と撤回権が、説明・同意における普遍的な原則であることがわかる。

4.4 費用負担の明示

未承認薬・適応外使用は保険診療外となる場合が多く、費用負担の説明が重要である。富山大学附属病院の記入例では、費用負担について複数のパターン(臨床研究に準ずる扱いで病院が負担/先進医療・評価療養として薬剤費は患者負担・その他は保険診療/試薬扱いで費用発生なし等)が示されており、個々の使用形態に応じた費用負担の明確な説明が求められる。

4.5 署名と書面の取り扱い

同意書は、患者と医師の双方が署名し、適切に保管・交付する必要がある。富山大学附属病院の記入例では、「患者様(代諾者)と医師の双方の署名があるものを2部作成し、1部を病院控えとし、1部を患者様に渡す」という運用が示されている。2部作成し、病院と患者の双方が書面を保持することで、説明・同意の事実を双方が記録として残すことができる。

患者本人が署名できない場合の取り扱いも重要である。藤田医科大学岡崎医療センターのガイドラインでは、「未成年者、精神障害者、意識不明者、その他、患者本人が判断および署名不能の場合」には代理人の署名および患者との続柄の明示が必須とされている。富山大学附属病院の記入例でも、「患者から同意を得たが、署名ができない」「患者の同意を得られず、代諾者から同意を得たが、署名ができない」といった様々なケースに対応した記載欄が設けられている。


5. 説明補助者の同席と理解度確認

5.1 説明補助者(看護師等)の役割

インフォームドコンセントにおいては、医師の説明に看護師等の説明補助者が同席することが、患者の理解を支える重要な仕組みである。近畿大学病院の解説では、説明補助者の役割として「同席時は、患者・患者家族の表情や発言に留意し、理解を得られていないと感じた場合、医師に再度説明を依頼する、あるいはわかりやすい言葉に言い換え説明する」とされている。

これはレポート21で詳述したティーチバック(患者の理解度を確認する手法)と通じる考え方であり、医師が説明したことが患者に正確に理解されているかを、第三者である説明補助者が確認・補完する役割を担う。未承認薬・適応外使用という複雑な内容の説明においては、この同席・理解度確認の仕組みが特に重要となる。

5.2 同席率のモニタリング

説明補助者の同席は、組織的に管理・推進されるべきものである。近畿大学病院では「医療支援課は、ICテンプレート使用数を基に、定期的に同席率を確認し、診療部長会、RM会議、診療情報管理委員会において報告する」とされ、インフォームドコンセントの質を組織的にモニタリングする体制が整備されている。レポート25で詳述した医療機関の業務設計の観点からも、こうした組織的な品質管理の仕組みが、説明・同意プロセスの質を担保する。


6. 診療記録への記載

6.1 説明内容と口頭説明の一致

説明書・同意書の内容は、実際に口頭で行われる説明と一致していなければならない。藤田医科大学岡崎医療センターのガイドラインでは、書式について「口頭での説明と異なる内容があってはなりません」と明記されている。書面に記載された説明項目と、実際に医師が患者に口頭で説明する内容との間に齟齬があってはならないという、当然ながら重要な原則である。

6.2 診療録への記録

未承認薬・適応外使用を行った場合、その使用の経緯・説明内容・患者の同意・使用後の経過を診療録(カルテ)に正確に記録することが求められる。レポート33で詳述した個人輸入のリスク・救済制度対象外という事実を踏まえると、説明と同意の記録は、後に万が一の問題が生じた際に、適切な説明と同意のもとで医療行為が行われたことを示す重要な証拠となる。

記録すべき事項としては、使用する医薬品の情報(一般名・レポート34で詳述した正確な医薬品情報)、未承認薬・適応外使用を選択した医学的理由、患者に説明した内容(リスク・代替選択肢・費用・救済制度対象外であること等)、患者の同意取得の事実、院内審査委員会の承認状況、使用後の経過・有害事象の有無等が挙げられる。

6.3 ヒト・動物由来物を含む医薬品の特別な記録

レポート33で詳述した医師による輸入の手続きにおいて、特定の医薬品については患者の同意書が輸入手続き上も必要となる。地方厚生局の解説によれば、医師等が治療に用いるために医薬品を輸入する場合のオンライン申請の添付書類として、「【場合により必要】患者さんの同意書(ヒト又は動物(ウシ等を含む。)由来物を原料とする医薬品、医療機器等の場合)」が挙げられている。

つまり、ヒト由来・動物由来の原料を含む医薬品を医師が輸入して使用する場合には、患者の同意書が輸入確認申請の添付書類として求められる。この場合、患者への説明・同意取得は、医療行為としての要請だけでなく、輸入手続き上の要件としても位置づけられる。なお、同解説では輸入者(医師等)のアカウント作成について「GビズIDは法人用IDのため個人輸入用としては使用できません」という実務的な注意も示されている。


