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医療DXによる業務設計の見直し  人材不足・タスクシフト・働き方改革に対応する医療機関の業務効率化戦略

JMWO-RR-0025

最終更新日 2026/6/18

医療DXによる業務設計の見直し  人材不足・タスクシフト・働き方改革に対応する医療機関の業務効率化戦略

医療DXによる業務設計の見直し

人材不足・タスクシフト・働き方改革に対応する医療機関の業務効率化戦略

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:医療DX 患者体験向上プロジェクト


1. はじめに――「人を増やせない」時代の業務設計

医療機関の経営者が直面している最も根本的な制約条件は、もはや「資金」ではなく「人材」である。MEDISMA(診療に必要な機能をワンパッケージ)の解説によれば、医療スタッフの有効求人倍率は令和6年時点で平均1.25倍を超えており、看護師・医療事務をはじめとする医療スタッフの確保が困難な状況が続いている。「単純に求人を出すだけではスタッフが集まりにくい状況」(MEDICALPASS解説)という現実認識のもと、「採用活動と並行して、業務効率化によって人手不足を補う必要がある」ことが、現在の医療機関経営における共通課題となっている。

さらに2024年(令和6年)4月から始まった「医師の働き方改革」制度は、この人材制約をより複雑なものにしている。MEDISMAの解説では、「時間外労働の上限規制が適用され、派遣元の病院が自院の医師の総労働時間を法定内に収める必要がある」ため、大学病院や基幹病院からの非常勤医師の引き揚げが一定程度生じていることが指摘されている。「働き方改革に関連して大学・他医療機関から『医師の引き揚げがあった』と回答した医療機関は5.3%」というデータは、外部からのアルバイト医師に依存していた診療体制が、今後より維持困難になる可能性を示唆している。

レポート15では患者から見たWeb問診・予約システムというDXを論じたが、本レポートは医療機関の内部、すなわち受付・看護・医療事務・診療報酬算定といった業務オペレーションそのものの設計見直しという視点から、医療DXを論じる。本レポートでは、業務効率化の体系的アプローチ・タスクシフト(業務範囲の再配分)・電話対応という構造的課題・チーム医療の推進・診療報酬算定漏れ対策を、医療機関経営者・医療従事者・医療DX関連企業の担当者が活用できる形で詳述する。


2. 医療機関を取り巻く人材構造の現実

2.1 看護職員の需給ギャップ

メディカル革命byGMOの解説では、厚生労働省が2019年に公表した「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ」の報告として、2025年には全国における看護職員の不足が13万〜20万人に上ると推計されていることが示されている。この需給ギャップは、すでに到来している「2025年問題」(団塊世代が75歳以上となり医療・介護需要が急増する時期)と表裏一体の課題であり、需要側の急増と供給側の構造的不足が同時に進行している。

2.2 タスクシフトという政策的対応

2024年4月からスタートした「医師の働き方改革」制度では、「医療現場における医師以外の専門職種の業務範囲拡大によるタスクシフトなどにより、医師の業務負担を軽減し、良質で効率的な医療を提供する方向性」(共創たまちいき解説)が示されている。

タスクシフトとは、従来医師が担っていた業務の一部を、看護師・薬剤師・医療事務職等の他の専門職種に移管することで、医師の業務負担を軽減し、各専門職がそれぞれの専門性を最大限に活かせるようにする取り組みである。この政策的方向性は、レポート21で詳述した院内コミュニケーション基盤の整備とも密接に関連しており、業務の再配分が円滑に機能するためには、職種間の正確な情報共有体制が前提条件となる。


3. 業務効率化の体系的アプローチ――フロー別の整理

3.1 受付業務の効率化

MEDICALPASSの解説によれば、「受付業務の効率化で課題となるのは、電話対応と患者の待ち時間」であり、その効率化の主なツールとしてオンライン予約システムとWeb問診が役立つとされる。これはレポート15で詳述した内容と一致するが、本レポートでは受付業務をより広い「業務フロー全体」の視点から位置づける。

