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活動報告
院内での英語対応体制の設計 国立国際医療研究センターの実践に学ぶスタッフ研修・通訳連携・多言語サイン
JMWO-RR-0054
最終更新日 2026/7/1
院内での英語対応体制の設計 国立国際医療研究センターの実践に学ぶスタッフ研修・通訳連携・多言語サイン
院内での英語対応体制の設計
国立国際医療研究センターの実践に学ぶスタッフ研修・通訳連携・多言語サイン
日本医療福祉機構 調査レポート|関連プロジェクト:多言語医療アクセスプロジェクト
- 院内での英語対応体制の設計
- 国立国際医療研究センターの実践に学ぶスタッフ研修・通訳連携・多言語サイン
- 1. はじめに――Webサイトが「入口」なら、院内対応は「本番」
- 2. 院内英語対応の構造的な難しさ
- 2.1 「英語力格差」という組織的な課題
- 2.2 職種別に求められる英語力の違い
- 2.3 「日常英会話」ではない専門性という認識
- 3. 段階的な体制構築という実践的アプローチ
- 3.1 「最低限の対応」からの段階的整備
- 3.2 優先言語の選定という戦略的判断
- 3.3 継続的な研修という原則
- 3.4 研修内容の具体的な構成
- 4. 通訳サービスとの適切な役割分担
- 4.1 「すべてを自前で」という誤解の回避
- 4.2 医療通訳の専門性という留意点
- 4.3 公的支援制度の活用
- 5. 先進的医療機関の実践事例
- 5.1 国立国際医療研究センターの多層的な体制
- 5.2 「日常会話ができても医療上の対話には支障」という重要な認識
- 5.3 文化的配慮を含む包括的な環境整備
- 5.4 JMIP申請を契機とした組織的な体系化
- 5.5 「見極め」と「連携」という現実的な限界の認識
- 6. アレルギー疾患領域における実践
- 6.1 症状の詳細な聴取という課題
- 6.2 緊急対応時の多言語コミュニケーション
- 7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
- 7.1 医療機関向け多言語対応資材の提供
- 7.2 医療通訳の専門教育への支援
- 8. まとめ
- 参考情報・出典
1. はじめに――Webサイトが「入口」なら、院内対応は「本番」
レポート18で詳述した外国人患者対応のWeb設計は、患者が医療機関にたどり着くまでの「入口」の設計であった。しかし、実際に患者が来院した後——受付・問診・診察・会計という一連のプロセス——における英語対応の質こそが、外国人患者にとっての医療体験そのものを決定づける。レポート53で詳述した未収金・医療通訳費用という経営課題の背景にも、こうした院内対応の体制不備が影響している。
本レポートでは、プロジェクト14「多言語医療アクセス」の2本目として、院内での実際の英語対応——スタッフ研修の設計、通訳サービスとの連携、そして先進的な取り組みを行う医療機関の具体的な実践事例——に焦点を当てる。医療英語オンラインスクールHLCAの解説が示すように、「受付・診察・検査・会計と、どの持ち場でも『とっさにひと言が出てこない』という声をよく聞きます」という現場の実感を出発点に、医療機関経営者・看護部門・医事課担当者・製薬企業担当者が活用できる、実践的な院内体制設計の知見を詳述する。
2. 院内英語対応の構造的な難しさ
2.1 「英語力格差」という組織的な課題
オンライン英会話研究室の解説では、医療機関内における英語対応能力の偏りが、重要な構造的課題として指摘されている。「医療機関内でのスタッフ間の英語力格差も深刻な問題です。一部のスタッフのみが英語対応を担当することで,業務の偏りが生じ,結果として組織全体のサービス品質にばらつきが生まれます。また,英語対応可能なスタッフが不在の際には,適切な医療サービスを提供できない状況も発生します」。
この指摘は、レポート25で詳述した医療機関の業務設計における属人化のリスクと同じ構造を持つ。「英語ができる特定のスタッフ」に依存する体制は、そのスタッフが不在の時間帯・曜日に対応できないという脆弱性を抱えており、組織的な体制構築が必要であることを示している。
2.2 職種別に求められる英語力の違い
