News
お知らせ
疾患啓発における患者インサイトの活用 ペイシェントジャーニーマップとペルソナ設計による疾患啓発活動の高度化
2026/7/1 08:47
疾患啓発における患者インサイトの活用 ペイシェントジャーニーマップとペルソナ設計による疾患啓発活動の高度化
疾患啓発における患者インサイトの活用
ペイシェントジャーニーマップとペルソナ設計による疾患啓発活動の高度化
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:患者インサイト・受診行動研究プロジェクト
- 疾患啓発における患者インサイトの活用
- ペイシェントジャーニーマップとペルソナ設計による疾患啓発活動の高度化
- 1. はじめに――「なんとなくの患者像」から「解像度の高い患者理解」へ
- 2. ペイシェントジャーニーという分析枠組み
- 2.1 ペイシェントジャーニーマップの機能
- 2.2 メディカルアフェアーズにおける活用
- 2.3 マーケティング部門における活用
- 2.4 5つのプロセスという基本構造
- 3. 疾患啓発(DTC)とペイシェントジャーニーの接続
- 3.1 DTCという用語の位置づけ
- 3.2 メディカルアフェアーズの基本的な役割
- 3.3 ペイシェントジャーニーが果たす役割の可視化
- 4. ペルソナ設計という補完的な手法
- 4.1 ペルソナの定義
- 4.2 デプスインタビューによる解像度の向上
- 4.3 製薬マーケティングにおけるペルソナの進化
- 4.4 ペルソナ・ジャーニーマップの形骸化という落とし穴
- 5. アンメットニーズの掘り起こしという発展的活用
- 5.1 アンメットニーズとペイシェントジャーニー
- 5.2 リアルワールドデータ(RWD)との組み合わせ
- 6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
- 6.1 花粉症のペイシェントジャーニー
- 6.2 SAS患者・家族のペルソナ設計
- 7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
- 7.1 部門横断でのペイシェントジャーニー活用
- 7.2 定性調査への継続的な投資
- 7.3 形骸化を避ける運用体制
- 8. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――「なんとなくの患者像」から「解像度の高い患者理解」へ
レポート41で詳述した患者のクリニック選定行動・レポート42で詳述した症状検索から受診行動までの心理プロセスは、いずれも患者の受診行動に関する調査データ・理論モデルを扱ってきた。本レポートでは、こうした患者理解を、実際の疾患啓発活動・マーケティング戦略にどう落とし込むかという「方法論」に焦点を当てる。
その中心的な方法論が「ペイシェントジャーニー」である。インターフェックスWeekの解説によれば、ペイシェントジャーニーとは「患者が病気を認知し、医療機関で診断・治療を進める際に、どのように感じ、考え、行動するのか」を意味する用語であり、「消費者の購買行動を理解するための『カスタマージャーニー』というフレームワークを医療・製薬業界に応用したもの」である。
本レポートでは、ペイシェントジャーニーマップの構造・活用場面、ペルソナ設計の実践的手法、そして製薬企業のメディカルアフェアーズ・マーケティング部門におけるこれらのツールの位置づけを、疾患啓発活動の担当者・マーケティング担当者・コンテンツ制作者が活用できる形で詳述する。
2. ペイシェントジャーニーという分析枠組み
2.1 ペイシェントジャーニーマップの機能
インターフェックスWeekの解説では、「患者の考え・行動・状態などをまとめたものを『ペイシェントジャーニーマップ』と呼びます。患者の受療行動全体の流れを可視化し、企業としての介入機会を抽出するための分析ツールとして使われます」とされている。さらに「患者がどのように感じ、何を考えているのかを可視化すれば、その後の行動に対する理解が深まり、関係者間の認識を統一する助けになります」という、組織内での共通言語としての機能も指摘されている。
このマップは、レポート42で詳述したヘルスビリーフモデルのような理論的枠組みを、より具体的で実務的な形——「実在しそうな一人の患者が、いつ・何を感じ・何を考え・どう行動するか」というストーリーの形——に落とし込んだツールと位置づけることができる。
2.2 メディカルアフェアーズにおける活用