受付業務の効率化は単に患者の利便性向上にとどまらず、受付スタッフの業務負荷軽減という人材確保の観点からも重要である。電話対応に多くの時間を取られていた受付スタッフが、オンライン予約・Web問診の普及によってその時間を他の業務(来院患者への丁寧な案内・診療補助等)に再配分できるようになることは、限られた人員でより質の高い患者対応を実現するための前提条件となる。

3.2 看護業務の効率化

クリニックの業務効率化を解説するBizRobo!(RPA Technologies)の記事では、「業務効率化は収益向上や人的リソースの有効活用などにおいて有効」であり、「人材不足が叫ばれる医療業界において、業務効率化は欠かせない」と位置づけられている。看護業務における効率化の対象としては、バイタルサイン測定・問診補助・検査準備・記録業務等が挙げられ、これらの定型的業務をデジタルツール・RPA(Robotic Process Automation)によって部分的に自動化することで、看護師が本来の専門性を要する患者ケア業務に集中できる環境を整備することが可能となる。

3.3 外来業務・会計業務の効率化

会計業務の効率化においては、自動精算機・オンライン決済システムの導入が代表的な施策である。共創たまちいきの解説で紹介されているクリニックプラスの事例では、「会計自動化や診療報酬算定作業のセントラル化(本部での一括作業)」によるDX化が進められており、複数の拠点を持つ医療機関グループにおいては、個々のクリニックで会計・算定業務を完結させるのではなく、本部に集約することで専門性とスケールメリットを両立させるモデルが実践されている。

3.4 在宅医療における電話対応の構造的課題

在宅医療を提供する医療機関に特有の課題として、電話対応による業務中断が挙げられる。在宅医療専門メディア(zaitakuiryo-c.com)の解説では、「業務が中断してしまう原因として多いのが電話対応」であり、「患者さんからの電話をはじめ、多職種連携に関わる様々な関係者からの電話が入り、電話の数自体を減らすことは難しい」という構造的な課題が指摘されている。

この課題への対応として、「在宅医療機関向けの電話代行サービスを利用しているクリニックや訪問看護ステーションが増えている」とされ、受電だけでなく内容の仕分けまで行い、受電内容に適した方法(電話やメールなど)で報告してくれるサービスの活用が紹介されている。「このようなサービスを利用することで業務中断がなくなるだけでなく、業務に優先順位をつけて取り掛かれるというメリットがある」という指摘は、単なる業務代行ではなく、医療従事者の認知的負荷(タスクの中断・再開に伴う集中力の消耗)を軽減する効果を持つことを示している。


4. チーム医療の推進という基盤的アプローチ

4.1 各専門職が専門性に専念できる体制の構築

メディカル革命byGMOの解説では、「チーム医療の推進は、クリニックの業務効率化に大きく貢献する」と位置づけられている。「医師、看護師、薬剤師、医療事務など、各専門職が自身の本来の業務に専念しながら連携することで、患者さんへの診療の質を高めつつ、個々のスタッフの負担を軽減できる」という考え方は、前述のタスクシフトの理念と一致するものである。

さらに、「自院の人的リソースが不足している場合は、必要に応じて他の医療機関と連携することも検討できる」という視点は、単一の医療機関内でのチーム医療にとどまらず、地域における医療機関間の連携(外部の医療機関との協力)も含めた、より広い意味でのチーム医療の重要性を示している。「クリニック単体では対応しきれない診療でも、専門の医療機関と連携して診療を進められれば、患者さんの満足度向上にもつながる」という指摘は、レポート14で詳述したアレルギー疾患における専門医療機関への適切な紹介体制とも接続する重要な視点である。

4.2 スタッフ間連携の不足という落とし穴

ニチイ学館の解説では、「医師、看護師、医療事務員など、スタッフ間の連携が不足していると、情報共有が滞り、業務効率が低下する」という基本的な課題が示されている。業務効率化のためにデジタルツールを導入したとしても、それを使う各スタッフ間の連携・役割分担が不明確であれば、ツールの効果は限定的になる。

「チーム医療の推進により、各メンバーの役割を明確にし、連携を強化することが求められる。定期的なミーティングや情報共有の仕組みを整えることが効果的」(ニチイ学館解説)という提言は、レポート21で詳述した院内コミュニケーション基盤整備の重要性を、業務効率化という別の角度から再確認するものである。