Pekoe Magazineの解説では、病院受付業務における英語力の要件が、担当業務によって異なることが整理されている。「病院の受付業務は,大きく『受付事務』と『医療事務』に分けられ,担当する業務内容や対応範囲が異なることから,求められる英語力にも違いがあります」とされる。医療事務においては、「保険確認・診療報酬請求(レセプト)対応」という専門性の高いやり取りが必要となるため、より高度な英語運用能力が求められる。
2.3 「日常英会話」ではない専門性という認識
オンライン英会話研究室の解説では、医療機関向け英語研修が一般的な英会話研修とは異なる専門性を要することが強調されている。「医療機関向け英語研修は,『日常英会話』ではなく『医療現場に特化した英語』が求められます」とされ、「医療従事者経験者や,医療通訳士資格を持つ講師が在籍しているかは信頼性の証です」という、研修選定における具体的な着眼点も示されている。
3. 段階的な体制構築という実践的アプローチ
3.1 「最低限の対応」からの段階的整備
HLCA(医療英語オンラインスクール)の「外国人患者対応マニュアル」では、医療機関がゼロから体制を構築する際の、現実的な優先順位が示されている。「まずは多言語の問診票と指差しシートを準備し,電話通訳サービスと契約することで最低限の対応が可能になります。並行して,スタッフの英語研修を段階的に導入していくとよいでしょう」。
この「まず最低限の受け皿を作り、並行してスタッフの能力を育てる」という段階的アプローチは、すべてのスタッフが即座に高い英語力を身につけることを前提とせず、現実的な体制整備の道筋を示している。
3.2 優先言語の選定という戦略的判断
同解説では、対応言語の優先順位についても具体的な指針が示されている。「来院する外国人患者の国籍データを分析し,優先度を決めましょう。一般的には英語・中国語・ベトナム語・韓国語の4言語を押さえておけば,多くの外国人患者に対応できます」。
これは、レポート19で詳述した在留外国人の国籍構成の変化(東南アジア・南アジア出身者の増加)を踏まえた、地域の実情に応じた言語対応の優先順位付けの重要性を示している。すべての言語に均等に対応しようとするのではなく、自院の患者層の実態データに基づいた戦略的な資源配分が求められる。
3.3 継続的な研修という原則
同解説では、研修の実施頻度についても具体的な提言がなされている。「最低でも月1回,30分〜1時間程度の研修が理想です。集中的に行うよりも,短時間でも継続することがスキル定着には効果的です」。
この「短時間でも継続」という原則は、レポート47で詳述した医療情報の継続的な更新という考え方とも通じる、一過性の取り組みではなく、組織文化として定着させることの重要性を示している。
3.4 研修内容の具体的な構成
HLCAの解説では、研修プログラムの具体的な構成要素も示されている。「スタッフの英語力レベルを把握(自己申告アンケートor簡易テスト)」「最も英語が必要な部署・場面を特定する」という現状把握のステップから、「場面別フレーズ研修:受付・問診・検査説明・会計の場面ごとに使えるフレーズを集中的に練習」「ロールプレイ研修:外国人患者役とスタッフ役に分かれて実践練習」「文化理解研修:宗教・食事・ジェンダーに関する基礎知識」という3段階の実践的な研修構成が示されている。
「文化理解研修」の存在は特に重要である。英語という言語能力だけでなく、レポート53で詳述した多様な文化的背景を持つ患者への理解が、実質的なコミュニケーションの質を左右することを示している。
4. 通訳サービスとの適切な役割分担
4.1 「すべてを自前で」という誤解の回避
HLCAの解説では、スタッフの英語対応と通訳サービスの活用が、対立する選択肢ではなく、補完関係にあることが強調されている。「すべてのスタッフが外国語対応できるわけではありません。医療通訳サービスを上手に活用することで,正確なコミュニケーションを確保できます」とされ、「通訳サービスに頼るだけでなく,スタッフ自身が基本的な英語対応力を身につけることで,日常的な外国人患者対応がスムーズになります」という、両者のバランスの重要性が示されている。
4.2 医療通訳の専門性という留意点