アスマークの解説では、ペイシェントジャーニーが製薬企業の異なる部門でそれぞれ異なる目的で活用されることが示されている。「メディカルアフェアーズでは、『クリニカルクエスチョン(Clinical Question: CQ)になるような患者の課題を知りたい』が代表的な課題として挙げられます」とされ、「特定のシチュエーションについて振り返ってもらうことで、困りごとの解像度を上げる」ことができるとされている。
具体例として、「難病の患者さんほど、治療と向き合う時間や期間が長いことが往々にしてあると考えており、『なぜそのタイミングでその薬を服用したのか?』や『なんでこのタイミングでセカンドオピニオンに切り替えたんですか?』などの疑問に対して患者さんの生活の背景を定性的に知ることができ、より具体的な対応策を検討することにつながります」という解説は、ペイシェントジャーニーが単なるマーケティングツールではなく、臨床的な疑問(クリニカルクエスチョン)を導き出すための、より本質的な患者理解のツールであることを示している。
2.3 マーケティング部門における活用
同解説では、マーケティング部門における典型的な課題として「『患者のペルソナが浮かんでいない』や『どのように処方が変化しているか知りたい』」が挙げられている。「新薬開発の際に、『どの症状が患者のQOL(Quality of Life)に最も影響を与えているか?』なども捉えていく」ことができるとされ、ペイシェントジャーニーが単に受診行動の理解にとどまらず、QOLへの影響という患者の生活実感に基づいた洞察の獲得にも活用される。
2.4 5つのプロセスという基本構造
インターフェックスWeekの解説では、ペイシェントジャーニーが「具体的に5つのプロセスで構成される」とされている(症状の自覚・情報探索・受診・診断・治療という一連の流れに対応するプロセス)。この構造化されたプロセスに沿って患者の思考・感情・行動を整理することで、レポート37で詳述した疾患啓発サイトと患者向けサイトの区分——未診断者向けと治療中患者向け——のどの段階に、どのような介入が有効かを、体系的に検討できるようになる。
3. 疾患啓発(DTC)とペイシェントジャーニーの接続
3.1 DTCという用語の位置づけ
株式会社メディウィルの解説では、患者への直接的な情報提供活動を指す業界用語として「DTC」が紹介されている。「疾患の認知度が低い希少疾患、適切な検査が浸透せずに治療が遅れる疾患、潜在患者数が多い一方で受診率が低い疾患に対し、医療広告規制や製薬工業協会のガイドライン等のコンプライアンスを遵守して、適切な疾患、治療情報を提供する活動を疾患啓発活動と呼びます。特に直接患者さん向けに情報提供することをDTC(Direct to Consumerの略称)と製薬業界では呼ばれることが多いです」とされている。
この解説が示す3つの疾患特性——①認知度が低い希少疾患、②検査の浸透不足により治療が遅れる疾患、③潜在患者数が多いが受診率が低い疾患——のうち、③は本レポートシリーズで扱ってきたアレルギー疾患・レポート1で詳述したSASに典型的に当てはまる特性である。潜在患者数は多いが、レポート42で詳述した受診行動の遅れにより受診率が低いという構造は、まさにDTC活動が価値を発揮すべき典型的な状況である。
3.2 メディカルアフェアーズの基本的な役割
同解説では、「製薬工業協会が公表している『メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方』の中では、メディカルアフェアーズの業務の果たすべき役割の一つとして、『疾患啓発活動』を挙げています」とされ、疾患啓発活動が製薬企業内の特定の部門(メディカルアフェアーズ)の公式な役割として、業界団体レベルで位置づけられていることが示されている。これは、レポート37で詳述した営業部門から独立した審査体制という要請とも整合的であり、疾患啓発活動が営業的な色彩を持つプロモーション活動ではなく、より学術的・専門的な位置づけを持つメディカルアフェアーズの業務として実施されるべきという業界内の合意を反映している。
3.3 ペイシェントジャーニーが果たす役割の可視化
同解説では、「ペイシェントジャーニーの中で、疾患啓発(DTC)が果たす役割」が論点として示されている。ペイシェントジャーニーマップ上のどの段階(症状自覚前・症状自覚後・情報探索中・受診検討中等)に、疾患啓発コンテンツが介入できるかを明確にすることが、コンテンツ戦略の精度を高める鍵となる。レポート40で詳述した症状起点のコンテンツ設計は、まさにペイシェントジャーニーの初期段階(症状自覚〜情報探索)への介入を意図した設計であったと位置づけることができる。
4. ペルソナ設計という補完的な手法
4.1 ペルソナの定義
