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福祉・医療の垣根を越えたアクセシブルな情報設計  改正障害者差別解消法とWCAG準拠が医療コンテンツに求める「環境の整備」

2026/7/1 09:00

福祉・医療の垣根を越えたアクセシブルな情報設計  改正障害者差別解消法とWCAG準拠が医療コンテンツに求める「環境の整備」

福祉・医療の垣根を越えたアクセシブルな情報設計

改正障害者差別解消法とWCAG準拠が医療コンテンツに求める「環境の整備」

日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:地域健康リテラシープロジェクト


1. はじめに――「高齢者向け」の先にある、より広い設計原則

レポート58で詳述した高齢者向けデザインは、加齢に伴う視覚機能の変化に焦点を当てた、具体的なデザイン原則を論じた。本レポートは、プロジェクト15「地域健康リテラシー」の3本目として、視点をさらに広げ、「障害の有無・年齢を問わず、すべての人が情報にアクセスできること」を保障する、ウェブアクセシビリティという法的・技術的な枠組みを論じる。

2024年4月、改正障害者差別解消法の施行により、民間事業者にも障害者への「合理的配慮の提供」が義務化された。この法改正は、レポート38で詳述したプレインランゲージレポート58で詳述した高齢者向けデザインが扱ってきた「わかりやすさ」の追求を、単なる推奨事項から、法的な文脈を持つ社会的要請へと押し上げるものである。本レポートでは、この法改正の正確な内容、WCAG(ウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン)・JIS X 8341-3という国際・国内規格、そして医療コンテンツにおける具体的な実践方法を、医療機関・製薬企業のWeb担当者・自治体関係者が活用できる形で詳述する。


2. 2024年4月の法改正という転換点

2.1 「合理的配慮」と「環境の整備」という2つの異なる概念

この法改正を理解する上で最も重要かつ、しばしば誤解される点が、「合理的配慮」と「環境の整備」という2つの異なる概念の区別である。株式会社リーディング・ソリューションの解説では、この違いが正確に整理されている。「『合理的配慮の提供』とは、障がいのある人の活動などを制限しているバリアを取り除くために、障がいのある人が何らかの対応を必要としている意思が示されたときには、負担が重すぎない範囲で対応することを指します」。

一方、「環境の整備」は、これとは異なる性格を持つ。デジタルマーケティングブログの解説では、政府の基本方針を引用しつつ、「法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化,意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援,障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を,環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている」と説明している。

2.2 ウェブアクセシビリティは「義務」ではなく「努力義務」という正確な理解

多くの解説記事が、この法改正に関する重要な誤解を訂正している。Weblyの解説では、「2024年4月に改正障害者差別解消法が施行されたことで,『合理的配慮の提供』が法的に義務化されました。このたび義務化された『合理的配慮』にWeb上での情報やサービスを誰でも利用できるようにするための『ウェブアクセシビリティ対応』は含まれませんが,巷では『ウェブアクセシビリティが義務化される』との情報も飛び交っています」と、正確な理解の重要性を強調している。

Goodpatchの解説でも同様に、「ウェブアクセシビリティ対応は努力義務でも対応すべき」とされ、株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの神森勉氏へのインタビュー記事でも、「今回の法改正によりウェブアクセシビリティが義務化されるということはありません。合理的配慮の提供は義務化されますが,ウェブアクセシビリティについては,合理的配慮の事前改善措置でもある環境の整備という所に分類されていて,環境の整備については努力義務となっておるためウェブアクセシビリティの実現は義務化されていない」という、明確な整理が示されている。

2.3 罰則はないが「レピュテーションリスク」という現実的な動機

同インタビュー記事では、この努力義務であることの実務的な含意も示されている。「合理的配慮の義務化による罰則はありませんが……合理的配慮を欠いたことによる罰則は有りませんが,他方,レピュテーションリスクを考えると,合理的配慮義務を果たしていくことは大事になるかと思います……SNSで『あの会社は……』と,ネガティブな情報が拡散されていく」というリスクが指摘されている。

デジタルマーケティングブログの解説でも「義務違反の罰則はないが,非対応による民事訴訟リスクがある点」が指摘されており、法的な罰則がないことが、対応不要を意味するわけではないことが、複数の専門家によって強調されている。


3. WCAG・JIS X 8341-3という技術的な指針

3.1 WCAGの4原則

Webアクセシビリティの国際的な標準規格であるWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)については、複数の解説が共通してその構造を示している。デジタルマーケティングブログの解説では、「WCAGの4原則(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)と適合レベル(A/AA/AAA)の考え方」が示され、「実務ではレベルAAへの準拠を目標とするケースが最も多い」(LeanGo社の解説)とされている。

