News

お知らせ

chevron_right

帯状疱疹後の痛みについて  帯状疱疹後神経痛(PHN)の病態・疫学・診断・薬物療法・インターベンション・予防の包括的解説

2026/6/17 02:11

帯状疱疹後の痛みについて  帯状疱疹後神経痛(PHN)の病態・疫学・診断・薬物療法・インターベンション・予防の包括的解説

帯状疱疹後の痛みについて

帯状疱疹後神経痛(PHN)の病態・疫学・診断・薬物療法・インターベンション・予防の包括的解説

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:帯状疱疹 早期相談啓発プロジェクト


1. はじめに――「皮膚が治っても痛みが残る」という現実

帯状疱疹(Herpes Zoster:HZ)の急性期において、皮膚の発疹・水疱は通常2〜4週間で治癒する。しかしその後も、皮膚の異常が消えたにもかかわらず強烈な痛みが持続することがある。これが帯状疱疹後神経痛(Post-Herpetic Neuralgia:PHN)であり、帯状疱疹の合併症のうち最も頻度が高く、かつ患者のQOLと日常機能に最も深刻な影響を与える後遺症である。

PHNの痛みは「まるで体の中にトゲが刺さっているようだ」「焼けるような痛みが1日中続く」と表現されるほど激烈なものであり(SINcell Clinicの患者体験記述)、数ヶ月から場合によっては数年以上継続することがある。70代・80代の高齢者が肋骨・顔面に発症した帯状疱疹の後に、旅行にも孫との触れ合いにも行けないほどの慢性疼痛を抱えるという現実が臨床の場で繰り返されている。 

PHNは特異的な根治的治療が存在しない難治性疾患であり、いったん発症すると治療が長期化し患者の社会参加・就労・睡眠・精神的健康に広範な影響をもたらす。一方で、帯状疱疹の急性期に適切な治療を行うこと、さらには予防ワクチンの接種によって、PHNへの移行リスクを大幅に低下させることが可能である。

本レポートでは、PHNの定義・疫学・病態生理・臨床的特徴・診断・薬物療法・インターベンション治療・予防の各側面を、医師・医療従事者・製薬企業担当者が活用できる形で詳述する。


2. 定義と疫学

2.1 PHNの定義

PHNの定義については国際的に統一された基準はないが、臨床的に最も広く用いられるのは「帯状疱疹発症後90日以上経過しても続くVAS値40mm以上の強い痛み」である(日本大学医学部附属板橋病院解説)。

他の定義として「発疹消退後1ヶ月以上続く疼痛」「帯状疱疹発症後3ヶ月以上持続する痛み」「帯状疱疹の急性期が終息した後に残存する神経障害性疼痛」なども用いられており、報告によって定義が異なるため有病率データの解釈には注意が必要である。

2.2 PHNの発生頻度

帯状疱疹関連痛(Zoster-Associated Pain:ZAP)は急性期の疼痛とPHNを包括する概念として、ZAPとして一体的に管理する視点が重要とされている(マルホ医療関係者向けサイト解説)。

PHNへの移行率は年齢・急性期重症度・治療開始の速さに強く依存する。

  • 50歳以上の帯状疱疹患者の12.5%がPHNへ移行する(慢性の痛み情報センター・系統的レビューとメタ解析より)

  • 50歳以上で発症した場合、約20%の患者に3ヶ月以上の神経痛が残るとされる(MYメディカルクリニック解説)

  • 帯状疱疹発症直後に中等度以上の痛みがある患者は65%に上るが、90日後に中等度以上の痛みが残る患者は9.2%まで低下する(日本大学医学部附属板橋病院解説)

  • 発症から6ヶ月を超えると痛みの自然軽快の可能性は低くなる(同)

  • 70歳以上で急性期に強い痛みがある場合、PHN移行率が50%を超える報告もある

  • 全帯状疱疹患者の約3%は皮膚症状が回復しても痛みが残る(ファーマスタイル・日本大学病院麻酔科教授佐伯茂氏解説)

