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外国人患者の医療アクセスにおける実務課題 未収金約13億円という現実と医療通訳費請求率2.2%が示す構造的な課題
JMWO-RR-0053
最終更新日 2026/7/1
外国人患者の医療アクセスにおける実務課題 未収金約13億円という現実と医療通訳費請求率2.2%が示す構造的な課題
外国人患者の医療アクセスにおける実務課題
未収金約13億円という現実と医療通訳費請求率2.2%が示す構造的な課題
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:多言語医療アクセスプロジェクト
- 外国人患者の医療アクセスにおける実務課題
- 未収金約13億円という現実と医療通訳費請求率2.2%が示す構造的な課題
- 1. はじめに――「受け入れる」ことと「運営できる」ことの間にある溝
- 2. 未収金問題という経営上の現実
- 2.1 経年で見る未収金発生率の推移
- 2.2 「月間1846万円」という突出した事例
- 2.3 未収金の大半は少額という実態の正しい理解
- 3. 活用されていない「通訳費請求」という制度
- 3.1 制度上は請求可能という前提
- 3.2 実際の請求率はわずか2%台
- 3.3 支援制度の認知度の伸び悩み
- 4. 未収金対策の実務的手法
- 4.1 事前説明・同意取得という基本原則
- 4.2 本人確認体制の不備という盲点
- 4.3 日本特有の「後払い」制度とのミスマッチ
- 5. 自治体・国レベルでの対応策
- 5.1 東京都の未払医療費補てん事業
- 5.2 公的補助の仕組み検討という業界からの提言
- 5.3 骨太方針2025における入国管理との連動
- 6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
- 6.1 訪日外国人の急な受診対応
- 6.2 医療通訳サービスの活用機会
- 7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
- 7.1 医療機関向けの未収金対策情報提供
- 7.2 多言語対応資材の提供
- 8. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――「受け入れる」ことと「運営できる」ことの間にある溝
レポート19で詳述した在留外国人の医療アクセス課題は、外国人患者側から見た医療アクセスの困難さ——言語の壁・制度の複雑さ——を疫学・政策的な視点から論じた。本レポートは、プロジェクト14「多言語医療アクセス」の1本目として、視点を医療機関側に転換し、「外国人患者を受け入れる医療機関が実際に直面している、未収金・医療通訳費用という経営上の実務課題」に焦点を当てる。
厚生労働省医政局が2025年9月に公表した令和6年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」は、この課題の規模を具体的な数値で示している。辻本公認会計士事務所の解説によれば、「調査回答があった病院での外国人患者の未収金総額は約13億円に上り、多くの医療機関で対応に苦慮している実態が明らかになりました」。本レポートでは、この未収金問題の実態、医療通訳費用の請求という制度上可能でありながら活用されていない仕組み、そして自治体・国レベルでの対応策の動向を、医療機関経営者・製薬企業・自治体関係者が活用できる形で詳述する。
2. 未収金問題という経営上の現実
2.1 経年で見る未収金発生率の推移
日本経済新聞の解説では、外国人患者の未収金発生率の経年推移が示されている。「厚生労働省がまとめた医療機関の外国人患者受け入れに関する2023年度の実態調査によると,23年9月の1カ月間に外国人を受け入れた病院の18.3%で診療費の未払いがあった。22年度調査は19.9%だった」とされている。
先見創意の会の解説では、より具体的な金額データも示されている。「厚生労働省の23年外国人患者(在留外国人患者含む)の受け入れ実態調査(23年9月時点,5184病院回答)によると,外国人患者を受け入れた実績のある病院は2813施設で全体の54.3%を占めた……大きな問題は,受け入れた病院の516施設(18.3%)で未納金が発生していたことだ。1病院当たりの未収金の発生件数は平均3.9件。総額金額は平均49万6千円」。
2.2 「月間1846万円」という突出した事例
