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予防接種に関する情報整理  帯状疱疹ワクチン(シングリックス・弱毒生ワクチン)の有効性・安全性・定期接種化・最新知見の包括的解説

JMWO-RR-0011

最終更新日 2026/6/17

予防接種に関する情報整理  帯状疱疹ワクチン(シングリックス・弱毒生ワクチン)の有効性・安全性・定期接種化・最新知見の包括的解説

予防接種に関する情報整理

帯状疱疹ワクチン(シングリックス・弱毒生ワクチン)の有効性・安全性・定期接種化・最新知見の包括的解説

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:帯状疱疹 早期相談啓発プロジェクト予防接種啓発プロジェクト


1. はじめに――帯状疱疹ワクチンが「ゲームチェンジャー」となった理由

帯状疱疹(Herpes Zoster:HZ)とその最も深刻な合併症である帯状疱疹後神経痛(PHN)は、適切な治療介入がなければ数ヶ月から数年にわたる慢性疼痛をもたらす。従来、帯状疱疹は「発症したら治療する」という事後対応が中心であったが、ワクチンの進歩によって「発症そのものを予防する」という一次予防のパラダイムが確立した。 

2020年1月に日本で発売されたシングリックス(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)は、50歳以上での発症予防効果97%・70歳以上でも91%という従来のワクチンを大幅に超える有効性を示し(N Engl J Med. 372(22):2087-2096, 2015)、帯状疱疹予防医療の在り方を根本から変えた。さらに2023年6月には適応が免疫機能低下リスクのある18歳以上へ拡大し、2025年4月1日からはB類疾病の定期接種として公費負担が開始された(厚生労働省・GSKステートメント)。

加えて2024〜2025年には、シングリックス接種が認知症リスクを17〜20%低下させるという大規模研究(Nature Medicine 2024・ウェールズの約28万人コホート)や、心血管イベントリスクを16〜18%低下させるというメタ解析(ESC, 2025)が相次いで報告され、帯状疱疹ワクチンはもはや「帯状疱疹の予防」という枠を超えた高齢者の包括的健康管理戦略における重要な位置づけを持つようになっている。

本レポートでは、帯状疱疹ワクチン2種(シングリックスと弱毒生水痘ワクチン)の有効性・安全性・接種スケジュール・対象者・費用・定期接種制度・禁忌・最新エビデンスを、医師・医療従事者・製薬企業担当者が活用できる形で包括的に解説する。


2. 帯状疱疹ワクチン2種の概要と比較

2.1 現在日本で使用可能な2種類のワクチン

日本において帯状疱疹予防を目的として現在使用可能なワクチンは以下の2種類である。

項目

シングリックス®(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)

弱毒生水痘ワクチン(ビケン®)

製造元

GSK(グラクソ・スミスクライン)

阪大微生物病研究会(BIKEN)

ワクチン種別

不活化(遺伝子組換えサブユニット)ワクチン

生ワクチン

日本発売年

2020年1月(50歳以上向け)

帯状疱疹予防として添付文書改訂(2016年)

接種回数

2回

1回

接種方法

筋肉内注射

皮下注射

接種間隔

初回〜2〜6ヶ月後(免疫機能低下者は1〜2ヶ月)

1回のみ

発症予防効果(50歳以上)

約97%

約51〜70%

発症予防効果(70歳以上)

約91%

約41〜50%

PHN予防効果(70歳以上)

約85.5%

(データ限定的)

効果持続期間

10年以上(2024年GSK発表)

約5年

免疫機能低下者への接種

可能(不活化ワクチンのため)

禁忌(生ワクチンのため)

費用(定期接種外・自費)

1回あたり2〜5万円(医療機関により異なる)

1回あたり約8,000〜1万円

主な副反応

注射部位の痛み・腫れ・赤み・発熱・頭痛・倦怠感(頻度が高い)

注射部位の軽度反応(頻度が比較的低い)

出典:厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」ページ、ひまわり医院(N Engl J Med. 2015; Clinical Infectious Diseases 2022)、アイシークリニック上野院解説

2.2 シングリックスの作用機序

シングリックスは「抗原である糖タンパクE(gE)」および「AS01Bというアジュバントシステム」を組み合わせた遺伝子組換えサブユニットワクチンである(GSKステートメント2024年12月)。