4.3 属人的な働き方からの転換

共創たまちいきが紹介するクリニックプラスの福井院長の言葉「これまでの属人的な働き方から、『仕事を助け合い、分け合い、引き継ぎながら』がスタンダードになることで、医師のライフワークバランスも整いやすくなった」は、業務効率化の本質的な目的が単なる時間短縮ではなく、組織としての持続可能性の構築にあることを示している。

特定の個人(多くの場合は院長自身)に業務が集中する属人的な体制は、その個人が不在・休職・退職した際に医療提供体制そのものが機能不全に陥るリスクを内包する。DX化によって業務プロセスを標準化・可視化することは、組織としてのリスク耐性を高める経営戦略としての意味も持つ。


5. 医療DXの政策的背景――医療DX令和ビジョン2030

5.1 クリニック運営への影響

富士通の解説によれば、2022年にスタートした「医療DX令和ビジョン2030」は、電子カルテ情報の標準化や電子処方せんの普及など、日本の医療の在り方を大きく変えようとする国家的な政策枠組みである。レポート15で詳述した電子カルテ情報共有サービス・標準型電子カルテの開発は、この大きな政策ビジョンの構成要素であり、個々のクリニックの業務設計見直しは、こうした国家レベルの医療DX推進と整合性を持って進められることが望ましい。

5.2 診療報酬算定漏れという見過ごされがちな課題

業務効率化の議論において、しばしば見過ごされがちな重要な課題が「診療報酬の算定漏れ」である。富士通の解説では、「その診療、本当に請求できていますか?クリニックでよくある算定漏れ5つの原因と対策」というテーマが取り上げられており、「診療報酬の算定漏れを、『医事課のミス』とだけ捉えていませんか?実際には、医師や看護師を含む院内のさまざまな場面に原因が潜んでいます」という指摘がなされている。

算定漏れは医療機関の収益に直接的な影響を与える経営課題であると同時に、適切に提供した医療行為に対する正当な対価を得られていないという公平性の問題でもある。この課題への対応には、医事課単独の努力ではなく、診療現場(医師・看護師)から会計・算定業務までを一体的に捉えた業務フロー全体の見直しが必要となる。


6. アレルギー疾患領域における業務設計の特性

6.1 季節性ピーク需要への業務体制対応

レポート16で詳述した花粉症シーズンの需要集中は、業務設計の観点からも重要な検討対象である。シーズン中の患者集中に対応するためには、単にWeb問診・予約システムを導入するだけでなく、看護師・医療事務の人員配置を季節的に調整する・パート職員の柔軟な活用・他院との連携による紹介体制の整備といった、より広範な業務設計上の対応が求められる。

6.2 慢性疾患の継続的フォローアップ業務の効率化

アレルギー疾患(慢性蕁麻疹・アトピー性皮膚炎・喘息等)の継続的な管理においては、定期的な再診・処方継続・治療効果のモニタリングといった業務が反復的に発生する。これらの業務の一部(薬剤の継続処方確認・服薬状況の確認等)を、医師以外の専門職(看護師・薬剤師)にタスクシフトすることで、医師がより複雑な臨床判断(治療方針の見直し・生物学的製剤導入の検討等)に時間を割けるようになる業務設計が望ましい。

6.3 アレルギー検査業務のオペレーション設計

レポート6で詳述した特異的IgE検査・皮膚プリックテスト等のアレルギー検査は、検体採取・検査機器操作・結果説明という複数のステップを伴う。これらの検査業務フローを標準化し、看護師・検査技師への適切なタスクシフトを行うことで、医師は検査結果の解釈と治療方針決定という専門性の高い業務に集中できる。


7. 業務効率化を進める3ステップ

MEDISMAの解説が示す医療現場の業務改善アプローチを参考に、実践的な3ステップを以下に整理する。

ステップ1:現状の業務フローの可視化

受付→問診→診察→検査→会計→フォローアップという一連の業務フローにおいて、各ステップでどの職種がどのような業務を行っているか、どこに時間がかかっているか、どこでミス・漏れが生じやすいかを可視化する。この可視化のプロセス自体が、属人的に行われていた業務の標準化の第一歩となる。