日本ペインクリニック学会の指針(ペインクリニック指針第4版)では「50歳以上で年間3〜4人/1,000人が帯状疱疹を発症し、発症者数は年々増加している」と示されており、高齢化が進む日本においてPHNの潜在的な患者数は今後さらに増加することが予測される。

2.3 PHN患者のQOLへの影響

PHNが患者の生活に与える影響はきわめて広範にわたる(マルホ医療関係者向けサイト解説・市立御前崎総合病院解説)。

  • 睡眠障害:持続痛・電撃痛による入眠困難・中途覚醒

  • 日常生活動作の障害:着替え・入浴・就寝時の寝返りなど、衣服の接触が激痛を誘発する

  • 精神的健康への影響:慢性疼痛によるうつ症状・不安・意欲低下・食欲低下

  • 社会参加の制限:外出困難・趣味・旅行・孫との触れ合いができない

  • 就労能力の低下・喪失:特に顔面・上肢のPHNでは業務継続が困難になる場合がある

「PHNに移行して耐えがたい痛みが続く場合、痛みによる不眠や意欲低下・食欲減衰なども生じる。この痛みの悪循環には脳・脊髄を含めた中枢神経系が大きく関与している」(市立御前崎総合病院解説)という指摘は、PHNが単なる「皮膚の問題の後遺症」ではなく、中枢神経系レベルでの複雑な病態変化に基づく疾患であることを示している。


3. 病態生理

3.1 急性期の神経障害

帯状疱疹の急性期において、再活性化した水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は知覚神経節(脊髄後根神経節・三叉神経節等)から末梢神経を逆行性に伝播し、神経軸索・ミエリン鞘(髄鞘)・神経節細胞に直接的な炎症・変性・壊死をもたらす。この急性期の神経組織障害の程度が、PHNへの移行リスクおよび重症度と強い相関を示す。

PHNのリスク因子として「皮疹が重症で」「発症当時の帯状疱疹の症状が重度であった」「発疹に先行する痛みがあった」が挙げられているのは(慢性痛Q&A・日本大学医学部附属板橋病院解説)、いずれも急性期の神経障害の程度を反映した因子である。

3.2 末梢性感作

急性期の神経炎症により、傷害を受けた末梢神経(C線維・Aδ線維)が異常興奮性を獲得する。通常は痛み刺激にのみ反応する高閾値侵害受容器が、より低い閾値(ごく軽微な触刺激)でも興奮するようになる。この「末梢性感作(peripheral sensitization)」が、PHNにおけるアロディニア(異痛症:触るだけで痛い状態)の重要な機序のひとつである。

損傷したC線維からは、安静時にも自発性の異常放電が生じる。この自発的な末梢の電気活動が、持続痛・自発痛の起源となる。一部の患者では末梢神経障害が重篤であるために、感覚の喪失(感覚鈍麻)とともに自発痛が残存するという逆説的な状態が生じる。

3.3 中枢性感作

PHNが難治性となる最大の理由は「中枢性感作(central sensitization)」の形成にある。急性期の反復する末梢からの痛みシグナルが脊髄後角ニューロンに継続的に流入することで、後角ニューロンの興奮性が持続的に高まった状態(中枢性感作)が形成される。

中枢性感作が確立すると、末梢からの入力刺激がなくても(あるいは非侵害刺激でも)後角ニューロンが興奮し、痛みとして認識される状態が持続する。このため、急性期の炎症が治まり末梢の皮疹が消えた後も、「脊髄・脳レベルで痛みの処理回路が再編成・固定化」されてしまい、慢性疼痛が持続する(市立御前崎総合病院解説)。

「PHNに移行すると、もとの痛みが大きく増強する。このような状態では従来の消炎鎮痛薬は効果がないことが多い」(市立御前崎総合病院解説)という臨床的事実は、中枢性感作という病態が一般的な炎症性疼痛とは根本的に異なるメカニズムで維持されていることを反映している。