株式会社メディックスの解説では、ペルソナについて「提供する製品・サービスにとって、象徴的な顧客モデル」と定義されている。トライコーンラボの解説では、カスタマージャーニーマップ(ペイシェントジャーニーマップの一般的な原型)の作成において、「顧客の経験(行動や感情)を時間の流れに沿って視覚化したもの」であり、「そのカスタマージャーニーマップ作成において必須なのが、ペルソナの設定です」とされ、ペルソナとジャーニーマップが不可分の関係にあることが示されている。
4.2 デプスインタビューによる解像度の向上
株式会社クロス・マーケティングの解説では、ペルソナに実在感を持たせるための手法として「デプスインタビュー(定性調査)」が紹介されている。「1対1の対面形式でじっくりと対話を行うことで、アンケートの選択肢には現れない『無意識のこだわり』や『背景にあるライフスタイル』を浮き彫りにできます」とされ、「朝起きてから寝るまでの詳細な行動動線」「検討段階での迷いや、最後の決め手となった一言」「人生において何を大切にし、ブランドに何を求めているのか」といった、定量調査では捉えきれない情報を得ることの重要性が強調されている。
こうした定性的な患者インタビューは、疾患啓発コンテンツの制作において、単なる医学的な症状の説明を超えた、患者の生活実感に即した表現を可能にする。レポート38で詳述した患者にやさしい医療コンテンツの書き方で論じたプレインランゲージの実践も、こうした患者インサイトの深い理解があってこそ、より説得力を持つ。
4.3 製薬マーケティングにおけるペルソナの進化
Medinewの解説では、より高度なペルソナ活用のアプローチとして「状況ターゲティング」という概念が紹介されている。「データ分析:得られたデータを分析することで、ユーザーの行動パターンを把握します。その上で、ユーザーはどのような状況でどのような行動をとるかを予測します」とされ、「このアプローチを実践することによって、製薬企業は医師や患者について従来以上に深いインサイトを得られ、そのインサイトによってペルソナを補強することができます」という発展的な活用法が示されている。
同解説が挙げる「老夫婦」の事例のように、単一の静的なペルソナではなく、患者が置かれる具体的な状況(介護環境・生活パターン等)に応じたペルソナの精緻化は、「服用管理アプリの提供」「リマインダー機能」といった具体的な支援策の発想につながる。これはレポート31で詳述したCPAPアドヒアランス・レポート28で詳述した服薬継続支援のような、患者の生活状況に応じたきめ細やかな支援設計とも接続する視点である。
4.4 ペルソナ・ジャーニーマップの形骸化という落とし穴
Web担当者Forumが報じたセミナーレポートでは、重要な警鐘も示されている。「顧客を深く理解し、より良いアプローチをするために活用される『ペルソナ』『カスタマージャーニーマップ』。だが、苦労して作っても、形骸化するケースも多い」とされ、UXデザイナーによる「よくある誤解や失敗事例」の紹介がなされている。
この警鐘は重要である。ペルソナ・ペイシェントジャーニーマップは、一度作成して終わりにするのではなく、実際の疾患啓発コンテンツ制作・マーケティング施策の意思決定に継続的に活用され、定期的に見直される「生きたツール」として運用されなければ、その価値を発揮できない。
5. アンメットニーズの掘り起こしという発展的活用
5.1 アンメットニーズとペイシェントジャーニー
セミナー情報(R&D支援センター)によれば、「新薬の事業性評価、開発企画、製品戦略、マーケティング戦略を策定・実施する上でアンメットニーズを理解することが重要」とされ、「市場調査に基づくペイシェントジャーニーの描き方と戦略への活かし方」が重要な習得事項として位置づけられている。
アンメットニーズ(満たされていない医療ニーズ)の発掘は、既存の治療選択肢では十分に対応できていない患者の困りごとを特定する営みであり、ペイシェントジャーニーマップ上で「患者が最も強いフラストレーション・不安を感じている地点」を可視化することによって、体系的に取り組むことができる。
5.2 リアルワールドデータ(RWD)との組み合わせ
前述のセミナー情報のタイトルにも示されるように、「医師や患者自身も気づかない、隠れたニーズをいかに見つけるのか?〜ペイシェントジャーニー、RWDを用いた〜」という表現は、ペイシェントジャーニーという定性的な患者理解の手法と、リアルワールドデータ(実臨床データ)という定量的なデータ分析を組み合わせるアプローチが、近年の実務における発展的な潮流であることを示している。
6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
6.1 花粉症のペイシェントジャーニー