  • 糖タンパクE(gE):VZVの表面に存在する主要な抗原タンパク質。年齢とともに低下するVZV特異的CD4+T細胞応答・液性免疫の維持に重要な役割を担う。

  • AS01Bアジュバントシステム:MPL(モノホスホリルリピドA)とQS-21(サポニン誘導体)の2種類の免疫増強剤を組み合わせたシステム。加齢に伴う免疫応答の低下(免疫老化)を補完し、強力で持続的なCD4+T細胞・液性免疫を誘導する。

このAS01Bアジュバントシステムが「加齢に伴う自然な免疫低下に寄与する可能性」があるとされており(GSKステートメント)、これが70歳以上の高齢者においても91%という高い有効性を維持する理由となっている。また、後述する認知症・心血管イベントリスク低減効果の潜在的メカニズムとして、AS01Bアジュバントによる免疫活性化が神経炎症を抑制する効果が示唆されている(Taquet M et al. 2025、産婦人科クリニックさくら解説)。


3. 有効性データの詳細

3.1 帯状疱疹発症予防効果

シングリックスの有効性は、50歳以上約16,000人を対象とした第III相二重盲検プラセボ対照試験(ZOE-50試験)および70歳以上約13,900人を対象とした試験(ZOE-70試験)によって確立されている。

  • ZOE-50試験:50歳以上の帯状疱疹発症予防効果 97.2%(95%CI: 93.7〜99.0)(N Engl J Med. 2015;372(22):2087-2096)

  • ZOE-70試験:70歳以上の帯状疱疹発症予防効果 89.8%(95%CI: 84.2〜93.7)(同誌同号掲載)

  • 70歳以上でのPHN予防効果85.5%(70〜79歳)、88.8%(80歳以上)(ひまわり医院解説・Clinical Infectious Diseases 2022掲載データ)

弱毒生水痘ワクチンとの比較では、50歳以上での発症予防効果97%(シングリックス)対51〜70%(生ワクチン)と、シングリックスが圧倒的に高い有効性を示す(本郷台ホームクリニック解説)。

3.2 効果の持続期間

  • シングリックス:2024年GSK社発表による長期追跡データで、接種後10年以上にわたって有意な帯状疱疹予防効果が持続することが確認されている(ひまわり医院解説)

  • 弱毒生水痘ワクチン:効果は接種後約5年で低下するとされており、長期的な予防効果はシングリックスに劣る(本郷台ホームクリニック・アイシークリニック上野院解説)

3.3 免疫機能低下者への有効性

シングリックスは2023年6月26日に「帯状疱疹の発症リスクが高いと考えられる18歳以上」への適応拡大が承認された(日経メディカル2023年8月・GSKプレスリリース2023年6月)。

追加承認の根拠となった6つの臨床試験の対象は以下の免疫機能低下患者群である(GSKプレスリリース2023年6月)。

  • 自家造血幹細胞移植を受けた患者

  • 腎移植を受けた患者

  • 血液がん(白血病・リンパ腫・多発性骨髄腫等)罹患患者

  • 固形がん罹患患者(化学療法・免疫抑制療法中を含む)

  • HIV感染症患者

免疫機能低下者では帯状疱疹の発症リスクが健常者より著明に高く、PHNなどの合併症による入院率・医療資源の使用量も増加する。「PHNになる率は50歳以上で20%・80歳以上で33%であり、免疫不全状態ではさらにリスクが高まる」(GSKプレスリリース2023年6月)ことからも、免疫機能低下者へのシングリックス接種の意義は極めて大きい。

なお、免疫機能低下者への接種スケジュールは1〜2ヶ月間隔(通常の2〜6ヶ月より短縮)で2回接種を完了する(日経メディカル2023年8月・産婦人科クリニックさくら解説)。


4. 安全性と副反応

4.1 シングリックスの副反応

シングリックスの最も顕著な特徴のひとつが「副反応の頻度が弱毒生水痘ワクチンより高い」という点である。これはAS01Bアジュバントシステムによる強力な免疫賦活化の結果であり、有効性の高さと副反応頻度はある意味でトレードオフの関係にある。

局所副反応(接種部位)

  • 注射部位の痛み:最も高頻度(60〜80%以上の接種者で報告)