3.4 神経構造の変性と修復の不均衡

PHNにおける神経の変性は不可逆的な部分を含む。VZVによって傷害を受けた知覚神経(特にC線維)は、一部が変性・消失する。正常であれば痛み刺激を伝えるC線維が失われると、触覚を伝えるAβ線維が脊髄後角での「痛み投射ニューロン(WDR細胞)」とのシナプスを形成し直す「スプラウティング(sprouting)」が生じることが知られており、これがアロディニアのもうひとつの神経学的基盤と考えられている。

また、神経節での炎症・壊死によって生じた神経節細胞の脱落は、その後の感覚再建を困難にし、慢性的な感覚異常(しびれ・知覚低下・異常感覚)とともに痛みが残存する複雑な臨床像をつくり出す。


4. 臨床症状と診断

4.1 PHNの疼痛の特徴

PHNの疼痛は大きく3つのパターンに分類される(日本大学医学部附属板橋病院解説)。

持続痛(constant pain):消えることなく続く灼熱感・締め付け感・圧迫感。「焼けるような」「しぼられるような」と表現される。睡眠中も続くことがあり、慢性疲労・抑うつの大きな原因となる。

発作性電撃痛(paroxysmal pain):突発的に生じる刺すような・電気が走るような鋭い痛み。数秒〜数十秒持続し、その後しばらく鈍い痛みが残ることがある。突発性のため予測不能であり、患者の生活への恐怖感・不安を高める。

アロディニア(allodynia:異痛症):通常では痛みを生じないような軽微な刺激(衣服の接触・シーツの重み・そよ風・水滴など)が強い痛みとして感じられる状態。PHN患者の日常生活動作(着替え・入浴・臥位での睡眠)を著しく制限する最も特徴的な症状のひとつ。

これらの症状は単独で存在することもあるが、多くの患者では複数のパターンが混在して現れる。

4.2 その他の感覚症状

  • 痛覚過敏(hyperalgesia):通常の痛み刺激に対して、通常より強い痛みを感じる状態

  • 感覚鈍麻(hypoesthesia)・感覚喪失:神経の変性により、皮疹の部位の触覚・温度覚が低下・消失している場合がある。「痛いのに感覚がない」という逆説的な状態はPHNに特有の症状のひとつ。

  • 掻痒感(pruritus):PHNの一部で強いかゆみが後遺症として残ることがある。神経障害性の掻痒として捉えられる。

4.3 精神・心理的症状

PHNの慢性疼痛は精神・心理的側面に深刻な影響を及ぼす。

  • うつ症状・大うつ病:慢性疼痛との高い合併率が知られており、PHN患者では健常高齢者と比較してうつ病の有病率が有意に高い

  • 不安障害:痛みの予測不能性・電撃痛への恐怖がある不安状態を引き起こす

  • 睡眠障害:入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒の組み合わせが慢性疲労を加速させる

  • 意欲低下・社会的孤立:外出困難・活動制限により社会参加が減少し、孤立感・虚無感が増大する

「PHNの痛みによる不眠や意欲低下・食欲減衰は、痛みの悪循環をつくり出す」(市立御前崎総合病院解説)という視点は、PHNのマネジメントが疼痛管理だけでなく精神的サポートを含む包括的アプローチを必要とすることを示している。

4.4 診断

PHNの診断は主に臨床的に行われる。帯状疱疹の既往(発疹・神経痛)と発症部位に一致した慢性疼痛の持続が診断の根拠となる。皮疹の治癒確認と疼痛の部位・性質の評価が中心である。

補助的な検査として、神経障害性疼痛の評価ツールとして開発された「PainDETECT」「LANSS(Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs)」などのスコアリングが活用される場合がある。

鑑別診断として、他の神経障害性疼痛(糖尿病性神経障害・三叉神経痛・脊髄損傷後疼痛等)・帯状疱疹以外の原因による肋間神経痛・癌性疼痛・帯状疱疹後の再発・新たな帯状疱疹などが考慮される。


