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活動報告
多言語問診票とオンライン受付の設計 厚労省18言語対応ツールと音声翻訳アプリが変える初診受付の実務
JMWO-RR-0055
最終更新日 2026/7/1
多言語問診票とオンライン受付の設計 厚労省18言語対応ツールと音声翻訳アプリが変える初診受付の実務
多言語問診票とオンライン受付の設計
厚労省18言語対応ツールと音声翻訳アプリが変える初診受付の実務
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:多言語医療アクセスプロジェクト
- 多言語問診票とオンライン受付の設計
- 厚労省18言語対応ツールと音声翻訳アプリが変える初診受付の実務
- 1. はじめに――「まず何をどう聞くか」という最初の壁
- 2. 厚生労働省による公的な多言語説明資料
- 2.1 選択肢形式という設計原則
- 2.2 継続的な言語の追加という運用実態
- 2.3 加工・編集可能という実務的な配慮
- 3. NPO・医師会による専門的な多言語問診票
- 3.1 18言語・11診療科という網羅性
- 3.2 「日本語併記」という設計の要
- 3.3 「症状から探す」という診療科選定支援
- 4. 音声翻訳アプリという新しい選択肢
- 4.1 タブレット活用による受付サポート
- 4.2 会話の可視化という信頼性向上の工夫
- 4.3 医療特化の定型文プリセットという実用性
- 4.4 「言葉が通じなくて困った」という原点
- 5. 医療通訳サービスとの統合的な活用
- 5.1 予約不要という緊急対応への配慮
- 5.2 自由診療領域での戦略的活用
- 5.3 医療インバウンド市場という新たな成長機会
- 6. 適切なツール選定という実務的判断
- 6.1 診療圏特性に応じた選択
- 6.2 紙媒体・デジタルツール・通訳サービスの組み合わせ
- 7. アレルギー疾患領域における実践
- 7.1 多言語問診票へのアレルギー特有項目の追加
- 7.2 緊急性トリアージ項目の多言語での明確化
- 8. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
- 8.1 疾患特化型の多言語問診テンプレートの開発支援
- 8.2 音声翻訳アプリベンダーとの連携
- 9. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――「まず何をどう聞くか」という最初の壁
レポート18で詳述した外国人患者向けWebサイト設計、レポート26で詳述した問診項目の医学的設計、レポート54で詳述した院内での対人英語対応は、それぞれ異なる局面を論じてきた。本レポートは、プロジェクト14「多言語医療アクセス」の3本目として、これらの中間に位置する、極めて実務的な論点——「多言語の問診票そのものをどう設計し、どう運用するか」——に焦点を当てる。
外国人患者が医療機関に来院した際、最初に直面する壁は「症状をどう伝えるか」という問診の場面である。この課題に対し、日本では官民双方による、多様な多言語問診ツールの整備が進んでいる。本レポートでは、厚生労働省が提供する公的な多言語説明資料、NPO・医師会による18言語対応の問診票、そして近年急速に普及する音声翻訳アプリという3つのアプローチを比較し、多言語問診票の設計・運用における実務的な知見を、医療機関経営者・医事課担当者・製薬企業/医療機器企業担当者が活用できる形で詳述する。
2. 厚生労働省による公的な多言語説明資料
2.1 選択肢形式という設計原則
厚生労働省が提供する「外国人向け多言語説明資料一覧」は、日本国内の医療機関が無償で活用できる、公的な多言語ツールの中核である。同省の解説では、その設計原則が明確に示されている。「問診票については,医療従事者が患者の回答内容を速やかに把握できるように,選択肢形式を多くとり入れました」。
この「選択肢形式」という設計は、レポート26で詳述したWeb問診の分岐設計とも通じる原則である。患者が自由記述で症状を書く形式では、たとえ日本語で書かれていても医療従事者が正確に理解することが難しい場合があるが、選択肢形式であれば、言語の壁があっても、患者が該当する項目にチェックを入れるだけで、必要な情報を効率的に把握できる。
2.2 継続的な言語の追加という運用実態
