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高齢者向け健康啓発コンテンツのデザイン原則 UCDAの「情報量19%」基準と文字・色・行間のユニバーサルデザイン実務
2026/7/1 08:59
高齢者向け健康啓発コンテンツのデザイン原則 UCDAの「情報量19%」基準と文字・色・行間のユニバーサルデザイン実務
高齢者向け健康啓発コンテンツのデザイン原則
UCDAの「情報量19%」基準と文字・色・行間のユニバーサルデザイン実務
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:地域健康リテラシープロジェクト
- 高齢者向け健康啓発コンテンツのデザイン原則
- UCDAの「情報量19%」基準と文字・色・行間のユニバーサルデザイン実務
- 1. はじめに――「大きくすればいい」という誤解を超えて
- 2. 加齢に伴う視覚的な変化という前提
- 2.1 水晶体の変化と色覚への影響
- 2.2 「見えやすい」と「わかりやすい」の2軸
- 3. 文字サイズ・書体という基本要素
- 3.1 「1.5倍」という共通する目安
- 3.2 ゴシック体が推奨される理由
- 3.3 縦書きが高齢者の関心を引くという興味深い知見
- 4. 行間・字間という見落とされがちな要素
- 4.1 「文字サイズの70%」という行間の目安
- 4.2 ジャンプ率という見出しとのメリハリ
- 5. 配色というもう一つの重要な設計軸
- 5.1 コントラストの重要性
- 5.2 色数を絞るという原則
- 5.3 写真への文字重ねという落とし穴
- 6. 情報量という定量的な指標
- 6.1 UCDAの「19%」という科学的な閾値
- 6.2 情報の「情報量」という基準がもたらす気づき
- 7. 行政による公的ガイドラインの存在
- 7.1 横浜市「印刷物のつくり方」
- 8. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
- 8.1 花粉症啓発パンフレットへの応用
- 8.2 服薬指導資料における情報量の管理
- 9. 製薬企業・医療機関担当者への含意
- 9.1 デザイン発注時のガイドライン共有
- 9.2 UCDA等の第三者評価ツールの活用
- 10. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――「大きくすればいい」という誤解を超えて
レポート12で詳述した高齢者のヘルスリテラシー・レポート57で詳述した地域社会レベルのヘルスリテラシー投資は、いずれも高齢者の情報理解・地域的な支援環境という、比較的マクロな視点を扱ってきた。本レポートは、プロジェクト15「地域健康リテラシー」の2本目として、より具体的かつ実践的な水準——高齢者向けの健康啓発パンフレット・チラシを実際にデザインする際の、文字サイズ・配色・行間といった、細部の設計原則——に焦点を当てる。
「高齢者向けデザイン」と聞くと、多くの人は「文字を大きくすればよい」という単純な解決策を思い浮かべる。しかし、専門家の解説が示すように、この理解は不十分である。株式会社ノーブランドの解説では、「必要な文言を吟味して,大きめの文字で簡潔に誌面を構成すること。これがUD(ユニバーサルデザイン)に配慮した印刷物を作る時の基本姿勢です」とされ、単純な文字拡大ではなく、情報量の精査と組み合わせた、より総合的なデザイン原則が求められることが示されている。本レポートでは、文字サイズ・行間・配色・情報量という4つの観点から、高齢者向け健康啓発コンテンツの具体的なデザイン原則を、医療機関・自治体・製薬企業のコンテンツ制作担当者が活用できる形で詳述する。
2. 加齢に伴う視覚的な変化という前提
2.1 水晶体の変化と色覚への影響
高齢者向けデザインを理解する上で不可欠な前提が、加齢に伴う視覚機能の生理学的な変化である。株式会社ノーブランドの解説では、「40歳代以上になると視力の変化を自覚するようになります。その後,加齢とともに色覚機能も低下していきます。黄系や青系の感度が鈍くなり,コントラストに対する感度も低下します。また,白内障になると視野が白濁し,すりガラス越しのような見え方になります」とされている。
kisa illustration & designの解説でも同様に、「加齢により暗いところでモノや色が見えづらくなり,60歳だと20歳の2倍の明るさが必要だと言われています」「青系の色は,特に暗く見え,デザインによっては文字や形の認識も難しくなってしまいます」という具体的な知見が示されている。
2.2 「見えやすい」と「わかりやすい」の2軸