5. 薬物療法――「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」に基づく治療体系

5.1 薬物療法の基本方針

PHNに特異的な根治的治療は存在せず、症状緩和が治療の主体となる(日本大学医学部附属板橋病院解説)。薬物療法の選択は日本ペインクリニック学会「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」に基づくアルゴリズムに従い、段階的に行われる(マルホ医療関係者向けサイト解説)。

治療の目標は完全な除痛ではなく、「疼痛の軽減と機能回復」「日常生活動作の改善」「睡眠の質の改善」「精神的健康の維持」という現実的なアウトカムを目指すことが重要である。

5.2 第一選択薬

Ca²⁺チャネルα2δリガンド(プレガバリン・ガバペンチン)

プレガバリン(リリカ®)は国内外のガイドラインでPHNを含む神経障害性疼痛の第一選択薬に位置づけられており(日本ペインクリニック学会ガイドライン・医知創造ラボ解説)、Ca²⁺チャネルのα2δサブユニットに結合して電位依存性Ca²⁺チャネルを阻害し、興奮性神経伝達物質(グルタミン酸・サブスタンスP等)の放出を抑制することで神経の過剰興奮を鎮める。

PHN患者へのプレガバリン300mgを13週間投与した国内臨床試験では、疼痛スコアが有意に減少した(ひまわり医院解説・「帯状疱疹後神経痛に対するプレガバリンの有効性および安全性の検討─多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験」)。

副作用として眠気・ふらつき・浮腫・体重増加が問題となる。高齢者では特に眠気・転倒リスクに注意が必要であり、低用量から開始して慎重に漸増する。腎機能に応じた用量調整(クレアチニンクリアランス30〜60mL/分では減量)が必要であり、腎機能低下を呈する高齢者PHN患者への投与において重要な管理ポイントとなる。

ガバペンチン(ガバペン®等)はプレガバリンと同様の作用機序を持ち、RCTによる有効性が示されている。プレガバリンと比較してバイオアベイラビリティが低く用量設定が複雑である。

より新しいCa²⁺チャネルα2δリガンドとしてミロガバリン(タリージェ®)が2019年に国内承認されている。PHN・糖尿病性末梢神経障害に対して保険適用を持ち、プレガバリンと比較してα2δ-1サブユニットへの選択性が高く、眠気の副作用がやや少ない可能性が指摘されている(ひまわり医院解説)。

三環系抗うつ薬(TCA)

アミトリプチリン・ノルトリプチリン・イミプラミンなどの三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込み阻害を通じた下行性疼痛抑制系の活性化により神経障害性疼痛を緩和する。PHNに対するRCTでの有効性が示されており、日本ペインクリニック学会ガイドラインの第一選択薬のひとつに位置づけられている(マルホ医療関係者向けサイト解説・医知創造ラボ解説)。

ただし抗コリン作用(口渇・便秘・尿閉・視力低下)・起立性低血圧・QT延長・鎮静効果が高齢者において問題となりやすく、心疾患(特に不整脈・心ブロック)を合併する患者への使用は慎重に検討する必要がある。就寝前の少量投与から開始し、副作用を観察しながら漸増するアプローチが現実的である。

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

デュロキセチン(サインバルタ®)は神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版において第一選択薬に位置づけられており(マルホ医療関係者向けサイト解説)、TCАと比較して抗コリン作用が少なく高齢者での使用が比較的安全である。ただし、PHN単独での十分な有効性エビデンスは限られているとの指摘もある(医知創造ラボ解説)。

ノイロトロピン®(ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤)

国内独自の医薬品であり、日本ペインクリニック学会ガイドラインでは第一選択薬のひとつに位置づけられている(医知創造ラボ解説)。下行性疼痛抑制系の活性化・炎症性物質の遊離抑制等の複合的な作用機序を持ち、内服・注射の両剤形がある。他の神経障害性疼痛薬との組み合わせで使用されることが多い。

5.3 第二選択薬

トラマドール(軽度オピオイド)