7. アレルギー疾患・睡眠医療領域における留意点

7.1 アレルギー領域の適応外使用

レポート7で詳述したアトピー性皮膚炎レポート8で詳述した喘息等のアレルギー疾患領域では、生物学的製剤の適応外使用が検討される場面がありうる。承認された適応症・年齢・用量の範囲外で使用する場合には、本レポートで詳述した説明・同意・記録の手続きが求められる。特に、高額な生物学的製剤の適応外使用においては、費用負担・救済制度対象外という点の説明が重要となる。

7.2 海外在留邦人・外国人患者への配慮

レポート17で詳述した海外在留邦人レポート18で詳述した外国人患者対応の文脈では、未承認薬・適応外使用に関する説明・同意取得において、言語の壁への配慮が必要となる。外国人患者に対しては、医療通訳の活用・多言語の説明資料の整備により、複雑な未承認薬使用の内容を正確に理解してもらう体制が求められる。


8. 製薬企業・医療機関・適正輸入事業者への含意

8.1 説明資料の整備支援

製薬企業が、自社製品の適応外使用が検討される領域において、医療機関が患者説明に用いる正確な情報資料(有効性・安全性のエビデンス・ガイドラインでの位置づけ等)を提供することは、適切なインフォームドコンセントを支援する取り組みとなる。富山大学附属病院の記入例で「ガイドラインに記載されているなどの、この薬剤を使用した治療を裏付ける情報がある場合」の記載が求められていることからも、エビデンスに基づく情報提供の重要性がわかる。

8.2 記録管理体制の構築支援

医療機関が未承認薬・適応外使用の記録を適切に管理できるよう、説明書・同意書のテンプレート、診療録記載のチェックリスト、院内審査委員会の運営支援といった体制構築のサポートは、医療安全と適正な医療提供に資する。レポート26で詳述したWeb問診・記録のデジタル化の延長として、説明・同意の記録をデジタルで管理する仕組みの整備も今後の方向性として重要である。

8.3 適正な輸入支援における同意書の取り扱い

レポート33で詳述した適正な医薬品輸入を支援する事業においては、ヒト・動物由来物を含む医薬品の輸入時に患者同意書が必要となる点を踏まえ、医師が適切に患者同意を取得・記録できるよう支援することが、輸入手続きの適正性を担保する。


9. まとめ

未承認薬・適応外使用は、国内承認薬で効果が得られない患者に新たな治療選択肢を提供する重要な医療行為である一方、通常の保険診療以上に慎重な患者説明と確実な記録管理を必要とする。

その実務の核心は、①院内審査委員会による組織的な使用前審査、②インフォームドコンセントの体系的な説明範囲(診断名・目的・内容・リスク・代替選択肢・自己決定権等)の網羅、③専門用語に平易な説明を加えた患者にわかりやすい説明書の設計、④自由意思による同意と撤回権の明示、⑤医薬品副作用被害救済制度の対象外であることの明確な説明、⑥説明補助者の同席による理解度確認、⑦説明・同意・経過の診療録への正確な記録、という多層的な仕組みである。

これらは、「説明したこと」と「記録に残すこと」という二重の責務を果たすための体系であり、患者の自己決定権を守りながら、医療安全と適正な医療提供を担保する基盤となる。富山大学・藤田医科大学・昭和医科大学・三重大学・近畿大学といった各医療機関が整備する説明書・同意書・ガイドライン・院内審査体制は、未承認薬・適応外使用に関わるすべての医療機関にとって、実務設計の貴重な参照点となる。ヒト・動物由来物を含む医薬品の輸入時には患者同意書が輸入手続き上も必要となるなど、患者説明・記録は医療行為としての要請を超えた制度的な意味も持つことを、医療従事者・製薬企業・適正輸入事業者が共通して理解することが重要である。


参考情報・出典

  • 富山大学附属病院「未承認薬・禁忌薬・医薬品の適応外使用に関する説明書・同意書(記入例)」

  • 藤田医科大学岡崎医療センター「インフォームドコンセントガイドライン」(説明範囲13項目)

  • 昭和医科大学病院「未承認等の医薬品および医療機器等の使用に関する情報公開」(未承認新規医薬品等評価委員会・オプトアウト申請)

  • 三重大学医学部附属病院「未承認等の医薬品および医療機器の使用に関する情報公開」(適応外使用と救済制度対象外)

  • 近畿大学病院「インフォームドコンセント」(説明補助者の同席・同席率モニタリング・臨床研究7基本事項)

  • 地方厚生局(近畿厚生局)「医師等が治療に用いるために輸入する場合」(輸入確認申請の添付書類・患者同意書)

  • メディカルライフ株式会社「未承認薬の個人輸入は違法?」(未承認薬・適応外使用の定義)

  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療用医薬品 添付文書等情報検索」


本レポートは公開情報・行政情報に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断や法的助言を目的とするものではありません。本レポートは医薬品の不適切な個人輸入を推奨するものではなく、適正な医療提供のための患者説明・記録管理の理解を深めることを目的としています。未承認薬・適応外使用の実施にあたっては、所属医療機関の規程・院内審査体制に従い、必ず医師・薬剤師の専門的判断のもとで行ってください。

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