  • 腫れ・発赤:40〜60%程度

全身副反応

  • 筋肉痛・疲労感:40〜60%

  • 頭痛:35〜40%

  • 悪寒:25〜30%

  • 発熱:15〜20%

多くの副反応は接種後1〜3日以内に出現し、2〜3日以内に自然軽快する(アイシークリニック上野院・0th CLINIC解説)。副反応への対処として、翌日の予定が詰まっていない日を選んで接種すること・発熱・疼痛が辛い場合にはアセトアミノフェン等の解熱鎮痛薬を検討すること・接種部位を強く揉まず腫れが強いときは冷却すること、が実践的なアドバイスとして推奨されている(0th CLINIC解説)。

重篤な副反応(頻度不明):アナフィラキシー・血小板減少性紫斑病・無菌性髄膜炎が報告されており、接種後30分間の院内経過観察が標準的に推奨される(産婦人科クリニックさくら・アイシークリニック上野院解説)。

4.2 弱毒生水痘ワクチンの副反応

弱毒生水痘ワクチンは副反応の頻度がシングリックスより低く、接種部位の軽度の発赤・腫れ・疼痛が主な副反応である。まれに接種後に軽度の水疱様発疹が出現することがある(生ワクチンの特性として)。

4.3 禁忌と慎重接種

弱毒生水痘ワクチンの禁忌

  • 免疫機能に異常のある患者(原発性・続発性免疫不全・免疫抑制療法中・悪性腫瘍患者等)

  • 妊婦

  • 本ワクチンの成分または新フレオマイシンに対するアレルギー歴のある者

  • 発熱を呈している者

シングリックスの禁忌

  • 本ワクチンの成分に対するアレルギー歴のある者

  • 妊婦(安全性データが不十分)

  • 発熱を呈している者

シングリックスは不活化ワクチンであるため、免疫機能低下者・免疫抑制療法中の患者にも接種可能であることが、生ワクチンと比較した最大のアドバンテージのひとつである。


5. 接種スケジュールと実務

5.1 シングリックスの接種スケジュール

シングリックスは2回接種(1回0.5mL、筋肉内注射)が必須であり、1回目の接種だけでは十分な免疫が形成されないため、2回接種の完了が前提となる。

標準的スケジュール

  • 1回目接種後、2〜6ヶ月の間隔をおいて2回目を接種

短縮スケジュール(免疫機能低下者)

  • 帯状疱疹の発症リスクが高い18歳以上への適応での接種間隔は1〜2ヶ月

「2回目までの完了を前提に、最初からスケジュールを組むのがおすすめ」(0th CLINIC解説)という実務的アドバイスは、2回接種を確実に完了させるための患者教育において重要な視点である。仕事の都合等で2ヶ月待つことが困難な場合は最短1ヶ月での接種も可能だが、2ヶ月以上の間隔の方がより強固な免疫応答が期待できる(豪徳寺整形外科クリニック解説)。

5.2 生ワクチンとの切り替え

すでに弱毒生水痘ワクチンを接種している場合、シングリックスへの切り替えは可能である。ただし、切り替えの最適な間隔については医師と相談の上で判断する必要がある。逆に、シングリックス1回目の接種後に生ワクチンへの切り替えは通常推奨されない。

5.3 他のワクチンとの同時接種

シングリックスは不活化ワクチンであり、インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチン・COVID-19ワクチンなど他の不活化ワクチンとの同時接種が可能である。ただし、副反応の評価が難しくなる場合があることと、各ワクチンの接種部位を分けることが推奨される。


6. 2025年4月からの定期接種制度

6.1 定期接種化の経緯と意義

2024年12月18日、第65回厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)において、帯状疱疹ワクチン「シングリックス」の定期接種化が了承され、2025年4月1日よりB類疾病(個人予防に重点を置くワクチン)の定期接種として開始された(厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」ページ・GSKステートメント)。

B類疾病の定期接種は、個人の意思に基づく「任意接種」として実施されるが、国が公費を一部負担する形で自己負担額が軽減される。定期接種化の主な意義は以下の通りである。

  • 費用負担の軽減による接種率向上

  • 国として帯状疱疹・PHN予防の公衆衛生上の重要性を公式に認定

  • かかりつけ医による系統的な接種勧奨の促進

  • 自治体・医療機関レベルでの周知・勧奨体制の整備

定期接種化以前から、全国730以上の自治体がシングリックスへの公費助成を実施しており(GSKステートメント2024年12月時点・約96%の自治体で50歳以上が対象)、定期接種化はこの流れを全国的・制度的に整備した形となる。