神経障害性疼痛薬物療法ガイドラインの第二選択薬として、μオピオイド受容体作動とノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害の二重作用機序を持つ。第一選択薬で効果不十分な場合に追加・変更される。便秘・嘔気・眠気等の副作用管理が必要。

5.4 第三選択薬(強オピオイド)

トラマドール以外のオピオイド系鎮痛薬(オキシコドン・モルヒネ等)は、長期にわたる重篤なPHNで第一・第二選択薬による疼痛コントロールが不十分な場合に考慮される(clinicalsup.jp 推奨度2)。副作用(便秘・嘔気・眠気・依存性)の慎重な管理・モニタリングが必須であり、高齢者では特に転倒リスクへの注意が必要。

5.5 外用薬

リドカインテープ(リドカインテープ18%:リドカーナ®):局所麻酔薬の経皮吸収製剤として、局所のアロディニアに対して全身性副作用が少ない治療法として有用。PHNへの保険適用のある外用局所麻酔薬として日本でも使用される。

カプサイシン外用:海外ではカプサイシン高濃度パッチ(Qutenza®)がPHNの局所治療として承認されているが、日本では現時点での保険適用は限定的である。


6. インターベンション治療(神経ブロック療法)

6.1 神経ブロック療法の位置づけ

神経ブロック療法は薬物療法に対して補助的な治療法として位置づけられることが多いが(日本大学医学部附属板橋病院解説)、薬物療法単独で疼痛コントロールが不十分な場合に積極的に検討される。急性期から早期に行うことで、PHN移行予防効果への貢献が期待される側面もある(日本ペインクリニック学会指針第6版・ペインクリニック指針PDF)。

6.2 主な神経ブロックの種類

持続硬膜外ブロック(硬膜外ステロイド注射含む):PHNの急性期・亜急性期での疼痛管理において有効性が報告されており、局所麻酔薬(±ステロイド薬)の硬膜外投与により疼痛を軽減する。急性期(帯状疱疹発症後1ヶ月以内)での実施が特に有効とされる。

傍脊椎ブロック(Paravertebral Block):帯状疱疹の発症領域の脊髄神経根レベルで局所麻酔薬を投与する方法。硬膜外への薬液流入が約70%で生じるとされ、硬膜外ブロックに準じた効果が得られる(日本ペインクリニック学会指針PDF)。

末梢神経ブロック:肋間神経ブロック・大腰筋筋溝ブロック・三叉神経ブロックなど、発症部位に応じた末梢神経への局所麻酔薬投与。

星状神経節ブロック(SGB):顔面・頭頸部・上肢の帯状疱疹・PHNに対して交感神経ブロックとして実施されることがある。

6.3 パルス高周波法(Pulsed Radiofrequency:PRF)

神経組織を破壊しない非熱的な高周波を神経に照射することで、侵害受容の慢性的な抑制を目的とする方法。脊髄後根神経節(DRG)へのPRF照射は、PHNへの有効性が報告されており(ペインクリニック指針第6版・PDF)、神経破壊を伴わない安全な介入として注目される。

6.4 脊髄電気刺激療法(SCS)

脊髄の硬膜外腔に電極を留置し、電気刺激によって下行性疼痛抑制系を活性化する神経調節療法(Neuromodulation)。様々な神経障害性疼痛での有効性が報告されているが、PHNに対しては「発症から1年以内の早期症例には効果がある」との報告がある一方で、長期症例での有効性は限定的という意見も多い(ペインクリニック指針第4版PDF)。薬物療法・神経ブロックに抵抗性の難治性PHNに対する選択肢として検討される。


7. 非薬物療法・補完的アプローチ

7.1 心理的アプローチ

PHNの慢性疼痛管理において、認知行動療法(CBT)は疼痛に対する否定的な認知パターン(破局化思考・恐怖回避行動)の修正を通じて、疼痛体験そのものへの適応能力を高める有効な介入として、慢性疼痛医療において位置づけられている。うつ・不安を合併するPHN患者では、精神科・心療内科との連携が重要である。