同資料の解説では、この多言語説明資料が一度作成されて終わりではなく、継続的に拡充されてきた経緯が示されている。「当説明資料(英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語)は,『医療機関における外国人患者受入れ環境整備事業』において,一般財団法人日本医療教育財団により平成25年度に作成されたものを同財団が改訂したものです」とされ、その後「令和4年7月,ヒューマングローバルコミュニケーションズ株式会社の作成によりウクライナ語資料を追加」「令和6年4月,株式会社SELCの作成によりヒンディー語,インドネシア語,ネパール語,タガログ語,タイ語,ベトナム語資料を追加」「令和7年2月,ヒューマンアカデミー株式会社の作成により『生活習慣病 療養計画書』」の追加といった、複数年度にわたる継続的な拡充が行われている。
この言語追加の経緯は、レポート19で詳述した在留外国人の国籍構成の変化(東南アジア・南アジア出身者の増加、ウクライナ避難民の受け入れ等)に、公的資料が段階的に対応してきた実態を反映している。
2.3 加工・編集可能という実務的な配慮
同資料の解説では、実務上重要な配慮も示されている。「利用者の用途に合わせた使い方ができるよう,加工・編集可能なWord版(一部Excel版)を掲載しました」とされ、「当説明資料は,実際の使用を強制するものではありません。各医療機関の責任においてご使用ください」という運用上の位置づけも明記されている。この編集可能な形式は、各医療機関が自院の診療科・患者層に応じてカスタマイズできる、実務的な柔軟性を提供している。
3. NPO・医師会による専門的な多言語問診票
3.1 18言語・11診療科という網羅性
日本産婦人科医会の解説では、より広範な言語・診療科をカバーする民間の取り組みが紹介されている。「病院が外国人住民を初診で受け入れる際に役立つのが,『多言語医療問診票』である。これは,産婦人科を含めた11診療科の問診票が18言語で翻訳されており,ウェブサイトから無料でダウンロードをすることができる」。
この問診票は、NPO法人国際交流ハーティ港南台と公益財団法人かながわ国際交流財団による共同事業であり、「中国語,韓国朝鮮語,タガログ語,ポルトガル語,スペイン語,ベトナム語,英語,タイ語,インドネシア語」等の18言語に対応している。厚生労働省の5言語(後に拡充)と比較しても、より多くの言語をカバーする、地域の国際交流団体による先駆的な取り組みである。
3.2 「日本語併記」という設計の要
同解説では、この問診票の設計上の重要な特徴が示されている。「すべての問診票が日本語との併記であり,チェックするポイントの選択形式になっていることから,患者の話す言語が分からない医療関係者も診療科目の必要最低限の情報を把握することができる」。
この「日本語併記」という原則は、極めて重要である。医療従事者が患者の使用言語を理解できなくても、問診票自体が日本語と対象言語を並記していることで、患者が選択した項目を医療従事者が日本語側から確認できる。これは、レポート54で詳述したスタッフの英語力格差という課題に対し、問診票の設計そのものによって対応する、優れた解決策である。
3.3 「症状から探す」という診療科選定支援
同解説では、さらに実用的な機能も紹介されている。「診療科が分からない場合は,症状から探すページも多言語で用意されており,患者に図を示しながら確認することができる」。これは、外国人患者にとって「そもそも自分の症状がどの診療科に該当するのか分からない」という、レポート19で詳述した医療制度理解の困難さに対応する、初診受付段階での重要な支援機能である。
4. 音声翻訳アプリという新しい選択肢
4.1 タブレット活用による受付サポート
近年、紙媒体の問診票に加えて、タブレット端末を活用したデジタル問診・音声翻訳のサービスが急速に普及している。東京都医師会の解説では、複数のサービスが具体的に紹介されている。コニカミノルタが提供するサービスは、「多言語での診療を,タブレットを使って行うことができるサービス。コールセンターへコールする医療通訳,タブレットに話しかける機械通訳,多言語の申込書や問診票をタブレットで入力する受付サポートのサービスがある」とされ、「【英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語】24時間365日」という高い対応力が示されている。
4.2 会話の可視化という信頼性向上の工夫