日本経済新聞の解説では、極端な事例の存在も報告されている。「1施設あたりの月間の未払い発生件数の平均は3.9件で,最も多いところでは月40件に上った。1件あたりの未払い額の最高は1846万円で,22年度調査の最高額の522万円を上回った」。GemMed(医療専門メディア)の解説でも同様に、「ごく一部ではあるものの『月間500万円を超える』大きな未収金が発生するケースもある」とされている。
こうした突出した高額事例の多くは、医療渡航(メディカルツーリズム)に関連するケースであると推察される。衆議院議員河野太郎氏の公式サイトの解説では、「医療渡航の場合,癌治療などの高度医療を受けているため,1人あたりの金額は大きくなります」という指摘があり、実際のデータとして「自由診療の医療を受けることを目的に訪日した外国人は1123人,未収金になったのは全て外来の延べ6人で,7,450,336円」という具体例が示されている。
2.3 未収金の大半は少額という実態の正しい理解
一方で、Guidable Jobsの解説では、こうした突出した事例だけが実態のすべてではないことも示されている。「未収金の約7割は1件5万円以下と少額です」とされ、「訪日外国人(観光客など)は公的保険に加入しておらず自由診療となるため,件数が少なくても1件あたりの金額が高額になりやすい傾向があります」という、金額の分布に大きな偏りがあることが示されている。
同解説では、より広い文脈での正確な理解も強調されている。「在留外国人の未収金については未収金の総額の中では小さい額」(メディフォンの解説)であり、「2018年10月と11月に生じた未収金の総額の月平均は,約120億円でした……在留・訪日合わせた外国人患者の未収金の総額は,約1億300万円と日本で発生している未収金総額の1%以下でした」(メディフォンの解説、厚労省調査引用)とされている。つまり、外国人患者の未収金は、日本の医療機関全体の未収金問題の中では、金額ベースで見れば決して支配的な要因ではない。この事実は、レポート40で詳述したYMYL・信頼性の重要性という観点からも、正確なデータに基づいた冷静な議論の重要性を示している。
3. 活用されていない「通訳費請求」という制度
3.1 制度上は請求可能という前提
外国人患者の診療において、医療機関には診療費に加えて通訳費用を患者に請求する権利が制度上認められている。Web医事新報(日本医事新報社)の解説によれば、「厚生労働省は2019年3月28日に通知『社会医療法人等における訪日外国人診療に際しての経費の請求について』を発出し,『外国人患者への診療において医療通訳を活用した場合,その費用を患者に請求することが可能である』旨を明確にしています」。
同様に、GemMedの解説でも「我が国を観光等で訪れた外国人患者が,傷病にあい,医療機関を受診する場合,通訳等に要するコストを考慮し『1点を15円,20円』などとして医療費を請求することが医療機関判断で自由に行える」という、診療報酬の点数単価自体を柔軟に設定できる制度についても言及されている。
3.2 実際の請求率はわずか2%台
しかし、こうした制度が実際にはほとんど活用されていない実態が、複数の調査で一貫して示されている。GemMedの解説では、「診療費以外に『通訳費』を請求する医療機関はわずか2.2%にとどまっています(前年度から増減なし)」とされている。日本経済新聞の解説でも「外国人の診療では追加的費用として通訳料を患者に請求できる。請求していた病院は2%にとどまった」とされ、Web医事新報の解説では、さらに以前の時点での状況として「厚生労働省が2018年秋に実施した調査では,訪日外国人旅行者に対して通訳料を追加請求している病院は約1%にとどまっていた」ことが示されている。
つまり、2018年から近年に至るまで、医療通訳費用の請求率は1〜2%台という、極めて低い水準で推移し続けている。これは、医療機関がこの制度を「知らない」というよりも、「請求することへの心理的抵抗・実務上の煩雑さ」から、活用が進んでいない可能性を示唆している。同様に、日本経済新聞の解説では、「1点単価」の柔軟設定についても「多くの医療機関は『1点10円』のまま」であることが示されており、制度上可能な収益確保手段が、現場では十分に活用されていないという構造的な課題がある。
3.3 支援制度の認知度の伸び悩み