同解説では、通訳サービス選定における重要な注意点が示されている。「医療通訳の研修を受けた通訳者を選ぶ(一般通訳と医療通訳は求められるスキルが異なる)」とされ、専門用語・臨床的なニュアンスを正確に伝える医療通訳特有の専門性が強調されている。
さらに、「患者の家族を通訳代わりにするのは避ける(正確性やプライバシーの問題がある)」という重要な原則も示されている。これは、レポート21で詳述した医療機関のコミュニケーションにおける正確性の重要性が、多言語対応の文脈でも同様に適用されるべきことを示している。
4.3 公的支援制度の活用
同解説では、コスト面での実践的な選択肢も示されている。「自治体の医療通訳派遣制度を活用する(無料または低コストで利用可能な地域あり)」「緊急時用に24時間対応の電話通訳サービスと契約しておく」という具体的な手段が挙げられており、レポート53で詳述した「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」(認知度69.9%)のような、既存の公的支援の活用が実務的な選択肢として重要である。
5. 先進的医療機関の実践事例
5.1 国立国際医療研究センターの多層的な体制
医師求人サイト(リクルートドクターズキャリア)が紹介する国立国際医療研究センター(NCGM)の事例は、院内体制構築の先進例として極めて参考になる。同施設では、「医療通訳では,受付,会計,総合案内に英語対応可能なスタッフを配置しているほか,英語,中国語,韓国語を使えるスタッフが勤務。さらに13か国語の電話通訳を,英語,中国語,韓国語,スペイン語,ポルトガル語については24時間,タイ語,ベトナム語,ネパール語などは平日日中で提供している」という、極めて多層的な体制が整備されている。
さらに、「国際診療部の医療コーディネーターは現在4人で全員が看護職。専門知識を必要とする調整業務にあたる」という、専門職種としての医療コーディネーターの配置も特徴的である。
5.2 「日常会話ができても医療上の対話には支障」という重要な認識
同施設の担当者の言葉として、「日本語で日常会話ができる患者さんでも,医療上の対話には支障をきたすケースもあり,適切な医療提供のために通訳サポートが必要な場面は多い」という、極めて重要な臨床的知見が示されている。これは、レポート26で詳述した体系的な問診(OPQRST・SAMPLE法等)における専門的な症状の聴取が、日常会話レベルの語学力だけでは不十分であることを示す、実務上重要な視点である。
5.3 文化的配慮を含む包括的な環境整備
同施設の事例では、言語対応にとどまらない、文化的配慮の実践も紹介されている。「イスラム教徒のために祈祷室を設置。手足を清める洗い場やメッカの方向を示す表示など必要な機能を備えた」という具体的な設備投資は、レポート27で詳述した院内空間設計が、多文化共生という新たな観点からも再考されるべきことを示している。
「通訳が利用できる言語を表示。案内板も英語,中国語,韓国語などの併記を順次進めている」というサイン計画の取り組みも、レポート27で詳述したサイン計画の原則を多言語対応の文脈で発展させた実践例である。
5.4 JMIP申請を契機とした組織的な体系化
別の医療機関の事例では、認証制度の活用が組織的な取り組みを促す契機となったことが示されている。「JMIP申請をきっかけに,各人,各部署の経験やノウハウが体系化され,意義深い取り組みとなりました」(市岡氏)とされ、「他部署の取り組みから学んだり,刺激を受けたりと,横の連携もでき,院内の士気も高まったように感じます」(岡内真由美氏)という、組織文化としての定着効果も報告されている。「文化の違い,接し方などについて講師を招いて行っている院内研修には,医師も積極的に参加」という記述も、レポート53で詳述したJMIPという認証制度が、単なる認証取得を超えた組織的な学習効果をもたらすことを示している。
5.5 「見極め」と「連携」という現実的な限界の認識
同記事では、施設の限界を認識した上での現実的な対応も示されている。「外国人患者対応に苦慮する施設では,『どんな患者なら受入可能か見極める,紹介できる施設を把握しておく,等の対策も重要だと思います』」とされ、「外国人患者対応では,他施設との連携も必要になる。同施設では,院内のみならず,周辺の医療機関などへも,対応力向上等を目的とした研修も行っている」という、地域全体での連携という視点も示されている。