同解説では、別のサービス「M-talk」についても紹介されている。「医療スタッフの外国人患者対応をサポートするアプリ。受付(身分証確認等)・症状確認・会計そして診察補助会話など医療スタッフが聞きたいことを伝えて確認する(会話内容は各国の医療スタッフが翻訳)」とされ、「タブレット画面をタップしての会話となるので,病院スタッフ誰でも外国人と対応が可能となる」という設計思想が示されている。
特筆すべき応用例として、「聴覚障害の患者様に使用した事例あり(会話同時併記の為)」という記述がある。これは、多言語対応ツールとして開発された技術が、聴覚障害という別の情報アクセス課題にも応用可能であることを示す、興味深い波及効果である。
4.3 医療特化の定型文プリセットという実用性
凸版印刷が提供する「VoiceBiz®」の解説では、医療現場特化型の設計思想が具体的に示されている。「病院での利用を想定した『医療機関における看護師用定型文』がプリセットされているので,サービス利用開始からすぐに受付・看護での外国人対応に使っていただけます」とされ、「この2週間以内に,発熱や風邪のような症状はございませんか?」「現在飲んでいる薬はありますか?」「お薬手帳を持っていますか?」という、実際の看護実務に即した定型文が用意されている。
音声翻訳13言語・テキスト翻訳30言語という対応幅の広さも特徴的であり、「基本の英語はもちろん,多くの言語対応が可能。多言語×医療用語の翻訳に対応した『VoiceBiz®』で,英語以外の外国語話者の来院・入院も安心して対応できます」とされている。
4.4 「言葉が通じなくて困った」という原点
株式会社ミウラが提供する多言語問診票システム(MultiQ)の解説では、こうしたツールが解決しようとする根本的な課題が、端的に示されている。「外国人が日本の医療機関を受診した時,『言葉が通じなくて困った』という声をよく聞きます」とされ、「ネイティブによる音声ガイダンスと豊富なアニメーションが特徴で直感的に理解ができ操作も簡単です」という、患者側の使いやすさを重視した設計思想が示されている。
5. 医療通訳サービスとの統合的な活用
5.1 予約不要という緊急対応への配慮
DOC WEBが紹介する医療翻訳サービス「メディフォン」の事例では、こうした多言語ツールが緊急対応の場面でも重要な役割を果たすことが示されている。「予約なしで多言語に対応することができるようになりますので,多くの外国人患者を受け入れるクリニックはもちろんですが,希少言語に対応する必要があるクリニック,飛び込みや一次救急の受入れもされているクリニック,また,訪問診療を行うクリニックにお役立ちできればと思います」。
これはレポート54で詳述した24時間対応の電話通訳サービスの重要性と一致する視点であり、予約制の通訳サービスだけでなく、突発的な受診にも対応できる即応性が、実務上極めて重要であることを示している。
5.2 自由診療領域での戦略的活用
同解説では、こうしたツールが単なるコスト(コンプライアンス対応)としてではなく、経営戦略上の機会としても位置づけられていることが示されている。「特に自由診療分野では,保険診療とは異なり診療価格を医療機関が任意で設定できますので,近年需要が増えてきた医療ツーリズムを受け入れたり,観光客や健診などの自由診療の外国人患者を積極的に受け入れて収益につなげたいと考えている先生にも有用です」。
これはレポート53で詳述した未収金対策の観点からも重要である。多言語問診票による正確な症状把握・事前の費用説明の充実は、未収金リスクの低減にも間接的に寄与する。
5.3 医療インバウンド市場という新たな成長機会
DOC WEBの別の解説では、こうした多言語対応サービスへの投資の経済的背景も示されている。「2024年の世界の医療インバウンド市場は約10兆円規模に達しており,日本政府も医療インバウンドを重要な成長戦略と位置付けています」とされ、経済産業省による「医療インバウンドの適切な推進の在り方に関する検討会」(2024年12月)の存在も紹介されている。
6. 適切なツール選定という実務的判断
6.1 診療圏特性に応じた選択
DOC WEBの解説では、こうしたサービスの要否を判断する具体的な視点が示されている。「クリニックにおいても,診療圏が観光地に近いまたは外国人居住者が多い場合や,医療ツーリズムの外国人を受け入れる経営戦略がある場合は,医療通訳を検討する必要があると言えるでしょう」。
これは、レポート54で詳述した「来院する外国人患者の国籍データを分析し,優先度を決める」という戦略的判断の原則と一致する。すべての医療機関が同一水準の多言語対応を整備する必要はなく、自院の診療圏特性に応じた投資判断が求められる。