具体的な達成基準の例も複数の解説で示されている。「動画の音声情報を字幕として提供すること」「すべてのコンテンツをキーボードのみで操作可能にすること」(適合レベルA)、「動画に音声解説を提供すること」「テキストは機能やデザインを損なうことなく200%まで拡大できるようにすること」(適合レベルAA)といった項目が、リーディング・ソリューションの解説で紹介されている。

3.2 JIS X 8341-3という日本独自の規格

日本国内における独自の規格として、「JIS X 8341-3」も重要な位置を占める。JECCICAの解説では、「日本国内でのガイドラインとしては、『JIS X 8341-3』があり……WCAGを参考にしつつも、日本独自の視点からアクセシビリティを考慮しています」とされ、リーディング・ソリューションの解説では、正式名称が「『高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ』」であり、「2004年に日本工業規格によって制定された規格の一種」で「2回の改定が行われ,現在はJIS X 8341-3:2016となっています」という詳細な経緯が示されている。

メンバーズメディカルマーケティングカンパニーの解説では、この規格が「日本の政府機関や地方自治体が運営する,公共Webサイトの品質を向上させるために策定された『みんなの公共サイト運用ガイドライン』において,民間事業者は,『JIS X 8341-3』の(A,AA,AAA)の3段階の適合レベルのA(基本的な対応レベル)〜大企業ならばAA(広範なアクセシビリティの問題に対応できるレベル)を満たす対応が求められる」という、実務上の目安が示されている。


4. 医療・製薬業界という特に重要性の高い領域

4.1 障害者手帳取得者「約560万人」という規模

アクセシビリティ対応の社会的な重要性を理解する上で、具体的な人口統計が重要である。ある解説サイトでは、「日本では2025年に団塊世代が後期高齢者(75歳以上)を迎え,高齢者のインターネット利用者は急増しています。また内閣府の推計では,国内の障害者手帳取得者は約560万人に上ります(身体・知的・精神障害の合計)」というデータが示されている。

この数値は、レポート12で詳述した高齢者のヘルスリテラシーの議論と組み合わせると、医療・健康情報にアクセスする上で何らかの困難を抱える人口が、決して少数ではないことを示している。

4.2 医療・製薬業界特有の重要性

メンバーズメディカルマーケティングカンパニーの解説では、この課題が医療・製薬業界にとって特に重要であることが強調されている。「これから医療や製薬業界のデジタル対応が進む中でより多くの方々がWebサイトを利用し,利便性を求めるように変化していくことは確実です。医薬品についてWeb上から調査したり,医療機関の予約をする際に誰一人取り残されない社会を目指すためにも企業側がウェブアクセシビリティを意識し続け,努力することの重要性」が指摘されている。

これはレポート15で詳述したオンライン予約システムレポート37〜40で詳述した疾患啓発コンテンツといった、本レポートシリーズで扱ってきたあらゆる医療デジタルコンテンツが、アクセシビリティという観点から再検討されるべきことを示している。


5. 実務的な対応方法

5.1 代替テキスト(alt属性)という基本中の基本

株式会社電通デジタルの解説では、多くのウェブサイトを診断してきた経験から、実務的な着手ポイントが具体的に示されている。「これまでに様々なウェブサイトを診断してきましたが,見つかる問題点はほぼ共通していて,それがウェブアクセシビリティを高めるための基本中の基本と合致しています……画像にはimg要素のalt属性を用いて,画像が伝えている情報を代替テキストとして記述しましょう。画像が伝えている情報がマシンリーダブルになり,スクリーンリーダーや点字ディスプレイで読み取れるようになります」。

5.2 コントラストという視覚的配慮

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの神森氏のインタビューでは、「視覚的なページの見やすさにつながるコントラスト」の重要性が示され、「背景色と前景色,背景色と文字色といったコントラストの強さがWCAGで指定されています」とされている。これは、レポート58で詳述した配色の原則——高齢者向けデザインにおけるコントラストへの配慮——が、WCAGという国際規格においても明確に基準化されていることを示している。

5.3 小規模事業者への現実的な指針

LeanGo社の解説では、リソースの限られた中小規模の医療機関・事業者にとっての現実的な優先順位が示されている。「2024年改正障害者差別解消法は事業者規模による除外規定を設けていません。ただし『合理的配慮』は『過重な負担とならない範囲で』という条件があるため,小規模事業者は優先度の高い対応から着手することが現実的です。まずはコントラスト比・代替テキスト・キーボード操作の確認から始めることをおすすめします」。

5.4 アクセシビリティポリシーの公開という透明性の確保

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズの神森氏は、対応状況を訪問者に示す方法についても具体的な提案をしている。「フッター部分に載せると,収まりが良いと思います。サイトポリシーやプライバシーポリシーと同じように,アクセシビリティポリシーとして掲げる形ですね。リンク先のページには,『このサイトは,JIS X 8341-3:2016のシングルAに準拠しています』『AAに一部準拠しています』のようなことを掲出しておけば,『このサイトはウェブアクセシビリティに正しく対応しているんだな』と,訪問者も分かる」。