6.2 定期接種の対象者

基本対象者(厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」ページ):

  • 年度内に65歳になる方(標準的な接種年齢)

経過措置対象者(2025年度〜2029年度の5年間):

  • 年度内に70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳となる方

特別対象者

  • 60〜64歳で免疫機能に障害がある方(HIVによる免疫障害で日常生活がほとんど不可能な方等)

2025年度は100歳以上の全員も対象となる(厚生労働省・同上)。

使用できるワクチン:定期接種ではシングリックスと弱毒生水痘ワクチンの両方が使用可能であるが、医師との相談のうえでワクチンを選択する。

6.3 自己負担額の目安

定期接種の自己負担額は自治体ごとに設定される。参考として以下のデータが公表されている。

  • 東京都江戸川区の例:生ワクチン 4,000円、シングリックス 11,000円/回(アイシークリニック上野院解説)

  • 世田谷区の例(2026年度):区からの予診票を利用した定期接種としての自己負担額が設定されている(豪徳寺整形外科クリニック解説)

定期接種対象外の年齢(50〜64歳など)での自費接種の場合、シングリックスは1回あたり2〜5万円程度(医療機関により異なる)となる。


7. 接種推奨の優先度――高リスク群の特定

7.1 接種優先度の考え方

帯状疱疹ワクチンの接種を特に強く推奨すべき対象者を以下に示す。

最優先接種推奨群

  • 50歳以上の全般(免疫機能が正常な方):帯状疱疹の発症リスクが著明に上昇する50歳からの接種開始が推奨される

  • 70歳以上:PHN移行リスクが特に高い(70歳以上での移行率50%超の報告あり)ため、積極的接種が特に重要

  • 免疫抑制療法を受ける予定・受けている方(18歳以上):シングリックスの適応拡大対象。造血幹細胞移植前後・固形がん・血液がん・腎移植後等

  • 糖尿病・慢性腎臓病・心不全・COPDなどの慢性疾患を有する方:免疫機能への影響・感染リスクの増大から、帯状疱疹発症リスクが高い

  • ステロイド長期内服・メトトレキサート・DMARDs等を使用中の方:免疫抑制状態に伴うリスク増大(シングリックスは接種可能・生ワクチンは禁忌の場合が多い)

相談・検討推奨群

  • 過去に帯状疱疹を発症した経験がある方(再発率は約6%・免疫抑制患者では高い)

  • 帯状疱疹の家族歴がある方

  • 職業上多くの人と接触する機会がある方(医療従事者・教育関係者等)

7.2 弱毒生水痘ワクチンが適している場合

シングリックスが圧倒的に高い有効性を持つ一方で、弱毒生水痘ワクチンが選択される場合もある。

  • コスト面での優先(1回接種・費用が低い)

  • シングリックスの副反応(強い倦怠感・発熱等)が就業・生活上支障となりやすい方

  • シングリックスの成分に対するアレルギーがある場合

ただし、弱毒生水痘ワクチンは免疫機能低下者への接種が禁忌であり、また効果持続期間が約5年と短いため、追加接種の必要性についても医師との相談が推奨される。


8. 帯状疱疹ワクチンに関する最新エビデンス

8.1 認知症リスク低下との関連

2024年7月25日にNature Medicineに発表された大規模研究では、シングリックス接種者(65歳以上、約10万人)とゾスタバックス(米国の旧型生ワクチン)接種者(同規模)を比較し、シングリックス接種者の方が6年以内の認知症発症リスクが17%低いことが示された(青葉藤が丘駅前ひらやま内科・内視鏡クリニック解説)。

また、ウェールズでの帯状疱疹ワクチン接種政策を「自然実験」として活用した約28万人の7年間追跡コホート研究では、帯状疱疹ワクチン(弱毒生ワクチン)接種により7年間の認知症発症リスクが約20%低下したことが示された(阿部クリニック解説)。オックスフォード大学のポール・ハリソン教授はこの結果を「現時点で認知症の進行を遅らせる効果的な手段がほとんどない中で、20%のリスク低減は公衆衛生上非常に重要」と評価している。

さらに別の研究では、特に女性でシングリックスの認知症予防効果が強く現れ、認知症発症までの期間が22%延長したとの報告がある(産婦人科クリニックさくら解説、Taquet M et al. 2025引用)。