シニア向けデザインを解説する複数のサイトでは、共通して「視覚的配慮」と「情報の明確化」という2つの軸が強調されている。JEKI(ジェイアール東日本企画)が運営するオンライン相談サイトの解説では、「シニア向けのデザインで特に気を付けるポイントは,視覚的な配慮と情報の明確化の2点です」とされ、「読みやすいフォントと文字サイズ」「コントラストを意識した配色」「余白を十分にとったレイアウト」という「見えやすい」ための3要素と、「簡潔なキャッチコピー」「情報の整理」「次の行動に移りやすい誘導」という「わかりやすい」ための3要素が、明確に区別されて整理されている。
3. 文字サイズ・書体という基本要素
3.1 「1.5倍」という共通する目安
複数の専門解説サイトが、高齢者向けの文字サイズについて、一貫した目安を示している。開業支援netの解説では「通常よりも文字サイズは大き目に行間も文字サイズの1.5〜1.75倍ほどにすると高齢者の方が見やすいデザインになります」とされ、東洋美術印刷の解説でも「文字の大きさは通常よりも1.5倍ほど大きくする」ことが推奨されている。JEKIの解説では、より具体的に「文字サイズは,通常のデザインより1.5~2倍程度大きく設定するようにしましょう。チラシや雑誌などの印刷物の場合は14ポイント以上のフォントサイズが推奨されます」とされている。
一方、株式会社ノーブランドの解説では、標準的な印刷物の文字サイズとの対比で、「しっかり読んでもらいたい説明文や,高齢者向けの案内では,10.5pt〜12pt程度にすると読みやすくなります」という、やや異なる基準も示されている。同社の別の解説(UD配慮の印刷物)では、「A4サイズの誌面で作成する場合の目安」として「12ポイント以上」、「より見えやすくしたい場合は14ポイント以上」という、より具体的な数値目安が示されている。こうした複数の目安のばらつきは、媒体サイズ・掲載環境によって適正な文字サイズが変動することを示しており、レポート38で詳述したプレインランゲージの原則と同様、「一律の正解」ではなく「読み手の状況に応じた調整」が求められることを示唆している。
3.2 ゴシック体が推奨される理由
書体の選択についても、複数の解説で一貫した見解が示されている。開業支援netの解説では「フォントは明朝体より、ゴシック体のほうが読みやすいとされています」とされ、株式会社ノーブランドの解説でも「UD(ユニバーサルデザイン)に配慮した字体を選ぶ際には『ゴシック体』で構成するほうが良いとされています。『ゴシック体』は,文字の太さが均一なので,どんな方でも読みやすいという特徴があります。特に,小さな文字を使わなければならない場合は『明朝体』よりも『ゴシック体』の方が読みやすいです」と、その理由まで含めて説明されている。
同社の別の解説では、明朝体の使いどころについても言及されている。「明朝体は線に強弱があり,長い文章を落ち着いた印象で読ませたい場合に向いています」とされ、見出し・強調にはゴシック体、長文の本文には明朝体という、使い分けの原則も示されている。
3.3 縦書きが高齢者の関心を引くという興味深い知見
kisa illustration & designの解説では、文字の配列方向についての、意外性のある研究結果が紹介されている。「2016年に,トッパン・フォームズという会社が脳機能計測実験をしました。それによると,『45歳以上には縦書きの方が関心を持つ』傾向があるという結果が出ました。読みやすさと,脳の活発化により内容を理解しようとして関心が引き出されるようです」とされ、「新聞,小説,俳句など,シニア世代は縦書きに接してきた時間が長く,慣れ親しんでいます」という背景も説明されている。ただし「数式,記号が多い論文などでは横書きの方が良い」という留保も示されている。
4. 行間・字間という見落とされがちな要素
4.1 「文字サイズの70%」という行間の目安
kisa illustration & designの解説では、限られた紙面スペースにおける優先順位について、極めて実践的な指針が示されている。「チラシなど面積が限られていると,文字量や写真の量によっては大きくできない場合があります。限られたスペースの中では,文字を大きくするよりも,字間と特に行間を取ることを優先させた方が読みやすくなります。シニア世代にとって読み進めやすい行間は,『文字の高さの70%』です。一般的には『文字の高さの50%』が基準なので,最低でもそこは確保したいところです」。
この「行間を優先する」という考え方は、実務上極めて重要な知見である。限られたスペースの中で「文字を大きくすること」に注力しすぎると、かえって行間が詰まり、読みにくさを生む可能性がある。ファインプロス社の解説でも「行間は行と行の『間』です……横組みであればフォントサイズの50〜70%……が妥当な幅とされています」と、同様の数値レンジが示されている。
4.2 ジャンプ率という見出しとのメリハリ