7.2 生活指導

  • 衣服選択:できるだけ皮膚刺激の少ない素材(綿・シルク等の柔らかい素材)を選択する(銀座よしえクリニック解説)

  • 栄養管理:損傷した末梢神経の修復を支援するビタミンB12(しじみ・アサリ・青魚・レバー等に多く含まれる)を意識的に摂取する(同)

  • 温熱療法:患部への適度な温熱刺激が痛みを和らげる場合がある。一方で熱刺激でかえって痛みが増強する患者も存在するため、個別評価が必要

  • 睡眠衛生の指導:睡眠障害がPHNの悪化・うつ症状の悪循環につながるため、睡眠衛生教育(就寝環境の整備・就寝前のルーティン等)が重要

7.3 多職種チームによる包括的疼痛管理

難治性PHNでは、麻酔科(ペインクリニック)・神経内科・皮膚科・精神科・リハビリテーション科・薬剤師・看護師・公認心理師が協働する多職種チームによるアプローチが最も効果的な管理を提供する。「一週間程度経過しても痛みが継続する場合、あるいは痛みの増強がみられる場合は、速やかにペインクリニック等の痛み専門外来を受診することをおすすめする」(市立御前崎総合病院解説)という実践的な助言が、PHN管理の実態を示している。


8. PHN予防――帯状疱疹ワクチンの臨床的意義

8.1 ワクチンによるPHN予防効果

PHNは「帯状疱疹を発症させない」ことが最大の予防戦略である。帯状疱疹ワクチンは帯状疱疹の発症予防に加えて、発症した場合でも重症化・PHNへの移行を抑制する効果を持つ。

組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)のPHN予防効果

  • PHNの発症率を67〜90%低下させるclinicalsup.jp 推奨度1)

  • 70歳以上での神経痛予防効果は85.5%(ひまわり医院解説・N Engl J Med引用データ)

  • 「シングリックスは帯状疱疹後神経痛が皆無とされている」との報告もある(産婦人科クリニックさくら解説)

弱毒生水痘ワクチン(ビケン)のPHN予防効果

  • 帯状疱疹後神経痛の発症を約1/3に減少させる(日本ペインクリニック学会指針第4版PDF・米国60歳以上38,546人を対象とした平均3.1年追跡研究)

これらのデータは、帯状疱疹ワクチンの接種がPHN一次予防(発症前予防)として最も効果的な医学的介入であることを示している。2025年4月1日からのシングリックスの定期接種化は、PHN予防の公衆衛生上の意義が社会的に認められた歴史的な節目である。

8.2 急性期の適切な抗ウイルス薬療法によるPHN予防

帯状疱疹発症後72時間以内の抗ウイルス薬投与開始がPHNリスクを低下させることはすでに確立された知見である(報告 Oxman MN et al. NEJM 2005他)。急性期の疼痛管理における神経ブロックも、PHNへの移行予防に貢献する可能性が示されており、急性期からの積極的な疼痛管理がPHN一次予防の重要な柱となる。


9. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意

9.1 PHN領域の薬物療法市場

PHNの薬物療法市場においては、プレガバリン・ガバペンチン・TCA・SNRIが中心的な役割を担っているが、いずれの薬剤もPHNに特化した完全な疼痛コントロールは困難な場合が多く、「難治例に対する新たな治療選択肢」への医療ニーズは高い。

ミロガバリン(タリージェ®)のようなα2δリガンドの改良型・新しい作用機序を持つ神経障害性疼痛治療薬・局所治療(高濃度カプサイシンパッチ等)の普及が今後の市場動向を形成する可能性がある。

9.2 シングリックス定期接種化後の市場動向

2025年4月からの定期接種化により、シングリックスの接種対象が自治体助成付きで65歳節目接種として拡大された。製薬企業担当者にとっては、医師・薬剤師・地域連携への情報提供と、シングリックスの2回接種スケジュール(2〜6ヶ月間隔)の遵守を支援する患者教育ツール・医療従事者向け情報資材の整備が重要な役割となる。