GemMedの解説では、厚生労働省が提供する各種の外国人患者受け入れ支援事業についての、医療機関側の認知度データも示されている。「希少言語に対応した遠隔通訳サービス:69.9%」「医療機関における外国人対応に資する夜間・休日ワンストップ窓口:54.9%」「外国人患者受入れ医療コーディネーター養成研修:55.2%」「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP):28.6%」といった認知度が示され、「少しずつ認知度が高まっていますが,やはりさらなる周知・広報が必要な状況が伺える」とされている。
特にJMIP(外国人患者受入れ医療機関認証制度)の認知度が28.6%にとどまっている点は重要である。医療総研株式会社の解説では、「JMIPもしくはJIH認証医療機関」では「自院における外国人患者の受診状況を把握しているか」という設問に対して「詳しく把握77.6%」という高い水準であることが示されており、認証取得医療機関では受け入れ体制の整備が進んでいる一方、こうした認証制度自体の認知が全体としては低いという、普及の課題が浮き彫りになっている。
4. 未収金対策の実務的手法
4.1 事前説明・同意取得という基本原則
Web医事新報の解説では、日本医師会「外国人医療対策委員会」の中間答申が紹介されている。「未収金対策では,医師自らが治療を提供する前に費用と支払い方法について説明し,合意を取ることが必要としている。ただ,緊急重篤な患者に事前合意を取ることは事実上不可能となる」とされ、平時の対策と緊急時の限界の両方が示されている。
辻本公認会計士事務所の解説でも、より実務的な対策が整理されている。「概算医療費の事前提示と同意書の取得(特に訪日外国人)」「医療費の前払預かり制度(デポジット制度)の導入検討」が挙げられ、「特に訪日外国人については,医療費が高額になるケースが多いため,事前の概算医療費提示や同意書取得を行うことが重要です」とされている。
4.2 本人確認体制の不備という盲点
同解説では、意外にも見過ごされがちな課題として、本人確認体制の不備が指摘されている。「在留外国人患者へ,保険証以外の本人確認を行っている医療機関は,わずか29.3%となっています……7割以上の医療機関で実施できていない実態が明らかになっています」。在留資格によって公的医療保険の加入要否が異なることを踏まえると、保険証以外の本人確認(在留カード等)の実施は、なりすまし防止・未収金予防の両方の観点から重要な対策である。
4.3 日本特有の「後払い」制度とのミスマッチ
Guidable Jobsの解説では、未払いが生じる構造的な背景として、日本の医療費支払い制度そのものの特殊性が指摘されている。「日本では診察や検査がすべて終わったあと,会計窓口で初めて請求額が伝えられます。しかし,海外では治療前に費用の選択肢が示され,患者が同意してから診療を受ける国もおおくあります」。
この「事後会計」という日本の医療制度に根ざした慣行が、外国人患者にとっては「思っていたより高額だった」という驚きと、それに伴う支払い拒否・未払いのリスクを生みやすい構造となっている。レポート17で詳述した海外在留邦人の医療アクセスにおける逆の立場(日本人が海外で医療を受ける場合)を考えると、この「事前概算提示」という国際標準への対応の必要性がより理解しやすくなる。
5. 自治体・国レベルでの対応策
5.1 東京都の未払医療費補てん事業
Guidable Jobsの解説では、自治体レベルの具体的な支援策として、東京都の取り組みが紹介されている。「自治体によっては,医療機関が受けた外国人患者の未払い医療費を補填する事業があります。代表例として,東京都の『外国人未払医療費補てん事業』があります。1医療機関・1患者につき最大200万円を上限に,要件を満たした未収医療費が補填される」。
5.2 公的補助の仕組み検討という業界からの提言
Web医事新報の解説では、日本医師会の中間答申が示すより制度的な解決策の方向性も紹介されている。「中間答申では,公的補助を中心とした基金などの仕組みにより,訪日外国人が加入する旅行保険の適用外となる医療行為(分娩など)が未収金となった場合の医療機関のリスクを軽減できると期待を示している」。ただし「外国人患者が加入している保険が償還払いだった場合は,その場で支払われないため未収となるリスクが残るといった課題も指摘している」という限界も同時に示されている。
5.3 骨太方針2025における入国管理との連動