kisa illustration & designの解説では、見出しと本文のサイズ関係についても具体的な指針が示されている。「見出しと本文の文字の大きさの比率をジャンプ率といいます。ジャンプ率を高くするとインパクトを出すことができます。見出しは本文の約2.5〜3倍のサイズが目安になります。また,文字の大きさは大きければ良いという訳ではなく,本文のサイズは一般的には8〜10ポイント,シニア世代には12〜14ポイントが基準になります」。
5. 配色というもう一つの重要な設計軸
5.1 コントラストの重要性
JEKIの解説では、配色における具体的な良い例・悪い例が示されている。「【良い例】薄い色の背景に濃い色の文字/濃い色の背景に白文字/文字に境界を付けてコントラストを作る」「【悪い例】同系色を背景と文字に使う/明るさが近い色を背景と文字に使う/白の上にパステルカラーや黄色,薄い灰色(特にシニアが見えにくい色味)」という、極めて具体的なガイドラインが示されている。
「白黒にした際に,文字と背景の境界がはっきりするかを意識するのがおすすめです」という確認方法も、実務上活用しやすい具体的な手法である。同時に「コントラストが強すぎても目が疲れる原因となる」という留保も示されており、単純に「コントラストを最大化すればよい」わけではないことにも注意が必要である。
5.2 色数を絞るという原則
同解説では、色数についての指針も示されている。「色の種類が多い場合も目が疲れやすく,読みにくいデザインになってしまうため色数を抑えることも重要です」とされている。これは、レポート26で詳述した問診票の設計における「シンプルさの追求」という原則とも通じる、視覚的な負荷を減らすための重要な設計思想である。
5.3 写真への文字重ねという落とし穴
kisa illustration & designの解説では、実務でありがちな失敗パターンについても指摘がなされている。「写真の上に文字を乗せることはシニアを混乱させてしまいかねません。写真はグラデーションがかっていて,一文字一文字コントラストの違いで読みづらかったり,目が疲れてしまったり,チラついたりしてしまう場合があります」とされ、「どうしても乗せたいときは,海や空,砂丘など,淡くスッキリした写真ならさほどストレスを感じません。または写真の中にバランスよく白枠などを敷いて,その上に乗せると読みやすい」という、具体的な回避策も示されている。
6. 情報量という定量的な指標
6.1 UCDAの「19%」という科学的な閾値
東洋美術印刷の解説では、極めて具体的で実務的な指標が紹介されている。「(一社)ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)の『見やすいデザイン』では,印刷物や画面上に表示される『情報量』が19%を超えると読みにくさからユーザーがストレスを感じやすくなるとされています」。
この「情報量19%」という具体的な数値基準は、多くのデザイン解説が示す「文字を大きく」「行間を広く」といった定性的な指針とは異なり、定量的に検証可能な指標である。同解説では、「一度に視覚に映る情報量を少なく調節し,どうしても伝えるべき情報が多くなってしまう場合は,画像や図形を効果的に活用する,あるいは印刷物の場合はページを増やしたりWEB画面の場合はページ幅を広げたりして,ゆったり文字を配置するのがおすすめです」という、情報量オーバー時の具体的な対処法も示されている。
さらに、「誌面・画面上の情報量が適切かどうか測定するには,UCDAの『DRC(Dot Ratio Counter)』というアプリケーションを活用することがおすすめです」という、実際の測定ツールも紹介されており、レポート40で詳述したYMYL・E-E-A-Tにおける客観的な品質評価という考え方と同様、デザインの質を主観ではなく客観的な基準で検証できる仕組みが存在する。
6.2 情報の「情報量」という基準がもたらす気づき
同解説では、視覚的な印象の違いについて興味深い指摘もなされている。「10%違うと見た目の印象が大きく変わりますよね」とされ、わずかな情報密度の差が、読み手にとっての「読みやすさ」に大きな影響を与えることが示されている。これは、レポート27で詳述した院内空間設計における視覚的な安心感の醸成とも通じる、細部への配慮の積み重ねが全体の印象を左右するという設計思想である。
7. 行政による公的ガイドラインの存在
7.1 横浜市「印刷物のつくり方」
横浜市が公開する「印刷物のつくり方 わかりやすい〜ユニバーサルデザインの視点から〜」という参考資料では、こうした配慮が単なる民間企業のノウハウにとどまらず、行政による公的な指針としても整備されていることが示されている。「せっかくのパンフレットや冊子も,ちょっとした配慮が足りないために,情報が十分に伝わらないことがあります。今回作成した『わかりやすい印刷物のつくり方』は,だれにでもわかりやすく情報を発信するためのヒント集です」とされ、「(いわゆる『障害者差別解消法』)が施行されました。この法律は,全ての人が障害の有無にかかわらず差別されない社会を目指すものです」という、法的な背景も明示されている。