メカニズムとしては、シングリックスに含まれるAS01Bアジュバントの免疫活性化がVZVによる神経炎症を抑制し、脳を保護する効果が働く可能性が考えられている(同)。ただし、現時点ではこれらは観察研究・コホート研究に基づくものであり、認果関係の確立には今後さらなる研究が必要とされている。

8.2 心血管イベントリスク低減との関連

2025年のESC(欧州心臓病学会)で発表されたメタ解析では、50歳以上のシングリックス接種者において心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中等)のリスクが16〜18%低下したことが報告された(産婦人科クリニックさくら解説)。

帯状疱疹そのものが心血管リスクと関連することは以前から指摘されており(帯状疱疹後の心筋梗塞・脳卒中リスク増加)、ワクチンによる帯状疱疹予防を通じた二次的な心血管保護効果が示唆されている。ただしこちらも観察研究に基づくものであり、今後のランダム化比較試験等によるさらなる検証が求められる。

8.3 接種可能年齢の下限化への議論

現在の定期接種対象は65歳以上(経過措置含む)・標準的適応は50歳以上であるが、「定期接種年齢を早めてほしい」との意見も存在する。理由として、帯状疱疹は50歳以前でも発症例があること、近年20〜40代での発症報告が増えていること(産婦人科クリニックさくら解説)、早期接種による長期保護の確保などが挙げられる。ただし費用対効果・公費負担の拡大可能性等の議論があり、今後の政策判断の対象となる。


9. 医師・医療従事者のための実践的接種勧奨

9.1 接種勧奨のタイミングと機会

帯状疱疹ワクチン接種勧奨の最適な機会として以下が挙げられる。

  • 50歳の定期健診・人間ドック:50歳到達時に「帯状疱疹ワクチンの接種時期」として積極的に案内する

  • 65歳の定期接種開始:定期接種対象年齢に達した際に、自治体からの予診票とともに接種機会を案内する

  • 免疫抑制療法開始前:悪性腫瘍・自己免疫疾患・臓器移植前の患者に対して、免疫抑制開始前のシングリックス接種を積極的に勧奨する。免疫抑制が深刻になってからでは接種のタイミングを逸する場合がある。

  • インフルエンザワクチン接種時:秋の予防接種時期に、帯状疱疹ワクチンの情報提供も合わせて行う

9.2 患者への説明ポイント

患者への説明で押さえるべき核心的なポイントを整理する。

「なぜ今接種が必要か」を伝える3点

  1. 帯状疱疹は日本人の3人に1人が生涯に発症し、50歳以降に急増する

  2. 一度PHNに移行すると数年にわたる激痛が続く可能性がある

  3. シングリックスは97%の予防効果を持ち、10年以上効果が続く

「シングリックスの副反応について正直に伝える」

  • 接種後1〜3日間、だるさ・発熱・接種部位の痛みが出ることが多い

  • ほとんどは2〜3日で自然軽快する

  • この副反応は免疫がしっかり反応している証拠であり、長期的な予防効果の高さと表裏一体

「2回接種の完了が重要」を最初から伝える

  • 1回では十分な効果が得られない

  • 2〜6ヶ月後の2回目接種をスケジュールに入れておく

9.3 免疫機能低下患者への接種のタイミング

造血幹細胞移植・固形がん化学療法・腎移植等の免疫抑制療法が予定されている患者への接種タイミングは治療開始前が最適である。免疫抑制が深刻になると免疫応答が低下し、ワクチンの有効性が減弱する可能性があるためである。

治療後の接種については、各治療の種類・免疫回復の程度に応じて主治医・専門医と協議の上で判断する。造血幹細胞移植後の場合は移植後3〜6ヶ月以降、腎移植後は免疫抑制療法が安定してから等の目安がある(GSKプレスリリース2023年6月・日経メディカル2023年8月を参考)。


10. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意

10.1 定期接種化後の市場環境

2025年4月の定期接種化により、シングリックスの接種機会は自治体・かかりつけ医・内科・皮膚科を通じて広く提供されるようになった。製薬企業担当者にとっては、以下の活動が重要となる。

医療従事者向け情報提供

  • 定期接種制度の詳細(対象者・費用・スケジュール)の正確な情報共有

  • 副反応管理の実践的なガイダンス(患者への事前説明・副反応発現時の対処法)