レポート16で詳述した花粉症シーズンの受診行動をペイシェントジャーニーとして整理すると、「シーズン前(無症状)→初期症状の自覚→我慢・市販薬でのセルフケア→症状悪化→受診検討→受診」という段階が想定される。この各段階において、疾患啓発コンテンツがどのタイミングでどのようなメッセージを届けるべきかを設計することが、DTC活動の精度を高める。
6.2 SAS患者・家族のペルソナ設計
レポート1で詳述したSASは、患者本人だけでなくレポート41で詳述した「家族に聞く」という情報経路が重要であることを踏まえ、「いびきを指摘する家族」というペルソナと、「症状を自覚しにくい患者本人」というペルソナの、2つの異なる視点からのジャーニーマップを設計することが、より実効性の高い疾患啓発コンテンツの構築につながる。
7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
7.1 部門横断でのペイシェントジャーニー活用
前述のように、メディカルアフェアーズ・マーケティング部門はそれぞれ異なる目的でペイシェントジャーニーを活用する。組織として一貫したペイシェントジャーニーマップを構築し、部門を横断して共有・更新する体制を整えることが、疾患啓発活動全体の一貫性と精度を高める。
7.2 定性調査への継続的な投資
デプスインタビュー等の定性調査は、単発のプロジェクトとして実施するのではなく、患者の状況・ニーズの変化を継続的に把握するための、定期的な投資として位置づけることが望ましい。レポート38で詳述したライティングの質も、こうした継続的な患者理解の蓄積によって支えられる。
7.3 形骸化を避ける運用体制
ペルソナ・ペイシェントジャーニーマップを、コンテンツ制作の意思決定に実際に参照される「生きたツール」として運用するための、社内の運用ルール・レビュープロセスの整備が、前述の「形骸化」というリスクを避ける鍵となる。
8. まとめ
疾患啓発活動を効果的に設計するためには、レポート41・42で詳述した患者の受診行動データ・心理理論を、実務に落とし込むための具体的な方法論——ペイシェントジャーニーマップとペルソナ設計——が不可欠である。
ペイシェントジャーニーは、消費者マーケティングのカスタマージャーニーを医療・製薬業界に応用したフレームワークであり、メディカルアフェアーズにおけるクリニカルクエスチョンの発見、マーケティングにおけるペルソナ精緻化・処方変化の理解、新薬開発におけるQOLへの影響把握という、複数の異なる目的で活用される。DTC(患者向け直接情報提供)としての疾患啓発活動は、このジャーニーマップ上のどの段階に介入するかを明確にすることで、より的確な設計が可能になる。
デプスインタビューによる定性的な患者理解、状況に応じたペルソナの精緻化、そしてアンメットニーズの体系的な掘り起こしという発展的な活用まで、患者インサイトを疾患啓発活動に活かす方法論は年々高度化している。ただし、これらのツールは一度作成して終わりにするのではなく、継続的に更新・参照される「生きたツール」として運用されて初めて、その価値を発揮する。
参考情報・出典
株式会社アスマーク「ペイシェントジャーニーとは?実例や必要性、解決課題と企画への取り入れ方など紹介」
インターフェックスWeek/再生医療EXPO「ペイシェントジャーニーとは?必要性やメリット、製薬業界での活用方法を詳しく解説!」
株式会社メディウィル「ペイシェントジャーニーに添った疾患啓発(DTC)におけるデジタルマーケティング活用方法」(製薬協「メディカルアフェアーズの活動に関する基本的考え方」引用)
Medinew(メディニュー)「製薬マーケターのためのペルソナ設計【発展編】UX時代に求められるペルソナの進化と状況ターゲティング」
株式会社トライコーンラボ「カスタマージャーニーマップに欠かせないペルソナ設定と作成手順」
株式会社メディックス「カスタマージャーニーマップの精度を高める『ペルソナ』作成のポイント」
株式会社クロス・マーケティング「ペルソナとは?マーケティングでの活用メリットと精度の高い作り方」
Web担当者Forum「役に立たない『ペルソナ・カスタマージャーニーマップ』はコレ!現場で使える見直し術」(グッドパッチ秋野比彩美氏、Web担当者Forumミーティング2024秋)
R&D支援センター「希少疾患におけるアンメットニーズ-ペイシェントジャーニーによる掘り起こしと分析-」セミナー情報
本レポートは公開情報・業界解説に基づき作成した調査レポートであり、個別の診断・治療判断やマーケティング戦略の助言を目的とするものではありません。疾患啓発活動の実施にあたっては、医療広告ガイドライン・製薬協コード等の関連規範を遵守してください。
関連プロジェクト:患者インサイト・受診行動研究プロジェクト
一覧ページに戻る
一覧ページに戻る