先見創意の会の解説では、より強い制度的な対応の動向も示されている。「ことし6月,政府は『経済財政運営と改革の基本方針2025』(骨太方針2025)を閣議決定した。その中で『外国人との秩序ある共生社会の実現』を掲げ,外国人が医療費を払わなかったり,社会保険料を納付しなかったりした情報があった場合,入国を制限したり,(在日外国人の)在留資格の審査を厳しくする方針を盛り込んだ」。「厚労省情報をベースにして過去に医療費を支払わなかったことがある外国人旅行者について出入国在留管理庁が入国を拒否したり,滞在期間を短縮したりできるようにする」という、医療政策と出入国管理政策の連携という、新しい方向性が示されている。
6. アレルギー疾患・睡眠医療領域における実践
6.1 訪日外国人の急な受診対応
レポート17で詳述した海外滞在中の医療アクセスの裏返しとして、訪日中の外国人がアレルギー症状(レポート14で詳述した緊急性の高いアナフィラキシー等)で救急受診するケースでは、緊急対応が優先されるため事前の費用説明が困難となる。こうした緊急症例における未収金対策としては、事後の丁寧なフォローアップ(多言語での請求書送付・自治体補てん制度の活用等)が現実的な対応となる。
6.2 医療通訳サービスの活用機会
レポート18で詳述したやさしい日本語・多言語対応の文脈において、前述の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」(認知度69.9%)は、比較的高い認知度を持つ支援制度である。アレルギー科・呼吸器内科のような、症状の詳細な問診が必要な診療科において、こうした通訳サービスの積極活用が、正確な診断と、結果的な未収金リスクの低減(適切な診療による患者満足度向上)の両方に寄与する。
7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
7.1 医療機関向けの未収金対策情報提供
製薬企業・医療機器企業が、外国人患者を多く受け入れる医療機関(レポート22で詳述した地域医療機関等)に対し、未収金対策・医療通訳費請求制度についての情報提供を行うことは、医療機関の経営基盤の安定化を支援する、間接的だが重要な貢献となる。
7.2 多言語対応資材の提供
事前の概算医療費説明・同意書取得という未収金対策の基本を支援するため、製薬企業が提供する疾患啓発資材・患者向け説明資料を多言語化することは、レポート38で詳述したプレインランゲージの理念を、言語の壁を越えて実践する取り組みとなる。
8. まとめ
外国人患者の受け入れは、日本の医療機関にとって、単なる「言語対応」の課題を超えた、経営上の実務的な課題を伴う。約13億円という未収金総額、月間1846万円という突出した高額事例が示す一方で、未収金の約7割は5万円以下の少額であり、日本の医療機関全体の未収金総額の中では1%以下という、冷静な実態把握も同時に必要である。
制度上請求可能な医療通訳費用の請求率が、2018年から近年に至るまで一貫して1〜2%台にとどまっているという事実は、医療機関が活用可能な収益確保・コスト回収の手段を、十分に活用できていない構造的な課題を示している。保険証以外の本人確認の実施率が29.3%にとどまるという実態、そして日本特有の「事後会計」という制度が生む国際的なミスマッチも、未収金発生の構造的な要因である。
東京都の未払医療費補てん事業、日本医師会による公的補助の仕組みの提言、そして骨太方針2025における入国管理との連動という、自治体・国レベルでの対応策も進展しつつある。医療機関単独の努力だけでなく、制度・支援策の周知徹底と、製薬企業・関連事業者による多言語対応支援を組み合わせることが、外国人患者の医療アクセスと医療機関の持続可能な運営の両立を実現する道筋である。
参考情報・出典
辻本公認会計士事務所「外国人患者の未収金管理について」(厚生労働省医政局 令和6年度「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」引用)
GemMed「依然『外国人患者を受け入れる医療機関の2割弱』で未収金発生」
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本レポートは公開情報・行政統計に基づき作成した調査レポートであり、個別の経営判断・法的助言を目的とするものではありません。未収金対策の具体的な実施にあたっては、厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」等の最新情報をご確認ください。
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