  • 免疫機能低下患者への接種タイミングに関する専門医・かかりつけ医連携促進

患者教育ツールの開発

  • 「帯状疱疹・PHNのリスクとワクチンの重要性」を伝える患者向けリーフレット・動画

  • 2回接種のスケジュール管理を支援するリマインダーツール

  • 副反応に関する正確かつ安心感を与える説明資材

10.2 認知症・心血管エビデンスの情報提供

2024〜2025年に発表された認知症リスク低下・心血管イベントリスク低減の研究は、帯状疱疹ワクチンの「副次的な健康便益」として医師・患者の接種意欲を高める可能性を持つ。ただし、これらはまだ観察研究・コホート研究の段階であり、確立したエビデンスとして提示するには慎重を要する。エビデンスの強度を正確に伝えながら、「現時点での有望な知見」として情報共有することが適切である。


11. まとめ

帯状疱疹ワクチン、特にシングリックスは現代医学における予防医学の優れた実例のひとつである。50歳以上で97%・70歳以上でも91%という発症予防効果、70歳以上でのPHN予防効果85.5%、10年以上の効果持続という臨床データは、帯状疱疹による苦痛と後遺症を大幅に回避できることを示している。

2025年4月からの定期接種化は、帯状疱疹・PHN予防の公衆衛生上の重要性を国が公式に認めた歴史的な節目である。65歳節目接種という制度に加え、免疫機能低下患者への18歳以上への適応拡大(2023年6月)も踏まえ、対象患者を適切に特定して積極的に接種を勧奨することが、今後の医療現場での重要な役割となる。

さらに、認知症リスク17〜20%低下・心血管イベントリスク16〜18%低下という最新エビデンスは、帯状疱疹ワクチンが単なる「帯状疱疹の予防」を超えた高齢者の包括的健康管理における戦略的ツールとなりつつあることを示唆している。

「発症してから治療する」から「発症させない」へというパラダイムシフトを、臨床の最前線において具体的な接種勧奨行動に落とし込むことが、帯状疱疹医療における最大の課題であり機会である。


参考情報・出典

  • 厚生労働省「帯状疱疹ワクチン」公式ページ(定期接種制度・対象者・費用)

  • GSK「帯状疱疹ワクチン『シングリックス筋注用』の定期接種化に関するステートメント」2024年12月18日

  • GSK「シングリックス筋注用・接種対象者拡大プレスリリース(18歳以上)」2023年6月26日

  • N Engl J Med. 2015;372(22):2087-2096(ZOE-50・ZOE-70試験、シングリックス有効性)

  • Clinical Infectious Diseases. Volume 74, Issue 8, 2022(シングリックス長期有効性データ)

  • GSK社「シングリックス10年以上の予防効果に関する発表」2024年

  • 日経メディカル「帯状疱疹ワクチン、高リスクな18歳以上も適応に」2023年8月

  • ひまわり医院「帯状疱疹ワクチンの種類と費用・副反応」(有効性データ詳細)

  • 本郷台ホームクリニック「帯状疱疹ワクチン(シングリックス、弱毒生ワクチン)」

  • アイシークリニック上野院「帯状疱疹ワクチン完全ガイド:効果・種類・費用から2025年定期接種化まで」

  • 0th CLINIC「シングリックス(帯状疱疹ワクチン)費用・回数・間隔・副反応と対策」(日本橋)

  • 産婦人科クリニックさくら「帯状疱疹ワクチン・シングリックスの最新知見」(認知症・心血管イベント)

  • Taquet M et al. (2025)「シングリックスと認知症・神経炎症に関する研究」(産婦人科クリニックさくら解説引用)

  • 青葉藤が丘駅前ひらやま内科・内視鏡クリニック「帯状疱疹ワクチン(シングリックス)と認知症」(Nature Medicine 2024引用)

  • 阿部クリニック「帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低減の関連性」(ウェールズ約28万人コホート)

  • ESC 2025「帯状疱疹ワクチンと心血管イベントリスク低減メタ解析」(産婦人科クリニックさくら解説引用)

  • 豪徳寺整形外科クリニック「帯状疱疹ワクチン(シングリックス)は何年おき?効果・間隔・費用を解説」(2026年度定期接種情報)


本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。

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