これはレポート47で詳述したメディカルノートの編集方針の公開と同様、方針の透明な開示が、読者からの信頼獲得につながるという、共通の設計思想を示している。


6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践

6.1 症状チェックリストのアクセシビリティ対応

レポート26で詳述したWeb問診フォームを設計する際、「すべてのコンテンツをキーボードのみで操作可能にすること」というWCAGの基本要件を満たすことは、視覚障害・肢体不自由を持つ患者が、スクリーンリーダーやキーボード操作のみで問診に回答できることを保障する、重要な設計要件である。

6.2 動画コンテンツの字幕対応

レポート38で詳述した図解・動画の活用(複雑な病態生理の説明等)において、聴覚障害者への配慮として、WCAGが求める「動画の音声情報を字幕として提供すること」という基本要件を満たすことが、疾患啓発コンテンツの到達範囲を広げる上で重要である。


7. 製薬企業・医療機関担当者への含意

7.1 コンテンツ制作段階からのアクセシビリティ組み込み

レポート37で詳述した疾患啓発コンテンツの社内審査体制に、WCAGレベルAAへの準拠チェックを組み込むことは、規制遵守・薬機法対応と同様、コンテンツ公開前の標準的な確認プロセスとして位置づけるべきである。

7.2 アクセシビリティポリシーの策定・公開

自社の疾患啓発サイト・患者向けサイトについて、対応しているアクセシビリティのレベル(JIS X 8341-3のA/AA準拠状況)を明示したアクセシビリティポリシーを策定・公開することは、レポート40で詳述したE-E-A-T(信頼性)の観点からも、YMYL領域における信頼性向上に資する取り組みとなる。


8. まとめ

2024年4月に施行された改正障害者差別解消法は、民間事業者に「合理的配慮の提供」を義務化したが、ウェブアクセシビリティ対応そのものは、これとは区別される「環境の整備」として、引き続き努力義務にとどまる。この正確な理解——義務化されたのは個別対応であり、事前の環境整備は努力義務であるという区別——は、多くの解説記事が繰り返し強調する、実務上極めて重要なポイントである。

しかし、罰則がないことは、対応不要を意味しない。国内の障害者手帳取得者が約560万人に上るという規模、そして高齢化が進む中でインターネット利用者の多様性がさらに拡大していくという趨勢を踏まえると、WCAGの4原則(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)とレベルAAへの準拠、JIS X 8341-3という国内規格への対応は、医療・製薬業界にとって、レピュテーションリスクの回避を超えた、社会的責任としての意義を持つ。

代替テキストの付与、コントラスト比の確保、キーボード操作への対応という基本的な取り組みから始め、アクセシビリティポリシーの公開という透明性の確保まで、レポート58で詳述した高齢者向けデザインの知見と組み合わせることで、「誰一人取り残さない」医療・健康情報の発信が実現される。これは、レポート57で詳述した地域社会全体のヘルスリテラシー向上という、より大きな目標を支える、実務的かつ法的な基盤である。


参考情報・出典

  • Goodpatch Blog「【2026年最新】ウェブアクセシビリティで対応すべきことは?障害者差別解消法改正との関連性」

  • デジタルマーケティングブログ(デジタルアイデンティティ)「ウェブアクセシビリティ対応を徹底解説!2024年義務化の範囲や導入・対策方法」

  • JECCICA(ジャパンEコマースコンサルタント協会)「2024年4月施行『改正障害者差別解消法』への適切なWebアクセシビリティ対応」

  • メンバーズメディカルマーケティングカンパニー「ウェブアクセシビリティ対応は義務?障害者差別解消法改正に伴う必要な対応とは」

  • 株式会社リーディング・ソリューション「Webアクセシビリティと2024年4月から法改正で義務化される内容との関係とは?」

  • Webly「【2025年最新版】ウェブアクセシビリティ対応とは?義務化・罰則の対象を分かりやすく解説」

  • 株式会社LeanGo「【2026年版】ウェブアクセシビリティとは?基礎から対応義務・改善方法まで徹底解説」

  • 株式会社電通デジタル「ウェブアクセシビリティについて、多く寄せられる質問にまとめて答えます!【前編】」

  • アステリア株式会社「2024年4月からウェブアクセシビリティの確保が義務化に?」(KDDIウェブコミュニケーションズ神森勉氏インタビュー)

  • 種(tane)creative「【2025年版】ウェブアクセシビリティと改正障害者差別解消法の関係」


本レポートは公開情報・行政情報に基づき作成した調査レポートであり、個別の法的助言を目的とするものではありません。障害者差別解消法・ウェブアクセシビリティに関する記述は一般的な情報提供を目的としたものであり、法律専門家による個別具体的な助言に代わるものではありません。実際の対応にあたっては、デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」等の最新情報をご確認の上、必要に応じて専門家にご相談ください。

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