6. アレルギー疾患領域における実践
6.1 症状の詳細な聴取という課題
レポート14で詳述した対面受診の判断において、アレルギー症状の重症度評価には、詳細な症状の聴取(いつから、どの程度、何がきっかけか等)が不可欠である。前述の「日常会話ができても医療上の対話には支障」という知見を踏まえると、アレルギー科・呼吸器内科のような詳細な問診を要する診療科では、通訳サービスの積極活用が特に重要である。
6.2 緊急対応時の多言語コミュニケーション
レポート14で詳述したアナフィラキシーのような緊急症例では、迅速なコミュニケーションが生命に関わる。前述のNCGMの事例のように、24時間対応の電話通訳サービスとの契約は、こうした緊急時対応において重要な備えとなる。
7. 製薬企業・医療機器企業担当者への含意
7.1 医療機関向け多言語対応資材の提供
製薬企業が、自社製品の説明資料・服薬指導資料を多言語化し、レポート26で詳述した指差しシートのような形式で医療機関に提供することは、院内対応の実務的な負担軽減に直接的に貢献する。
7.2 医療通訳の専門教育への支援
医療通訳という専門性の高い人材の育成は、医療機関単独では対応が難しい領域である。製薬企業・医療機器企業が、医療通訳養成研修等への学術的支援を行うことは、多言語医療アクセス全体の質向上に資する、社会貢献性の高い取り組みとなる。
8. まとめ
院内での英語対応体制の構築は、単発の語学研修ではなく、段階的かつ継続的な組織的取り組みを要する。「まずは多言語の問診票・指差しシート・電話通訳サービスという最低限の受け皿を整備し、並行してスタッフの英語研修を段階的に導入する」という現実的な優先順位、そして「月1回30分〜1時間程度の継続的な研修」という実践可能な頻度設定が、多くの医療機関にとって現実的な出発点となる。
国立国際医療研究センターの事例が示すように、13か国語の電話通訳・専門の医療コーディネーター配置・祈祷室の設置といった包括的な体制は、言語対応を超えた文化的配慮までを含む、先進的な多文化共生の実践である。「日本語で日常会話ができる患者さんでも、医療上の対話には支障をきたすケースもある」という知見は、院内英語対応の本質的な難しさ——単なる語学力の問題ではなく、専門的なコミュニケーションの正確性の問題であること——を的確に言い当てている。
すべてのスタッフが完璧な英語を話せる必要はない。定型フレーズの整備、通訳サービスとの適切な役割分担、そしてJMIP等の認証制度を活用した組織的な体系化——これらを組み合わせることが、レポート18で詳述したWeb上の入口から始まった患者体験を、院内での実際の診療という「本番」において、確かな信頼へとつなげる鍵である。
参考情報・出典
医療英語オンラインスクールHLCA「外国人患者対応マニュアル|受付から退院まで場面別の英語対応・文化的配慮を解説【病院・クリニック向け】」
医療英語オンラインスクールHLCA「病院での外国人患者対応|すぐ使える英語フレーズ集【場面別50選】」
医療英語オンラインスクールHLCA「医療英語フレーズ集|場面別に看護師・医師向けの実用英会話表現を網羅」
Pekoe Magazine(リコー)「病院の受付対応で使える英語・例文・単語!医療事務向けの英会話や予約・会計でのやり取りを紹介」
リクルートドクターズキャリア「外国人患者受入れ体制をどうするか?」(国立国際医療研究センター国際診療部事例)
オンライン英会話研究室「医療機関の英語研修は本当に必要?徹底比較と失敗しない選び方ガイド」
ソラスト教育サービス「医療事務の仕事で使う英語表現!外国人患者の受付対応もこれで安心」
横浜市「外国人の皆様への情報」(観光庁・厚生労働省の医療機関リスト事業紹介)
本レポートは公開情報に基づき作成した調査レポートであり、個別の経営判断を目的とするものではありません。院内体制の整備にあたっては、厚生労働省「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」等の最新情報をご確認ください。
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