6.2 紙媒体・デジタルツール・通訳サービスの組み合わせ
本レポートで紹介した3つのアプローチ——厚生労働省の紙の説明資料、NPO・医師会による18言語対応問診票、タブレット型の音声翻訳アプリ——は、互いに排他的な選択肢ではなく、組み合わせて活用すべき補完的な手段である。初診時の基本情報収集には無償の紙媒体ツール、詳細な症状聴取にはタブレット型の音声翻訳、そして緊急時・専門的な内容には医療通訳サービスという、場面に応じた使い分けが実務上有効である。
7. アレルギー疾患領域における実践
7.1 多言語問診票へのアレルギー特有項目の追加
レポート26で詳述したアレルギー科特有の問診項目(季節性・曝露歴・アレルギー検査歴等)は、標準的な多言語問診票にはカバーされていない可能性がある。編集可能な厚労省フォーマットを基に、自院の診療科特性に応じたアレルギー特有の質問項目を、可能であれば専門の翻訳を通じて追加することが、より精度の高い初診対応につながる。
7.2 緊急性トリアージ項目の多言語での明確化
レポート14で詳述したアナフィラキシー等の緊急性トリアージ項目は、言語の壁がある中でも確実に伝わる必要がある、最優先度の高い問診項目である。前述の音声翻訳アプリのプリセット定型文に、こうした緊急性判断のための質問(呼吸困難の有無・顔面や喉の腫れの有無等)を明示的に組み込むことが、患者安全の観点から重要である。
8. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
8.1 疾患特化型の多言語問診テンプレートの開発支援
製薬企業が、自社の関連疾患領域(アレルギー・睡眠時無呼吸症候群等)に特化した多言語問診テンプレートを開発し、レポート26で詳述した医学的に妥当な問診設計の知見と組み合わせて医療機関に提供することは、レポート37で詳述した疾患啓発活動の一環としても価値の高い取り組みとなる。
8.2 音声翻訳アプリベンダーとの連携
凸版印刷「VoiceBiz®」のような音声翻訳サービスに、疾患特有の医療用語・定型フレーズを追加登録する機能を活用し、製薬企業が自社の関連疾患領域における医学的に正確な多言語表現を提供することは、翻訳精度の向上に直接的に貢献する。
9. まとめ
多言語問診票の設計・運用は、外国人患者の医療アクセスにおける、最も具体的かつ実務的な課題領域である。厚生労働省による公的な多言語説明資料(選択肢形式・継続的な言語拡充)、NPO・医師会による18言語対応の専門的な問診票(日本語併記・症状からの診療科選定支援)、そして近年急速に普及する音声翻訳アプリ(医療特化の定型文プリセット・24時間対応)という3つのアプローチは、それぞれ異なる強みを持ち、互いに補完し合う関係にある。
「言葉が通じなくて困った」という患者側の切実な声から出発したこれらのツールは、単なる翻訳機能を超え、選択肢形式による正確な情報把握、日本語併記による医療従事者側の理解支援、そして予約不要の即応性という、実務上重要な設計上の工夫を積み重ねて発展してきた。
医療インバウンド市場が10兆円規模に達する中、こうした多言語対応ツールへの投資は、単なるコンプライアンス対応を超えた、経営戦略上の重要な選択肢となりつつある。自院の診療圏特性・患者層の実態を踏まえ、紙媒体・デジタルツール・通訳サービスを適切に組み合わせることが、レポート53・54で詳述した未収金対策・院内対応体制とあわせて、持続可能な外国人患者受け入れ体制の基盤となる。
参考情報・出典
厚生労働省「外国人向け多言語説明資料 一覧」
日本産婦人科医会「多言語医療問診票」(NPO法人国際交流ハーティ港南台・公益財団法人かながわ国際交流財団)
株式会社ミウラ「多言語問診票システム(MultiQ)」
東京都医師会「外国人医療」(コニカミノルタ・M-talkサービス紹介)
凸版印刷「医療英語・多言語音声翻訳アプリ『VoiceBiz®』」TOPPAN NEWNORMAL
DOC WEB「外国人患者対応はもう怖くない!医療翻訳サービス『メディフォン』」
DOC WEB「【2025年最新】オンライン医療通訳サービス比較|外国人患者対応に強いクリニックで差別化を図る」
外国人患者受入れ情報サイト「多言語ツール」
本レポートは公開情報に基づき作成した調査レポートであり、個別の経営判断を目的とするものではありません。多言語ツールの導入・活用にあたっては、各提供団体・企業の最新情報をご確認ください。
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