このガイドラインが「デザイン・印刷を委託する際には事業者の方にお渡しいただき」という運用を想定していることは、レポート37で詳述した疾患啓発コンテンツの制作プロセスにおいて、外部の制作会社に発注する際にも、こうした公的ガイドラインを共有することの実務的な重要性を示している。
8. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
8.1 花粉症啓発パンフレットへの応用
レポート16で詳述した花粉症の初期療法を高齢者向けに啓発するパンフレットでは、本レポートで示した「文字サイズ12〜14pt」「行間70%」「ゴシック体」「コントラストの高い配色」という原則を適用することで、高齢の患者にも確実に情報が届く設計となる。
8.2 服薬指導資料における情報量の管理
レポート28で詳述した服薬継続支援の文脈において、高齢患者向けの服薬説明資料を作成する際、UCDAの「情報量19%」という基準を意識し、伝えるべき情報を厳選した上で、図解・アイコンを効果的に活用することが、実際に読まれ、理解される資料の設計につながる。
9. 製薬企業・医療機関担当者への含意
9.1 デザイン発注時のガイドライン共有
疾患啓発パンフレット・服薬指導資料を外部のデザイン会社・印刷会社に発注する際、本レポートで示した具体的な数値基準(文字サイズ・行間・情報量)や、横浜市のような公的ガイドラインを、発注仕様書に明記することが、成果物の品質を担保する実務的な方法である。
9.2 UCDA等の第三者評価ツールの活用
コンテンツ制作の最終段階で、UCDAのDRCのような客観的な測定ツールを活用し、情報量が適正な範囲に収まっているかを検証するプロセスを組み込むことは、レポート47で詳述した編集体制における品質管理の一環として、有効な実務プロセスとなる。
10. まとめ
高齢者向け健康啓発コンテンツのデザインは、「文字を大きくする」という単純な対応にとどまらない、複数の要素を統合的に検討すべき専門領域である。加齢に伴う水晶体の変化・色覚機能の低下という生理学的な前提を踏まえ、文字サイズ(12〜14pt程度)・ゴシック体の使用・行間(文字の高さの70%)・コントラストの高い配色・そして色数の抑制という複数の要素を組み合わせることが、実際に「見えやすく、わかりやすい」コンテンツを実現する。
特に重要なのは、UCDAが示す「情報量19%」という客観的な閾値である。単に「大きく読みやすく」という定性的な目標を追うのではなく、定量的に検証可能な基準を設けることが、コンテンツの品質を組織的に担保する実務的な鍵となる。横浜市のような行政による公的ガイドラインの存在も、こうした配慮が単なる企業の自主的な取り組みを超えた、障害者差別解消法という法的な要請にも根ざした、社会全体で取り組むべき課題であることを示している。
レポート57で詳述した地域社会全体でのヘルスリテラシー向上という大きな目標は、こうした一枚一枚のパンフレット・チラシの細部の設計という、極めて具体的な実務の積み重ねによって、初めて実現される。
参考情報・出典
開業支援net「シニア向けの見やすい・分かりやすいデザインとは?」
東洋美術印刷「『高齢者のためのデザイン』ってなんだ?気を付けたい5つのポイント」(UCDA・DRC紹介)
ファインプロス「パンフレットのフォントサイズ|種類や注意点、ユニバーサルデザインについて」
株式会社ノーブランド「ユニバーサルデザインに沿ったパンフレットづくり〜文字の工夫〜」
株式会社ノーブランド「印刷物に適した文字サイズとは(サイズ、色、書体、配置)」
ウララツールナビ「介護・福祉パンフレットはユニバーサルデザインで読みやすく」
kisa illustration & design「シニア目線に注目したユニバーサルデザインと販促コピー」(トッパン・フォームズ脳機能計測実験、2016年)
JEKI(ジェイアール東日本企画)「【シニア向けデザイン】押さえるべきポイントを徹底解説!」
横浜市「印刷物のつくり方 わかりやすい〜ユニバーサルデザインの視点から〜」
本レポートは公開情報・デザイン実務資料に基づき作成した調査レポートであり、個別のデザイン制作の完全性を保証するものではありません。実際のコンテンツ制作にあたっては、専門のデザイナー・印刷会社にご相談ください。
関連プロジェクト:地域健康リテラシープロジェクト
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