9.3 ペインクリニック・神経内科・皮膚科との連携強化

PHN管理における多職種連携モデルでは、皮膚科(急性期診断)→プライマリケア(薬物療法導入)→ペインクリニック(難治例の神経ブロック・SCS)という連携フローが実践的である。各診療科における情報提供と連携促進が、PHN患者のQOL改善につながる。


10. まとめ

帯状疱疹後神経痛(PHN)は、「皮膚が治っても痛みが残る」という患者の苦痛を長期にわたって継続させる難治性の神経障害性疼痛である。50歳以上の帯状疱疹患者の12.5%がPHNに移行し、70歳以上で急性期重症例ではPHN移行率が50%を超えることもある。

その病態は末梢性感作・中枢性感作・神経構造変性という複合的なメカニズムに基づき、従来の消炎鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)が無効であることが多く、Ca²⁺チャネルα2δリガンド(プレガバリン・ガバペンチン・ミロガバリン)・三環系抗うつ薬・SNRI・ノイロトロピン®などが日本ペインクリニック学会ガイドラインの第一選択薬として推奨されている。

薬物療法で効果不十分な難治例には硬膜外ブロック・傍脊椎ブロック・末梢神経ブロック・パルス高周波法・脊髄電気刺激療法といったインターベンション治療が選択肢となる。一方、最も確実なPHN対策は帯状疱疹の一次予防であり、2025年4月に定期接種化されたシングリックスは70歳以上でのPHN予防効果85.5%という優れた成績を示す。

「PHNが"タチの悪い病気"であることを多くの方々に認識していただく必要がある」(市立御前崎総合病院解説)という言葉は、医療者・患者・製薬企業・行政が共通して持つべき認識である。早期の抗ウイルス薬治療・急性期疼痛管理・ワクチン接種という3つの柱によるPHN予防の社会的普及が、この厄介な後遺症による苦痛を減らす最善の道である。


参考情報・出典

  • 日本ペインクリニック学会「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」

  • 日本ペインクリニック学会「ペインクリニック指針第4版・第6版」(帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛)

  • 日本大学医学部附属板橋病院「帯状疱疹後神経痛(PHN)」解説(日本大学医学部附属板橋病院公式サイト)

  • マルホ株式会社「帯状疱疹関連痛の臨床経過と治療のポイント」(医療関係者向けサイト)

  • 市立御前崎総合病院麻酔科「帯状疱疹後神経痛について」

  • 慢性の痛み情報センター「帯状疱疹後神経痛のリスクファクターに関する系統的レビューとメタ解析」(50歳以上の12.5%がPHN移行)

  • ファーマスタイル(m3.com)「帯状疱疹後神経痛」(日本大学病院麻酔科教授佐伯茂氏解説)

  • ひまわり医院「帯状疱疹後神経痛・プレガバリン国内試験データ」

  • GSK「帯状疱疹ワクチン『シングリックス筋注用』の定期接種化に関するステートメント」2024年12月18日

  • clinicalsup.jp「帯状疱疹後神経痛」(三環系抗うつ薬・ガバペンチン・プレガバリン推奨度2・ワクチンPHN予防効果67〜90%低下 推奨度1)

  • 医知創造ラボ「帯状疱疹後神経痛(PHN)の最新治療戦略と難治例へのアプローチ」(EFNSガイドライン・日本ペインクリニック学会ガイドライン薬剤位置づけ)

  • 銀座よしえクリニック「帯状疱疹後神経痛(PHN)と有効な治療とは?」(ミロガバリン・セルフケア解説)


本レポートは公開情報・学術文献に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断を目的とするものではありません。臨床的判断については、最新のガイドラインおよび専門医の判断に基づいて行ってください。

関連プロジェクト:帯状疱疹 早期相談啓発プロジェクト

お問い合わせはこちら

一覧ページに戻る

一覧ページに戻る

keyboard_arrow_right