ステップ2:効率化ツールの選定と段階的導入

可視化された業務フローのうち、最も負荷が高い・最も改善効果が見込まれる領域から、優先順位をつけてデジタルツールを導入する。レポート15で詳述したように、全機能を一度に導入するのではなく、段階的な導入アプローチが現実的である。

ステップ3:タスクシフトと役割の再定義

ツール導入によって生まれた業務の余力を、どの職種にどのように再配分するかを明確に定義する。単にツールを導入するだけでなく、「誰が何をするか」という役割分担の再設計を伴わなければ、業務効率化の効果は限定的にとどまる。


8. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意

8.1 医療機関の業務効率化ニーズを踏まえた製品・サービス提案

製薬企業・医療機器企業のMR・MSLが医療機関と関係構築を行う際、単に製品の有効性・安全性を訴求するだけでなく、医療機関が直面している人材不足・業務効率化というニーズを理解した上で、製品導入に伴う業務フローへの影響(看護師の業務負荷増加の可能性等)を踏まえた提案を行うことが、長期的な信頼関係構築につながる。

8.2 服薬指導・患者教育業務のタスクシフト支援

アレルギー疾患領域において、舌下免疫療法の服薬指導・生物学的製剤の自己注射指導等は、医師から看護師・薬剤師へのタスクシフトが進みやすい領域である。製薬企業が提供する患者教育資材・指導用ツールを、こうしたタスクシフトを支援する設計(看護師・薬剤師が単独で説明可能な分かりやすい資材)にすることは、医療機関の業務効率化に資する重要な貢献となる。


9. まとめ

医療機関の業務設計見直しは、「人を増やせない」という構造的な制約条件——令和6年時点で医療スタッフの有効求人倍率が平均1.25倍を超え、2025年には看護職員が13万〜20万人不足すると推計される現実——のもとで進められる、避けられない経営課題である。

2024年4月から始まった医師の働き方改革は、タスクシフトという形で医療現場の業務範囲の再配分を促しており、受付・看護・会計・診療報酬算定といった各業務フローにおけるデジタルツールの活用と、それに伴う役割分担の再設計が同時に求められている。

業務効率化の本質は、単なる時間短縮ではなく、各専門職がそれぞれの専門性に集中できる環境を整備し、属人的な働き方から組織的な働き方への転換を実現することにある。チーム医療の推進・スタッフ間の情報共有体制の整備・診療報酬算定漏れへの体系的対応といった複数の施策を組み合わせることで、限られた人材で質の高い医療提供体制を維持・向上させることが可能になる。

医療DX令和ビジョン2030という国家的な政策枠組みのもとで進む電子カルテ標準化・電子処方せん普及と、個々の医療機関における業務フロー見直しが両輪となって進むことが、持続可能な地域医療提供体制の構築につながる。


参考情報・出典

  • MEDISMA「医療現場の業務改善3ステップ│クリニックの事例と効率化ツール5選」(厚労省医療スタッフ有効求人倍率データ・2024年医師の働き方改革解説)

  • MEDICALPASS「【クリニック向け】医療の業務改善を進めるステップと効率化ツールを紹介」

  • BizRobo!(RPA Technologies)「クリニックの業務効率化8選!受付・看護師・外来業務の改善例を紹介」

  • 共創たまちいき「医療業界が直面する『2025年問題』DX化を進めるクリニック」(クリニックプラス福井院長インタビュー)

  • ニチイ学館「【コラム】クリニックにおける生産性向上と業務効率化の取り組み vol.1」

  • メディカル革命byGMO「クリニックの業務効率化のコツ|おすすめのサービスを紹介」(厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ」2019年引用)

  • 富士通「医療DXでクリニックはどう変わる?~国策動向から導入効果まで徹底解説~」(株式会社リンクアップラボ酒井麻由美氏監修)

  • zaitakuiryo-c.com「クリニック事務業務効率化のポイントとは?事例やその解決法を解説」(在宅医療専門コールセンターOkitell365解説)


本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の経営判断・診断・治療判断を目的とするものではありません。最新の制度・政策動向については関連省庁の発表をご確認ください。

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